三女が母を言いくるめ…相続対策を怠った「社長一家」の悲劇

超高齢社会に突入している日本では、相続や事業承継の適正化、円滑化は大きな社会課題となっている。民法、相続関連の改正、事業承継税制の改正なども、対象となる人々が正しい理解をもって活用できなければ、本質的な解決はない。※ 本記事は、2015年9月19日刊行の書籍『余命一カ月の相続税対策』(幻冬舎MC)より一部抜粋・編集したものであり、税制など当時のものだが、「正しい知識をもち、早めの行動をする」ことの重要性がよくわかる事例として、改めて取り上げた。

自分の死は誰だって考えたくないもの

近年、相続対策に関して数多くの書籍が発行され、セミナーや相談会もひきもきらずに開催されています。しかし、資産が数億円、数十億円という資産家ほど、ご本人もどうしていいか分からない状態に陥っているケースが少なくありません。

 

そもそも、自分の死は誰だって考えたくないものです。 「自分が死ぬことを想定した相続対策などまっぴらごめん。必要ない」 「万が一の際は、子どもたちが好きなようにすればいい」

 

そう考えている方は多いのではないでしょうか。

 

また、重い病気などをきっかけに寿命を意識し、「そうはいっても相続対策が必要かな」 と思い直し、税理士やメインバンクに相談してみたところ、専門家によって言うことが違うので、誰の意見を信用すればいいのかと混乱することもあります。

相続対策なしでは深刻なトラブルにつながることも 

東京都内で戦後、機械部品の専門商社を立ち上げたAさんは、80歳を超えてもなお現役の社長として、毎日元気に出社していました。 

 

Aさんの会社は1980年代後半のバブル景気の頃、年商10億円、総資産は50億円を超えるまでになり、税務署から優良法人(年間納税額5000万円以上)の表彰も受けていました。

 

しかし、バブル崩壊後、ゴルフ会員権や株式投資に失敗し、資産は半分以下に減少。事業も時代の流れに乗り切れず、経営の内情は思わしくありませんでした。

 

そんな中、昨年Aさんが突然、心筋梗塞で亡くなってしまったのです。会社はすでに専務である長男が実質上取り仕切っていますが、相続については生前にほとんど対策をとっておらず、Aさんの死後にトラブルが噴出することになりました。

 

まず問題になったのは、遺産の分割です。Aさんには先妻との間に2人、今も存命の後妻との間に2人(長男もその1人)、計4人のお子さんがいます。

 

しかし、資産としてめぼしいものは会社の株式だけです。都内の白金、新橋などに時価8億円ほど土地を保有していますが、自宅の敷地も含めてすべて会社保有。しかも、その多くが会社の運転資金として毎年借り入れしてきた銀行融資の担保に入っています。

 

自社株についても、税務署の言うとおりに評価すると10億円程度になりますが、そのうち5億円分は在庫(簿価)が占めており、実際にはずっと少ないと思われました。

 

相続人、特に兄弟の間での話し合いは紛糾し、何とか遺産分割協議がまとまったのは、申告納税期限(相続開始から10カ月)のわずか3日前のことでした。

 

銀行の担保がついている不動産については、長男以外の相続人が保証人になるのを嫌ったので、わずかな預貯金を長男以外で分けるほか、担保のついていない不動産のみ共有名義にしました。

 

長男も自社株の相続で1億円近くの相続税が課せられ、新たに銀行から借り入れをするはめになってしまいました。

 

さらに問題なのは、三女(長男の妹)が認知症気味の母親を言いくるめ、母親が所有している1億円近くの金融資産の中から、長男以外の相続人に、贈与税の精算課税制度を使って1人2000万円、合計6000万円を生前贈与するという話をまとめ、実行してしまったことです。

 

長男だけが今のところそのことを知らず、いずれ新たなトラブルの種になることが予想されます。 

資産を築いた成功体験が忘れられずに思考停止

このケースは、Aさんが生前にほとんど何も、相続に向けて手を打っていなかったところに根本的な原因があります。会社の顧問税理士が相続税にうとく、適切なアドバイスをもらえなかったということもあるでしょう。

 

相続人である子どもたちの仲が予想以上にこじれたのも、ある意味、Aさんの手際の悪さが影響しています。 

 

例えば、遺言の付言事項で「兄弟姉妹仲良くするように」と言い残し、相続についても長男以外のお子さんにある程度まとまった資産が渡るようにしていたら、ここまでもめることはなかったと思います。

 

しかし、Aさんにとっては戦後の焼け野原の中、裸一貫から会社を立ち上げた成功体験が強烈で、事業が次第にうまくいかなくなっても、その現実をきちんと受け止められなかったのです。ある意味、思考停止の状態になってしまい、相続のことまで頭が回らなかったのでしょう。

 

長男以外の子どもたちにとっても、かつて事業が順調で羽振りがよかった頃の父親のイメージしかなく、それなりの遺産をもらえるものと思い込んでいました。

 

それが、いざ蓋を開けてみたら何にもないと言われ、「それなら二次相続で母親から受け継ぐ分を先にもらってしまおう」となったようです。

 

長男にとっては、会社の株式を分散させずに引き継げたのはよかったものの、事業があまり芳しくないところに、納税資金として1億円も借り入れが増えたのはやはり手痛いダメージです。

