チン小帯が弱い?手術のリスクが高まる「ハイリスク白内障」

「モノがぼやけて見える」「目がかすむ」「光がいつもよりもまぶしい」など、気にはなりつつも、見過ごしてしまっている「目」についての悩みはないでしょうか。そんな悩みを抱えたままでは、日々の不安が募るばかりです。本連載では、白内障・緑内障・網膜剥離手術に強みをもつ、はんがい眼科・院長の板谷正紀氏が、眼病の症状やその対処法について解説します。

白内障手術の前に覚えておきたい「目の基本構造」

現在、白内障手術は日本国内で年間100万件以上も行われています。ある程度の年齢の方であれば、「知り合いが白内障の手術をした」、「親が白内障手術を受け、よく見えるようになったと喜んでいる」など、身近な話題に上ることもあるのではないでしょうか。

 

最近では「日帰り白内障手術」も普及し、時間的にも5~10分ほどしかかからないことが多く、以前に比べ、簡単で安全な手術といったイメージを抱く人も増えているようです。確かに、一般的な白内障手術の成功率は99%以上といわれますから、基本的には安全性の高い手術と考えていいと思います。

 

しかし残念ながら、やはり例外もあります。通常通りの手順で手術を行った場合、術中のトラブルが起こりやすい特徴的な問題を持っている目が存在します。それが「ハイリスク白内障」です。ハイリスクであることを知らずに手術を行うと、トラブルが起こりやすいのですが、術前に知り準備することでトラブルを減らすことができます。リスクの高い白内障手術について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

 

ハイリスク白内障について知っていただく前に、私たち人間の目の基本的な構造と、今の主流の白内障手術について説明しておきましょう。

 

◆目の構造はカメラに似ている

 

私たちの目は、よくカメラにたとえられます。目に入る光を集めるレンズの役割をしているのが、角膜とその奥にある水晶体です。両者の間にある虹彩は、目に入る光量を調節する「絞り」の作用をもちます。明るいところでは光量を絞って眩しさをやわらげ、逆に暗いところでは絞りを広げ、多くの光を目に取り込む働きをしています。

 

また、目に入った光を屈折させて網膜に焦点を結ぶためには距離が必要ですが、その空間は硝子体という透明な組織で満たされて、光がそれ以上屈折したり止まったりしないようになっています。

 

そして像が映し出されるフィルムは、眼球の奥にある眼底と呼ばれる部分にある網膜です。網膜に映った像の情報は電気信号に変換され、視神経を通って脳へと伝わります。

 

こうしたしくみによって「ものが見える」という状態が実現します。

 

◆水晶体が果たす大事な役割

 

私たちがものを見るときに、重要な働きをしているもののひとつが水晶体です。水晶体はチン小帯という糸状の組織で周囲の近くの筋肉である毛様体筋(もうようたいきん)とつながっており、この筋肉が収縮したりゆるんだりすることで、水晶体が厚みを変え、見たいものにピントを合わせます。

 

さらに詳しくいうと、水晶体は水晶体嚢(すいしょうたいのう)という薄い“ふくろ”に包まれていて、そのふくろと毛様体筋をチン小帯と呼ばれる無数の細い線維が結びつけています。目を正面から見ると、ふくろに入った水晶体が宙に浮いているような構造になっています。チン小帯は水晶体がぐらぐら動かないように固定する役割とともに、毛様体筋の力を水晶体に伝える役割を担っています。

 

この水晶体は、加齢とともに次第に硬くなるため、ピントが合いにくくなります。これが老眼の症状です。さらに水晶体のタンパク変性が進んで濁りが出てくるようになると、白内障の発症ということになります。

「標準的な白内障手術」が難しい「ハイリスク」症例

現代日本で広く行われている標準的な白内障手術は、「超音波乳化吸引術」というものです。これは、ごく簡単に説明すると次のような手術です。

 

①目の表面の角膜の縁を小さく切開し、専用の器具で水晶体を包むふくろの表面を丸く切開する。

②濁った水晶体に超音波をあて、水晶体を粉砕して吸引する。

③残った空のふくろに、水晶体の代わりとなる人工の眼内レンズを挿入する。

 

白内障手術(超音波乳化吸引術)の流れ
白内障手術(超音波乳化吸引術)の流れ

 

手術のためにどうしても必要な角膜縁の傷口が数ミリ単位と小さいため回復が早い、手術時間が短く患者さんへの負担も小さい、など数々の利点があり、現在は白内障手術のほとんどがこの「超音波乳化吸引術」となっています。

 

