経済学者の視点…賛成より反対の声が大きくなりやすい理由

開発した商品や顧客サービスに対する要望・意見、あるいは政治家に寄せられる有権者から声は非常に貴重ですが、それに沿ったからといって、必ずしも多くの顧客や有権者の満足に直結するとは限りません。今回は、「声をあげる人」と「声をあげない人」それぞれの考え方、感じ方の相違と、それを受け止める側の注意点について解説します。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第28回目です。

不満には声を上げるが、満足している場合は…

筆者が講義をしているとき、「暑いので冷房を入れて下さい」という学生がいたとします。すぐに冷房を入れると、「寒いから冷房を入れないで下さい」という大合唱が起きる可能性があります。

 

そこで筆者は、すぐに冷房を入れるのではなく、必ず「いま、冷房を入れてくれという要望がありましたが、ほかにも冷房を入れてほしいという人がいたら挙手してください」というアンケートをとります。

 

現状に不満な学生は「暑い」と声を出します。しかし、現状に満足している学生は、わざわざ「いまが快適なので、冷暖房のスイッチを動かさないで下さい」とはいいません。そのことに思いを馳せるべきなのです。

 

昔、経済がよくわからない政治家が、選挙区の高齢者から陳情を受けました。「金利が低いと、われわれ金利生活者が困るから、金利を上げてほしい」というのです。そこで、その政治家は、記者会見を開いて「もっと金利を上げなければ」と発言したのです。

 

これには、ふたつの問題がありました。ひとつは、金利を決めるのは日銀総裁の仕事であって政治家の仕事ではない、ということです。もうひとつは、黙っていた人が翌日の選挙区で大騒ぎを始めてしまったことです。

 

選挙区の中小企業の社長たちが大勢押しかけて、「冗談じゃない。我々は金利が低いから生きているのだ。金利が上がったら死んでしまう。記者会見を取り消せ!」というわけです。

「買わなかった客が考えていること」を考える

企業のなかには、顧客からのクレームを製品の改良に生かそうとしているところも多いでしょうが、その際に注意すべき点があります。それは、買わなかった客はクレームをいわない、ということです。

 

「御社の製品を買ったらすぐに壊れた」というクレームを受けたとき、「では壊れにくいように頑丈な製品にしよう」と考えるのが普通ですが、その結果として製品が重くてデザインの悪いものになり、一層売れなくなるリスクもあります。

 

「御社の製品は重くてデザインが悪いから買わなかった」というクレームをいいにくる客はいないので、「買わなかった客はなにを考えているのだろう」と考えてみる必要があるわけです。

 

本当ならば、ライバル店の前で買い物をした客に向かって「なぜわが社の製品ではなく、ライバルの製品を買ったのですか?」とアンケートしたいのですが、実際には難しいでしょうね。

輸入自由化で喜ぶ消費者、怒る農家…人数が多いのは?

政府が農産物の輸入自由化を検討しはじめると、農家が猛烈に反対します。外国の安い農産物が輸入されると自分たちの商品が売れなくなるわけですから、当然のことですね。

 

一方で、筆者を含めた農産物の消費者は、わざわざ自由化賛成運動を繰り広げたりしません。「自由化してくれたら農産物が安く買えるので嬉しいけれども、嬉しさのレベル的にはそこまで高くはないので、わざわざ金と時間をかけて賛成運動をするほどではない」というわけですね。

 

そこで、政治家に聞こえてくる声は自由化反対の声ばかりになりますが、実際には賛成している人の方がはるかに多いので、注意が必要です。

 

ちなみに、賛成派が声を上げない理由のひとつは、皮肉なことに多数派だからです。「農家の損害総額は小さいが、少数の農家で分担するので、1戸あたりの損害が大きい」一方で、「消費者は利益総額は大きいが、多数の消費者に行き渡るので、一人当たりの利益は小さい」ということですね。

 

もしかすると、「利益を受ける消費者は大勢いるのに、自分だけが賛成運動に金と時間を投じる必要はない」という考えも影響しているのかも知れません。

 

もうひとつ、行動経済学という分野の研究では、「人間は100儲かる嬉しさより、100損する悔しさの方が2倍大きい」ということなので、反対運動には熱が入りやすい、ということもあるのかもしれませんね。

 

本稿を通して筆者が伝えたかったのは、だれかがなにかを発言したら、「黙っている人も同じ考えなのだろうか?」と考えてみることが必要だ、ということです。「言うは易く、行うは難し」・・・ですが。
 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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