最低賃金は「労働者目線」で決める!? 経済の効率化が進むワケ

近年では労働力不足が問題になっていますが、問題は労働者が足りないことではなく、低賃金を嫌って労働者が寄り付かないことにあります。最低賃金を引き上げれば、労働力不足は解消し、世の中の事情がわからず安い給料に甘んじている情報弱者も救われるのです。今回は、最低賃金の引き上げによって経済の効率化が実現する流れを解説します。将来の経済不安には、正しい経済学の知識で対抗を。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第20回目です。

労働者を均衡賃金より安い給料で使おうとするから…

価格は需要と供給が一致する所に決まる、というのが経済学の大原則です。これを労働者と雇用者に置き換えて考えた場合、「需要」に該当する賃金を「均衡賃金」と呼びます。そして、上記の大原則(定義)に照らし合わせると、均衡賃金を提示すれば、労働力不足は発生しないはず、ということになります。

 

だとすれば、つまり労働力不足というのは「雇い主が均衡賃金より低い価格を提示しているから、労働者が集まらない」ということにほかなりません。

 

たとえば筆者が「牛肉1キロを10円で買いたい」という広告を出したとしても、売ってくれる人はいないでしょう。けれども、その状況を見て「日本は牛肉不足だ」とは言わないはずです。

 

したがって、問題は労働力不足にあるのではなく、均衡賃金より安い時給で労働者を募集している雇い主にあるのです。

最低賃金を「均衡賃金」にまで引き上げるべき

最低賃金を均衡賃金にまで引き上げることで、2つのメリットがあります。

 

ひとつは、均衡賃金を知らない経営者が「労働者を募集しても応募が来ない」という無駄な悩みを持たずにすむことです。もちろん、均衡賃金以下であることを知りながら「情報弱者の労働者が応募して来るのを待っている」というケシカラン経営者を排除できる、ということもあるわけですが。

 

もうひとつは、現在その会社で働いている労働者が正当な賃金を受け取れるようになることです。「均衡賃金以下の時給で労働者を募集しているから応募がない」という会社は、現在働いている労働者に対しても均衡賃金を下回る時給しか払っていないはずです。

 

その労働者は、ほかにもっと高い時給の仕事があることを知らない「情報弱者」なのかもしれませんし、知っていても「辞めます」といい出せない優しい性格の人なのかもしれませんが、いずれにしても可哀想ですから、状況を改善してあげるべきでしょう。

会社間の「値下げ合戦」が緩和される可能性も

日本の会社は、過当競争体質だといわれています。ライバルより1円でも安く売ろうとして値下げ合戦を繰り広げている業界も多いでしょう。そうした業界では、各社ともに頑張っているのに利益が出ず、労働者に均衡賃金を支払うことができていないかもしれません。

 

そんなときに最低賃金が引き上げられれば、各社が値下げ合戦をやめ、場合によっては値上げをはじめるかもしれません。

 

自社だけがコストアップしてしまった場合は、値上げすることでライバルに客を奪われてしまいます。しかし、ライバルも同時にコストアップになっている場合は、ライバルも値上げをすることが予想できるため、自分も気楽に値上げをすることができます。

非効率な会社が廃業に至るのは仕方ない

経営が苦しくて均衡賃金を支払うことができない会社もあるでしょうが、そうした会社は廃業する(他社に吸収合併される等々を含む)しかないでしょう。経営者には同情しますが、競争社会ですから、敗者が去るのは仕方がないことです。

 

そうした会社の多くは、生産性が低い会社ですから、生産性の低い会社で働いていた労働者が生産性の高い会社に移動することになり、日本経済全体としては効率化が進むでしょう。

 

当該会社で働いていた労働者も、今までより待遇がいい会社で働けるようになるはずです。そう考えると、非効率な会社の廃業は、むしろ望ましいことだといってもいいかもしれません。

ただし、景気が悪化したら最低賃金を下げる必要も

非常に重要なことですが、景気が悪化したら、最低賃金を下げる必要があります。景気が悪化して労働力の需要が減少すれば、均衡賃金も低下するからです。均衡賃金が下がったのに最低賃金が下がらないと、大量の失業が出てしまい、悲惨な状況になりかねません。

 

実際には、半年後か1年後の景気を予測して、悪化しそうならば早めに最低賃金を引き下げる必要があるでしょう。これは容易なことではありませんが、日銀が金融政策を考える際にも半年後か1年後の景気を予測しながら行なっているわけですから、それと同様に考えればいいでしょう。

 

今回は、以上です。

 

 

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塚崎 公義

久留米大学教授

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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