ただし、患者さんの目の状態によってはこの「超音波乳化吸引術」がむずかしくなってしまうケース、行うことができないケースがあります。たとえば、水晶体の周辺組織に問題があると、眼内レンズを入れられなくなったり、手術中にトラブルが起こったりするリスクが高まります。

 

また水晶体自体の変質が進んでいると、超音波乳化吸引術では濁った水晶体を取り除けないケースもあります。別の視点からいいますと、元々目の個性としての問題がある場合がほとんどですが、なかには内服歴が影響するケースもあります。

 

こうした症例を、はんがい眼科では「ハイリスク白内障」と呼んで入念な準備をして手術に臨んでいます。

「水晶体の周辺組織」に問題を起こす3つの原因

「超音波乳化吸引術」がむずかしくなる原因の1つ目は「水晶体の周辺組織の問題」です。代表的なものに、次の3つの問題があります。

 

①チン小帯が弱い

 

白内障手術をもっとも困難にする問題は、先述した水晶体を支えている無数の線維であるチン小帯が、加齢や疾患などでゆるんでいたり、部分的に切れていたりするケースです。

 

チン小帯の断裂が進んでいると、術中に水晶体のふくろが粉砕した水晶体の中身と一緒に吸い込まれてしまい、水晶体が破れてしまうリスクが高くなります。ふくろを破らずに超音波乳化吸引をできたとしても、チン小帯の断裂が広いとふくろの中に眼内レンズを固定できなくなってしまいます。

 

最悪の場合、手術時に水晶体や眼内レンズが目の中に落下してしまう恐れがあります。

 

②浅前房(せんぜんぼう)や狭隅角(きょうぐうかく)

 

角膜と水晶体の間のスペースを前房といい、前房の端にある目の中の水分の出口を隅角といいます。前房が浅くなることを浅前房(せんぜんぼう)といいます。

 

若い頃メガネいらずで自分は目が良いと思っている方、すなわち正視または遠視の方に起きやすくなっています。年齢とともに水晶体は大きくなりますが、正視または遠視の方は比較的目のつくりが小さいことが多く、大きくなった水晶体が黒目(虹彩[こうさい])を後ろから押して前房が浅くなるのです。

 

また、チン小帯がゆるくて、水晶体が本来の位置より前に出てきてしまうことも原因として加わります。極度に浅前房の目は、チン小帯が弱いと想定すべきです。

 

手術時は狭い前房スペースで器具を操作しなければならないため、手前の角膜と奧の水晶体のふくろにダメージを与えない高度な技術を要します。前房が浅い目は隅角も狭いことが多く、狭隅角(きょうぐうかく)といいます。狭隅角は、失明の原因となる急性緑内障発作のリスクがあります。

 

浅前房のスリット写真
浅前房のスリット写真
浅前房のOCT画像
浅前房のOCT画像
正常な前房のOCT画像
正常な前房のOCT画像

 

③虹彩の脆弱化(IFIS[術中虹彩緊張低下症候群])

 

前立腺肥大治療として、α1ブロッカーを含む薬を服用している人の30~40%にみられる虹彩(いわゆる黒目)の問題です。ハルナール、ユリーフ、フリバス、ユリーフ、ミニプレス、バソメット、エブランチル、デタントールなどです。

 

特徴は虹彩がふにゃふにゃに変化していて、手術中の水流によってうねうねと動いたり、急に縮瞳したり、虹彩が手術の切開創に挟まり込むなど、白内障手術が難しくなる問題が次々と起きます。IFIS(術中虹彩緊張低下症候群)とよびます。

水晶体が著しく質的変化を起こす「2つの原因」

「超音波乳化吸引術」がむずかしくなる原因の2つ目は、水晶体そのものの状態です。症状としては、次の2つが挙げられます。

 

①硬い核

 

若いころの水晶体は、透明でグミのような弾力のある柔らかい組織です。しかし加齢などによって変性が進むと、中心の核と呼ばれる部分が“ニカワ”のようにガチガチに硬くなってしまうことがあります。核硬化グレード4を越えるとリスクが高まります。

 

こうなると、通常の超音波ではなかなか砕けず、超音波パワーを上げて長時間操作を行うことになります。慣れないと水晶体のふくろの後ろ側(後嚢)を破いてしまうリスクがあります。

 

また、角膜内皮細胞の減少が多くなり、術後に角膜が腫れます。水晶体のふくろや角膜に負担をかけない熟練の技が必要です。グレード5になり超音波では無理と判断したら、水晶体の中身を砕かずに丸ごと取り出す「嚢外摘出術」に切り替えます。

 

最近は超音波乳化吸引術がほとんどですので、嚢外摘出術に慣れているのは、ある程度年齢がいった眼科医になります。

 

