日本の労働市場への影響は?「外国人雇用拡大」がはらむ問題点

日本政府は人手不足解消のため、外国人の雇用を拡大しています。しかし、日本の労働者から見れば「人手不足」は悪いことではなく、むしろ歓迎すべきことなのです。今回は、「人手不足」の真の意味と、外国人労働者の受け入れが日本の労働者に及ぼす影響を考察します。将来の経済不安には、正しい経済学の知識で対抗を。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第12回目です。

労働力不足なのではない、「仕事が潤沢」なのだ

「労働力不足」という言葉は、悪いこと、困ったことのように聞こえます。たしかに企業経営者にとっては、労働力不足は困ったことかもしれません。だからこそ、政府も外国人の単純労働者(以下、外国人と記す)を受け入れようという政策に舵を切ったわけです。

 

しかし、労働者にとっては、労働力不足は素晴らしいことです。失業するリスクが小さく、働く意欲と能力がある人は皆が生き生きと働くことができるわけですから。

 

学生は「就職が決まらないから、仕方なくブラック企業に就職する」という必要がありませんし、すでにブラック企業で働いている人も、ホワイト企業に転職することができるでしょう。

 

加えて、多くの企業が少ない労働者を奪い合うため、賃金が上がっていくと期待されます。実際、アルバイトやパートといった非正規労働者の時給は上昇しています。

 

つまり、日本人労働者にとって、これは素晴らしいことですから、「不足」などという後ろ向きな表現ではなく、「仕事潤沢」といった前向きな言葉を使いたいですね。筆者の語彙力の乏しさから、よい言葉が思いつきませんが、誰かがよい言葉を見つけてくれることを期待しています。

 

ちなみに、正社員の賃金はあまり上がっていないようですが、それは「正社員は終身雇用で年功序列賃金だから、賃上げしなくても辞めないだろう」と企業が考えているからです。非正規労働者は時給を上げないと集まらないし、せっかく集めても辞めてしまうわけですが、それとは事情が違うわけですね。

 

もっとも、これも困ったこととはいい切れません。「同一労働同一賃金」という政府のスローガンに近づきつつあるという意味では、むしろ望ましいこととも考えられますから。

 

労働力不足になると、企業が省力化投資をするようになりますから、日本経済が効率化する、ということにも期待できます。

 

さらにいえば、企業経営者にとってさえも、労働力不足は悪い話とは限りません。自社が労働力不足で困っているときにはライバルも同様に困っているからです。宅配便業界が、労働力不足を理由に値上げをしたら、ライバルも一斉に値上げをしたので、各社の利益が増えた、といったことも起きたわけですし。

 

つまり、労働力不足は決して悪いことではなく、むしろ日本経済全体としてはよいことなわけです。

外国人労働者の受け入れで、長期低迷期に逆戻り!?

バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済は大量の失業者の発生に苦しみました。就職氷河期に学校を卒業して、正社員になれずにアルバイトで生計を立てざるを得ないワーキング・プアが大量に発生したり、「労働者を酷使しても辞めないから」という理由でブラック企業が増えたりしました。

 

企業にとっては安い労働力が確保できたわけですが、それが企業のメリットであったか否かは、何ともいえません。ライバルも安い労働力を使えるわけですから、製品の値引き競争を仕掛けて来ることも多く、値下げ合戦で疲弊する企業も数多くありました。

 

労働者は消費者ですから、労働者の所得が下がれば消費の勢いが削がれます。不況が更に値下げ合戦を活発化し、デフレに悩んだ企業も多いでしょう。

 

このように、自社だけが安い労働力を使える場合と異なり、全社一斉に安い労働力が使えるという状況は、必ずしも企業にとって素晴らしいことではないのです。

 

外国人の受け入れは、労働力不足を解消するということなので、バブル崩壊後の長期低迷期に逆戻りするということです。これは、決して望ましい事態ではありません。

農産物は輸入で、介護は介護士の待遇改善で乗り切れる

農業が外国人を受け入れる必要はありません。農業が労働力不足なら、農産物を輸入すればよいからです。

 

日本が農産物の輸入を制限しているのは、「制限しないと外国の安い農産物が流入し、日本人の農業従事者が失業してしまうから」です。それならば、日本人の農業従事者が足りない分は外国産の農産物を輸入すればいいでしょう。

 

そうすれば、消費者は安い農産物が食べられますし、農業従事者は無理をせずに作れるだけの農産物を作ればいいですし、外国人は異国の地で家族と離れて働く必要がなくなるでしょう。

 

介護の労働力不足については、介護士の待遇が悪いことが原因ですから、介護士の給料を上げましょう。そのために必要ならば、介護保険料を引き上げましょう。

 

「介護保険料を引き上げてほしくないから、現状のまま、介護士を安い給料で働かせよう。足りない分は外国人介護士を受け入れればよい」というのは「やりがい搾取」です。それは許されるべきことではありません。

外国人受け入れの行政コストは、企業に負担させよう

日本語の不得意な外国人を受け入れると、行政コストがかかります。行政の窓口がさまざまな言語で対応するだけでも大変です。そうした費用は国民の税金でまかなわれます。しかし、それは問題です。

 

ひとつには、「外国人によって昇給の機会を奪われたり仕事を奪われたりする日本人労働者は被害者なのに、彼等の払った税金を使うのはかわいそうだ」、ということです。

 

もうひとつの問題もあります。企業が外国人を雇うことで得る利益が1円だとします。一方で外国人を受け入れることで行政コストが100円かかるとします。その場合には、その外国人は受け入れるべきではありません。

 

そうした外国人を受け入れないようにするためには、企業に行政コストの100円を負担させればよいのです。そうすれば、「外国人を雇うと200円儲かるから、行政コストの100円を負担しても外国人を受け入れたい」という企業だけが外国人を受け入れることになります。

 

筆者としては、日本人労働者の利益を考えると、それでも受け入れるべきではないと思いますが、100歩譲って、その場合に限って外国人を受け入れるのであれば、まだマシだといっておきましょう。

 

今回は、以上です。
 

 

塚崎 公義

久留米大学教授

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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