過去にボールが当たった?目を支える「チン小帯」がゆるむ原因

「モノがぼやけて見える」「目がかすむ」「光がいつもよりもまぶしい」など、気にはなりつつも、見過ごしてしまっている「目」についての悩みはないでしょうか。そんな悩みを抱えたままでは、日々の不安が募るばかりです。本連載では、白内障・緑内障・網膜剥離手術に強みをもつ、はんがい眼科・院長の板谷正紀氏が、眼病の症状やその対処法について解説します。

水晶体のふくろと周囲の筋肉をむすぶチン小帯とは

一般的に行われている白内障手術「超音波乳化吸引術」は、すべての外科手術のなかで、もっとも安全な手術のひとつといわれます。しかし少数ではありますが、この手術が難しくなってしまう「ハイリスク白内障」があります。

 

ハイリスク白内障に分類される症例のなかで、特に手術の難しくなるケースが、水晶体を周りの筋肉と結びつけて固定する「チン小帯」が弱くなっているときです。

 

チン小帯といっても、多くの人は何のことかピンとこないかもしれません。しかし、目がピントを合わせられるのはチン小帯のお陰ですし、いつも目の中心に水晶体が安定してあるのも、チン小帯のお陰です。その大切なチン小帯が弱かったり、切れていたりすると、白内障の手術は急に難しくなりますし、術後の眼内レンズの固定も悪くなります。

 

水晶体は目のなかの浮島のようなもの。水晶体はチン小帯で支えられています。チン小帯は白内障手術の命。これほど大事なチン小帯。

 

あなたのチン小帯は大丈夫でしょうか? 白内障手術を検討している人は、ぜひ知っておいてください。

 

◆そもそもチン小帯とは

 

チン小帯とは、水晶体を包んでいるふくろ(水晶体嚢〔すいしょうたいのう〕)と、その周囲の筋肉・毛様体筋(もうようたいきん)をつないでいる線維組織です。

 

より詳しくいうと、毛様体筋は、水晶体の周囲をぐるりと囲むリング状の筋肉ですが、そこから細い糸状のチン小帯が無数に伸びて、中央にあるマーブルチョコ状の水晶体を、ハンモックのように吊っている感じです。

 

チン小帯1本1本は非常に細いものですが、たくさんの数が集まって水晶体をつなぎとめています。

 

水晶体を包んでいるふくろを支える「チン小帯」
水晶体を包んでいるふくろを支える「チン小帯」

 

◆チン小帯がピント調節に果たす役割

 

チン小帯はこのように非常に微細な組織ですが、実は私たちが普段ものを見るときに大活躍しています。

 

遠くを見るときは、毛様体筋がゆるんでリングが広がると、チン小帯はまわりに広がるように引っぱられます。これによって、水晶体もまわりへ引かれて薄くなり、遠くにピントが合います。逆に近くを見るときは、毛様体筋はギュッと収縮してリングが狭くなり、チン小帯はゆるみます。

 

そうすると、チン小帯が水晶体にかけていたの力はゆるみ、水晶体は本来の厚みへと戻るのです。そして、近くにピントが合うようになります。

 

◆チン小帯が弱くなると白内障手術の難易度がアップ

 

チン小帯は、水晶体を固定する役割もあります。チン小帯が広い範囲で切れると、水晶体が本来の位置からずれてしまうこともあります(水晶体脱臼)。さらにチン小帯断裂が全周に及ぶと、水晶体は目の奧に落下します(水晶体落下)。

 

白内障手術では、チン小帯が健全なら、手術中も水晶体は固定されているため、安心して手術ができます。ところが、チン小帯が伸びてゆるんでいたり、部分的に切れてしまっていたりすると、水晶体が不安定になって、手術の難易度が途端に上がってしまうのです。

 

一番怖いのは、超音波乳化吸引の操作中に、水晶体のふくろが吸引口に吸い込まれて破れてしまうことです。特殊な工夫をして、なんとかふくろを破らずに水晶体の中身を取り除けたとしても、そのままでは、眼内レンズを中心に傾けずに固定するのが難しくなることが多いです。

 

通常の白内障手術とは異なる、いくつかの特殊な技術を駆使して白内障手術を行います。これができれば、術後、よく見える目に変われます。

チン小帯が弱くなるのは加齢や外傷などが原因

チン小帯が弱くなる原因には、次のようなものがあります。

 

◆加齢による弱化

 