②膨化白内障

 

白内障の中には急に進行して水晶体が膨らみ、ふくろの中でパンパンになっていることがあります。膨化白内障といいます。こういう状態で手術をすると、ふくろを切開するときに中の圧力によって、ふくろがはじけるように破けてしまうことがあります。

 

この場合は、このままでは眼内レンズが入れられないため、眼内レンズを強膜内固定術や縫着術など別の方法で固定することが必要になります。最近では、フェムトセカンドレーザーを用いたレーザー白内障手術の方法で、前嚢切開をするとふくろが裂けるのを抑えられると考えられています。

 

水晶体が真っ白に膨らんでいる状態
水晶体が真っ白に膨らんでいる状態

「ハイリスク白内障」に必要な4つの手術法

上記のようなハイリスク白内障は、通常の白内障手術だけを手がけているクリニックでは、対応できないことも少なくありません。

 

なぜなら、白内障手術の術中に起きる、最も多くて最も困る合併症は、水晶体のふくろの後ろ側(=後嚢)が破れる「破嚢」という合併症だからです。水晶体を支えているチン小帯が切れることもあります。

 

いずれにせよ、それまで後嚢によって抑えられていた目の奥の硝子体が、破損した水晶体の前にどんどん出てきてしまい(硝子体脱出といいます)、そのままでは網膜剥離になるリスクがありますし、眼内レンズをうまく入れることもできません。このとき必要になるのは、硝子体を十分に切除して硝子体脱出による合併症を防ぎ、眼内レンズをきれいに固定することです。

 

さらには、ふくろの破れ目から水晶体の中身、もしくはその破片が目の奥に落ちてしまった場合は、「硝子体手術」が必要になります。ふくろが眼内レンズを固定する力を失ったら「強膜内固定術」や「眼内レンズ逢着術」など別の方法で固定する必要があります。

 

鍵は、硝子体を処理する経験と技量なのです。

 

①硝子体手術

 

目の奥(硝子体)に落ちてしまった水晶体(あるいはその破片)や眼内レンズを取り除く手術です。硝子体手術専用の手術機器や器具が必要になります。硝子体手術の訓練を受けた医師でなければ対応ができません。

 

②強膜内固定術

 

眼球の中でもっとも丈夫な強膜と呼ばれる部分に、眼内レンズのループ(足)を差し込んで固定する手術です。十分な硝子体切除の経験が必要であり、通常の白内障手術では行わない操作が求められます。

 

③眼内レンズ逢着術

 

眼内レンズを糸で縫いつけて固定する手術です。強膜内固定術が考え出される前は、この方法のみでした。この方法でも十分な硝子体切除の経験が必要です。

 

④水晶体嚢(すいしょうたいのう)外摘出術

 

角膜を切開し、水晶体の中身を丸ごと取り出す手術です。角膜縁に沿って10mmほど大きく切開するため、術後に強い乱視が出やすい、回復に時間がかかるなどの問題があります。水晶体嚢外摘出術が主流だった時代は、この手術により引き起こされる乱視(惹起乱視といいます)が問題でした。創口は6本ほどの縫合で閉じるのですが、縫合の強さが同じでないと不正乱視を生じました。

 

ちなみに、はんがい眼科では、角膜惹起乱視を最小限にするために、強膜をフラウン切開という方法で切開し、水晶体を取り出す小切開水晶体嚢外摘出術を行っています。縫わなくてもほとんど漏れは無く、縫っても1本程度で閉鎖します。

 

眼科の検査等で自分が「ハイリスク白内障」に当てはまるとわかったときは、このような難度の高い手術にも対応可能なクリニックをぜひ選ぶようにしてほしいと思います。

 

★板谷院長のひとことアドバイス

 

白内障手術の際に、手術合併症につながりやすい問題をはらんでいる目があります。水晶体の中身の問題と、水晶体のふくろの問題に大別できます。リスクを予測し、リスク回避の準備をして臨み、あらゆる合併症に対応できることが望ましいのです。

 

★まとめ

●白内障には、手術のリスクが高まる問題を持つ「ハイリスク白内障」と呼ぶべき症例があります。

●ハイリスク白内障は、水晶体の周辺に問題がある場合と、水晶体自体に問題がある場合があります。

●ハイリスク白内障は、特別な手術が必要になることもあるので、対応可能なクリニックを選ぶべきです。

 

 

板谷 正紀

はんがい眼科 院長

 

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はんがい眼科 院長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

https://eyeblog-hangai.com/

著者紹介

連載眼科院長がやさしく解説!「目」に関する不安を解決するための基礎知識

本連載は、「はんがい眼科 目のブログ」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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