 

事前に講じることが可能だった相続税対策はいろいろあります。

 

例えば、会社からAさんに退職金を生前に支払って株価を下げ、自社株の一部を生前贈与しておけば相続税の負担は減らせたはずです。

 

また、会社からAさんに支払われた退職金で自宅の敷地を会社から買い取っておけば、「小規模宅地等の特例」を使いつつ妻に相続させ、二次相続の際に長男以外の子どもたちに分与するといった工夫もできたでしょう。あるいは、相続発生後についても、自社株の評価に当たって、在庫の評価について税務署ときちんと交渉すれば、やはり相続税の負担を大きく引き下げられたはずです。何も手を打たなかったための代償は、あまりにも大きいといえます。

言われるがままの対策では失敗するのも当然

Aさんのような事例は珍しくありません。しかし、かといって、闇雲に相続対策を行えばよいかといえば、そうではありません。私たちがこれまで、多くの資産家からの相談を受けて感じることは、安易な相続対策を行い、後になって後悔するケースが非常に多いということです。

 

皆さん異口同音に、「何でよく検討もせず、周りから言われるままにやってしまったんだろうか」とおっしゃいます。 

 

典型的なのが、賃貸市場の状況に目をつむり、所有する遊休地にアパートや賃貸マンションを建ててしまうことです。これは都市農家に非常に多いケースです。

 

例えば、地元の金融機関が企画した無料セミナーに参加すると、その金融機関が紹介する税理士がやってきて、現状のままだと相続税がいくらかかるか試算してくれます。

 

次に建設会社やハウスメーカーがやってきて、所有地に賃貸マンションやアパートをローンを組んで建てる計画を提案してきます。シミュレーションを見ると、建物の建築費に対して表面利回りが8%ほどあり、向こう20年は一括借り上げもしてくれると言うのです。

 

「そこまで言うなら」と思って実行してみたところ、最初の5年間くらいは順調に見えるの ですが、10年くらいすると空室が増え、借り上げ賃料を下げないと一括借り上げは続けられないと言われます。さらには建物や設備の修繕費もかさむようになってくるのです。

 

やむを得ず、他の収入から赤字を補填したり、ローンの負担を減らすために別の土地を売却したり、それでも最後には支払いが難しくなり、税金まで滞納。結局、せっかく建てたアパートや賃貸マンションを二束三文で売却する羽目になった資産家を多数見てきました。

 

ちなみに、ある機関の場合、そこが紹介する建設会社やハウスメーカーが紹介客から工事を受注すると、何段階にもわたって手数料を支払っているといわれます。もし、これが本当だとすれば、紹介されてアパートなどを建てた資産家はその分、高いコストを負担していることになります。

 

 

福田 郁雄

株式会社福田財産コンサル 代表取締役

 

木村 祐司

木村祐司税理士事務所 税理士・アセットコンサルタント

 

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株式会社福田財産コンサル 代表取締役

1959年生まれ。ミサワホームの資産活用部門責任者、アパマンショップの不動産投資会社の責任者を経験後、2004 年に独立系資産経営コンサルティング会社として、株式会社福田コンサルを設立。特に不動産を活用した相続税対策のコンサルティングに絶大な強みを持ち、17億円も相続税を減らすなど同業他社の追随を許さない専門力を持つ。コンサルティングしてきた資産は総額1200億円超。ファイナンシャルプランナー、公認不動産コンサルティングマスターおよび相続対策専門士統括講師、相続アドバイザー養成講座講師。相続税対策や不動産投資に関する複数の著書あり。

著者紹介

木村祐司税理士事務所 税理士・アセットコンサルタント

1967年生まれ。中学卒業後、タンカーの甲板員から始まりブルーカラーの仕事にいくつか従事する中で、給料から天引きされる税金に疑問と興味を持ち税理士を志す。1998年12月税理士試験に合格。当初はコンサルティングファームでファイナンシャルディレクターとしての経験を積み、企業会計実務の知見を得た後に木村祐司税理士事務所を開設、現在に至る。
経営者や資産家の財務・税務コンサルティングを強みとし、絶対的な信頼感のもと企業の資金調達、経営管理、節税対策や資産管理、事業承継までを任されている。資産3億円以上を得意とし、相続税・贈与税だけではなく、資産運用の観点からトータル的なTAXプランニングの提案・実行をおこなう。

著者紹介

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本記事は、2015年9月19日刊行の書籍『余命一カ月の相続税対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。
〈税務の取扱に関する留意点〉
本連載の内容は、平成27年4月現在の税制・関係法令等に基づき記載しております。今後の税制改正等により税務の取扱等が変わる場合もありますので、記載の内容につきましては将来にわたって保証されるものではないことにご注意ください。個別の税務取扱い等については、税理士や所轄税務署等にご確認されることをお勧めします。

余命一カ月の相続税対策

余命一カ月の相続税対策

福田 郁雄,木村 祐司

幻冬舎メディアコンサルティング

突然やってくる“その時”、わずかな時間でできる対策は限られています。しかし、正しいノウハウをもってすれば、相続税対策は2週間程度で完了、相続税をゼロにでき、それどころか、子孫に受け継いだ資産がその後も増え続けて…

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