年齢が高くなると、肌にもハリがなくなるように、新陳代謝が遅くなって支持組織は弱くなります。皮膚と同様に支持組織であるチン小帯も、例外ではありません。年齢が高くなるほど、チン小帯が徐々にゆるんでいきます。

 

もちろん個人差があるので一概にはいえませんが、一般には80歳を超えると、チン小帯の弱い目が急に増える印象があります。

 

◆落屑症候群(らくせつしょうこうぐん)

 

「落屑症候群(らくせつしょうこうぐん)」とは、瞳孔や水晶体に白い粉のようなものが沈着してくる症状をいいます。これは、チン小帯が弱くなる代表的な病気です。

 

白い粉のようなものは落屑とも偽落屑ともいいますが、これがチン小帯に付着すると、チン小帯が弱くなって断裂が起きやすくなります。落屑症候群で前房(角膜と水晶体の間のスペース)が浅い目は、本当にチン小帯が脆くなってしまっていて、手術は困難を極めます。

 

落屑症候群の原因は詳しくわかっていませんが、LOXL1という遺伝子のあるタイプで起こりやすいことがわかっています。高齢になるほど症例が増えることが知られており、実際、高齢化の進んでいる地域で多く見かけます。

 

落屑症候群があるとチン小帯が弱くなるだけでなく、緑内障にもなりやすくなります。これを落屑緑内障といいます。落屑緑内障は、進行が速いうえ、手術もあまり効果的でなく、通常の緑内障よりも治療が困難です。

 

この落屑緑内障の目で白内障が進み、手術が必要になったとき、最も厳しい状況が発生することがあります。

 

なんとか水晶体のふくろを破らずに手術はできたが、チン小帯が180度以上切れていて、ふくろのなかに眼内レンズを固定することは難しいとなったとき、眼内レンズ縫着や眼内レンズ強膜内固定術で、眼内レンズを固定します。

 

ところが、眼内レンズ縫着や眼内レンズ強膜内固定術では、白目の結膜を切るため、緑内障手術の効果が効きにくくなるというジレンマが生じるのです。

 

最近は、結膜をあまり切らなくても済む強膜内固定術が考案されています。落屑緑内障の人は、緑内障も深く理解している眼科医に白内障手術を受けるべきでしょう。

 

落屑症候群にかかっている目のスリット写真。水晶体の表面や瞳孔の縁に白い粉が付着しています
落屑症候群にかかっている目のスリット写真。水晶体の表面や瞳孔の縁に白い粉が付着しています

 

◆事故、外傷による断裂など

 

目の周辺を強くぶつけた、ものが目に当たったといった場合も、注意が必要です。交通事故でも時折、事故の衝撃で虹彩(こうさい)がちぎれてしまい、虹彩断裂が起きることがあります。こういうケースでは、目に強い外圧がかかることで、チン小帯がゆるんでしまったり、切れてしまったりすることも。

 

過去に交通事故に遭った、ボールなどが目に当たったといった経験がある人は、その情報も眼科医に伝えておくと安心です。

 

◆緑内障や網膜剥離(もうまくはくり)の手術による影響

 

緑内障手術や網膜剥離(もうまくはくり)などの手術を受けた目は、チン小帯にダメージを受けている場合があります。もともとの病気の影響か、手術の影響か判然としませんが、チン小帯に問題があることを想定しておくべきです。

チン小帯が弱い場合に必要な4つの手術テクニック

◆超音波乳化吸引を完遂し、眼内レンズを確実に固定するための2つのテクニック

 

チン小帯が弱くなっている目の白内障手術はポイントがあります。

 

(1)不安定な水晶体のふくろを支えながら超音波乳化吸引を完遂する、(2)眼内レンズを確実に固定する、の2つです。

 

チン小帯が切れると水晶体のふくろが不安定になり、そこに眼内レンズを入れても、傾いてしまって、視力が十分にでないからです。ときには、水晶体や眼内レンズが目の内部に落ちてしまうこともあります。以下に、チン小帯が弱い場合に有効な手術テクニックをまとめます。

 

(1)不安定な水晶体のふくろを支えながら、超音波乳化吸引を完遂するためのテクニック

 

①丸い前嚢切開に4本程度のフックをかけて、支えながら超音波乳化吸引を行う

 

