少子高齢化と労働力不足で「日本の黄金時代」が始まる理由

日本の将来予測の多くは悲観的な論調で占められていますが、多くの場合、その根拠とされるのは少子高齢化と労働力不足です。しかし筆者は、それらは日本経済にとって決してデメリットではなく、むしろ大きな恩恵をもたらすと考えています。今回は、その理由をわかりやすく解説していきます。将来の経済不安には、正しい経済学の知識で対抗を。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第13回目です。

長期低迷期の失業は、日本人の勤勉と倹約が生んだ!?

新しい時代が始まりました。めでたいことです。そこで筆者は、「新しい時代は素晴らしい時代だ」という明るい記事で新時代の到来を祝いたいと思います。

 

「合成の誤謬(ごびゅう)」という言葉があります。みんなが正しいことをすると、みんなが酷い目に遭う、という意味です。劇場火災のとき、各人にとって正しいのは出口に向かって走ることですが、みんなが同じことをすると、みんなが悲惨な目に遭いますね。

 

似たようなことは経済の世界でも頻繁に起こります。株化暴落の噂を聞いてみんなが株の売り注文を出す場合、銀行倒産の噂を聞いてみんなが預金の引き出しを急ぐ場合、などです。バブル崩壊後の長期低迷期も、合成の誤謬だったのだと筆者は考えています。

 

勤勉に働き、倹約するのはよいことですが、それでみんなが不幸になった、というわけです。みんなが勤勉に働くと大量の物(財およびサービス、以下同様)が作られ、一方で、みんなが倹約すると物が売れないので大量の売れ残りが生じます。

 

企業は生産を減らし、雇用を減らしますから、失業が生じます。失業者が不幸であることは疑いありませんが、失業者が増えると、それ以外の面でも様々な不都合が生じるのです。

失業者が多ければ生産性も向上せず、財政赤字も膨らむ

失業が増えると、企業は「正社員として労働者を囲い込まなくても、いつでも非正規労働者が雇えるなら、その方が時給も低いしクビも切りやすい」と考えますから、正社員を減らして非正規労働者を増やします。

 

労働者は、正社員の仕事が見つからなければ非正規労働者としてでも働かざるを得ませんが、それで生計を立てようとすると、正社員と比べて時給も低く、雇用も安定しない「ワーキング・プア」になってしまいます。

 

とくに就職氷河期に就職活動をした年齢の人は、不運としかいいようがありません。日本では、一度非正規労働者になってしまうと、あとから正社員になるのが困難だからです。

 

失業者が増えたので、ブラック企業も増えました。学生は、就職活動がうまくいかないと、「失業者になるか」「非正規労働者のワーキング・プアになるか」「ブラック企業に勤めるか」という三択を迫られますから、ブラック企業は人集めに苦労しません。社員が辞めようとしても「辞めたら失業者かワーキング・プアだよ」と脅せば辞めずに残るでしょう。

 

失業者が多いと、日本経済の生産性が向上しません。飲食店はアルバイトに皿を洗わせるので、自動食器洗い機を購入する必要がないからです。経済学者のなかには「生産性が向上しないから経済が成長しないのだ」という人もいますが、需要不足だから失業が増え、企業の省力化投資が行われなかったのです。

 

失業者が多いと、財政赤字も膨らみます。失業対策の公共投資などが必要になるのはもちろんですが、増税したくても「増税して景気が悪化して失業が増えるといけないから、やめておこう」という反対論が出てくるからです。

労働力不足が「現役世代の不運な失業者」を減少させる

少子高齢化で失業問題が解決し、労働力不足になります。今までは現役世代の中から不運な人が失業していたのですが、これからは定年退職する人が自発的かつ永遠に失業を引き受けてくれるからです。

 

「現役世代の人数が大きく減り、総人口は少し減る。その結果、少数の生産者の作った物を大勢の消費者が奪い合う時代が来る。そうなれば、失業問題は解決する」という考え方も可能でしょう。

 

いまひとつ、高齢者が購入するのは介護サービスのように、多くの労働力を必要とするものです。全自動のロボットが作る自動車などは買いませんから、同じ100万円の個人消費でも、若者が自動車を買っていた時代より労働力が必要なのです。

ワーキング・プアやブラック企業等の問題が解決

バブル崩壊後の長期低迷期、需要不足による失業が多くの問題を生み出してきたことを上述しましたが、今度は少子高齢化による労働力不足ですから、物事が逆流して、失業によって生み出された問題がすべて解決することになります。

 

まず、働く意欲と能力がある人は仕事にありつきます。仕事探しを諦めていた高齢者でも、子育て中の主婦でも「1日4時間だけ働きたい」といった希望が通るようになるのです。

 

ワーキング・プアの待遇も改善します。非正規労働者の時給は需要と供給の関係を反映して柔軟に動くからです。すでに非正規労働者の時給は上昇しはじめていますし、今後も上昇を続けるでしょう。労働力を囲い込むために、非正規労働者を無期雇用や正社員にする企業も現れているようです。

 

ブラック企業も、存続が難しくなりつつあります。ブラック企業のままでは学生が入社しませんし、社員も「辞めても仕事が見つかるので」といって辞めてしまうからです。ブラック企業はホワイト化して生き残るか、労働者が辞めて消滅するか、いずれかでしょう。

 

こうして、労働者の中で比較的恵まれていない人々の待遇がマシになります。中高年サラリーマンの待遇はあまり改善されないかもしれませんが、格差が縮小すると考えれば、それ自体は問題とはいえないでしょう。

問題が一気に解決して悩みがなくなる「黄金時代」

マクロ経済面を見ると、日本経済の効率化が進みつつあります。まず、失業対策の公共投資が不要になりました。失業対策は、定義上労働生産性が高くない仕事が多いので(労働生産性が高ければ失業が減らないから)、これが不要になるのはいいことです。

 

企業が省力化投資を活発化させ始めています。飲食店が、皿を洗うアルバイトが見つからないので自動食器洗い機を購入している、というわけですね。

 

労働生産性の低い企業は高い給料が払えないので、社員が辞めていき、高い給料が払える労働生産性の高い企業に転職する動きも広がるでしょう。それによって、日本経済全体としては労働生産性の高い企業に労働者が移ることで効率的になっていく、というわけですね。

 

財政赤字も減るでしょう。失業対策が不要になるだけではなく、「増税して景気が悪化して失業者が増えると困る」という反対論も出にくくなるでしょうから。

 

もしかすると、労働力不足による賃金上昇等でインフレが心配になり、「日銀が利上げをすると政府の利払いが増えるから、インフレ抑制は利上げではなく増税で対応しよう」ということになるかもしれません。そうなれば、増税がインフレ抑制と財政再建の一石二鳥というわけですね。

 

『少子高齢化と労働力不足で「日本の黄金時代」が始まる理由』という刺激的なタイトルを付けましたが、筆者としては黄金時代という言葉を、別にバブルの時代のようなキラキラした時代という意味ではなく、多くの問題が一気に解決して悩みがなくなる時代、という意味で使っています。

 

なお、「少子高齢化で財政が破綻するのだから黄金時代ではなく暗黒時代だ」と考える読者も多いでしょうから、別の機会に日本の財政は破綻しないことを示すこととしましょう。

 

今回は、以上です。
 

 

塚崎 公義

久留米大学教授

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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