チン小帯が弱かったり切れていたりすると、簡単に水晶体のふくろが吸い込まれ、破れてしまいます。そこで丸く切開した前嚢に4カ所フックをかけ、吸い込まれにくいようにして超音波乳化吸引を行います。

 

切開した水晶体のふくろにフックをかけて固定します
切開した水晶体のふくろにフックをかけて固定します

 

②高分子ヒアルロン酸で、水晶体核がなくなったふくろのスペースを膨らまし、超音波乳化吸引を行う

 

超音波乳化吸引が半ば進んだころ、水晶体核が取り除かれ空になった部分のふくろは、たとえフックで支えていても赤道部分が吸い込まれてきます。

 

そこで、固まりやすい高分子ヒアルロン酸を、吸引除去した核の代わりに注入し、ふくろがふくらんだ状態で超音波乳化吸引を行います。

 

(2)チン小帯が断裂している場合に眼内レンズを固定するテクニック

 

①チン小帯が断裂している範囲が、目安として120度以内の場合

 

「水晶体嚢拡張リング」を水晶体のふくろのなかに挿入し、補強した上で、眼内レンズをふくろのなかに入れます。

 

水晶体嚢拡張リング
水晶体嚢拡張リング

 

②チン小帯が断裂している範囲が120度を越える場合

 

水晶体のふくろでの固定はあきらめて、「強膜内固定術」や「眼内レンズ縫着術」で目の強膜という丈夫な壁に固定します。「強膜内固定術」はこの10年で発展し主流になってきています。いずれにせよ、硝子体をきれいに切除して行うことが重要です。

 

◆強膜内固定術

 

目の強膜(いわゆる白目の部分)に小さな穴を2か所あけ、そこに眼内レンズのループ(足)を差し込んで固定する手術法です。

 

強膜内固定術
強膜内固定術

 

◆眼内レンズ逢着術

 

眼内レンズのループ(足)を、目に糸で縫い付けて固定する手術法です。この手術では、複雑な縫合の技術が必要になります。

「自覚症状」はなし。眼科で検査を受けることが重要

このように、チン小帯が弱くなっていると、白内障手術にも特殊な技術が必要になります。ただし、チン小帯が伸びたり切れたりしていても、自覚症状はまずありません。

 

チン小帯が弱くなることで知られる「落屑症候群」にしても、自分で鏡のなかの目をのぞき込むと白い粉が見える、というものではありません。やはり眼科での検査によって、こうした症状がないかどうかを診てもらうことが大切です。

 

眼科では、患者さんがあごを台に乗せ、医師が目に細い光を当てて目の状態を見る「細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査」というものがあります。この検査をすると、チン小帯が弱くなっている人は、眼球を上下左右に動かしたとき、ぶらぶらになった水晶体が揺れる(水晶体震盪〔すいしょうたいしんとう〕)こともありますし、瞳孔から水晶体がずれて伸びたヒモが見えるようなケースもあります。

 

ほかにも、落屑症候群の有無や水晶体が前にでている(浅前房〔せんぜんぼう〕)かどうかなども、各種の検査でおおむねわかります。なかには、座位で行う細隙灯顕微鏡検査ではチン小帯の異常を見いだせず、手術を開始してはじめて気がつくケースもあります。

 

常に油断せず、チン小帯のことを想いながら、手術を行うことが大切なのです。

 

検査をすることで、あらかじめチン小帯が弱いことが予想できる場合が多いので、術前にしっかり目の状態を診てもらうことが大切です。

 

★板谷院長のひとことアドバイス

 

水晶体を支持する無数の線維であるチン小帯が脆弱だと一気に手術の難度が高まります。特に、落屑症候群は要注意です。水晶体のふくろを支えて手術を行ったり、眼内レンズを強膜に固定するなど特殊技術を駆使する必要があるのです。

 

★まとめ

●ハイリスク白内障のなかで最も手術が難しい症例としてチン小帯が弱くなっているケースが挙げられます。

●チン小帯が弱いと、水晶体のふくろが破れるなど、トラブルのリスクが高まります。ふくろを安定化させる特殊な手術テクニックで対応できます。

●チン小帯が断裂している範囲が広い場合には、眼内レンズを目の壁に固定する手術が必要になります。

 

 

板谷 正紀

はんがい眼科 院長

 

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はんがい眼科 院長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/

著者紹介

連載眼科院長がやさしく解説!「目」に関する不安を解決するための基礎知識

本連載は、「はんがい眼科 目のブログ」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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