経済成長率1%の日本で「深刻な労働力不足」が起こるワケ

高度成長期の日本では労働力が不足していたと聞いても、だれも不思議には思わないでしょう。しかし、経済成長率が1%程度にまで落ち込んだ今の日本でも、労働力は不足しています。なぜでしょうか? 将来の経済不安には、正しい経済学の知識で対抗を。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第10回目です。

労働力の移動、機械化の進展、産業構造の変化…

高度成長期の日本は「10%成長だったから労働力不足だった」のに、今は「1%成長でも労働力不足」なのは、なぜでしょうか。

 

主な理由は、

 

①農村から都市に労働力が移動していたのが、移動しなくなった

②機械化による労働生産性の上昇が緩やかになった

③産業構造が変化した

④少子高齢化が進んだ

 

といったところでしょう。

 

「①農村から都市に労働力が移動していたのが、移動しなくなった」のは、農村の若者が都会に出て来て都会で子どもを産むようになったため、今の農村に子どもが少ないからですね。加えて最近は、都会でも子どもの数が減っていますし。

 

「②機械化による労働生産性の上昇が緩やかになった」のは、農村にトラクターが行き渡ったからですね。農村にトラクターが来ると、農村の労働生産性(=一人当たり生産量)が大幅に上昇しますが、ひとたびトラクターが行き渡ると、古い物を最新式の物に買い換えても、それほど労働生産性は上がりません。洋服製造業におけるミシンも同様です。

 

コンピューターのような新しいものが出てくれば、また労働生産性は上がりますが、それにはあまり期待できません。なぜなら、高度成長期は先進国を真似すれば新しい技術が無尽蔵に導入できましたが、今では新しい技術が発明発見されるまで待たなければならないからです。

 

「③産業構造が変化した」とは、製造業のウエイトが下がり、サービス業のウエイトが上がったということです。化粧品の売り上げが増えても、全自動の工場で化粧品を作るので、労働力はそれほど必要ありません。一方で、美容院の売り上げが増えると、美容師の数が必要になります。つまり、同じGDPを生み出すのに必要な労働力が増えるので、それを逆から見ると労働生産性が伸びなくなるのです。

バブル崩壊後、低成長の割に失業率が限定的だった理由

バブル崩壊後の長期低迷期には、低成長が続きましたが、低成長の割には失業率の上昇は限定的でした。この間、労働生産性が上がらなかったからです。

 

労働生産性が上がらなかった主因は、省力化投資が行われなかったからです。需要不足で生産が減り、失業者が大勢いたため、アルバイトを安く雇う方が省力化投資を行なうより安上がりだったのです。「需要が足りないと労働生産性が上がらない」というわけですね。

 

余談ですが、アベノミクスによる景気回復で労働力が不足するようになりましたから、企業が省力化投資を進めて労働生産性が上がり、日本経済が効率化していくと期待されるところです。

少子高齢化は、需要・供給の両面で労働力不足の要因に

「④少子高齢化が進んだ」ことによって、現役世代の人口が急激に減りつつありますが、総人口はそれほど減っていません。つまり、少ない人数の現役世代が作った物(財およびサービス、以下同様)を大勢の消費者が奪い合っているわけですから、物が不足し、物を作る人が不足するわけですね。

 

少子高齢化が労働力不足を招く理由は、もうひとつあります。それは、高齢者の需要が労働集約的な物に偏っていることです。去年は若者が100万円の自動車を買いました。今年は高齢者が100万円の介護を頼みました。個人消費は100万円で不変ですから、経済成長率はゼロです。

 

去年は全自動のロボット工場が自動車を作って売ったので、労働力は不要でしたが、今年は介護士が介護をするので、労働力が必要です。したがって、同じGDPを生産するために多くの労働力が必要となり、労働生産性の上昇率が下がるわけです。

 

労働力が増えず、労働生産性が上がらないということは、少しでも経済が成長しようとすると直ちに労働力が不足する、というわけですね。つまり、最近の労働力不足の主因は、少子高齢化だというわけです。

 

余談ですが、そうだとすると、今後も少子高齢化は進みますから、10年もすれば「好況なら超労働力不足、不況でも労働力不足」といった時代が来るのかもしれません。

過当競争が激しく、経営者は適正な賃金が支払えない

まったく別の観点から見て見ましょう。

 

「物の値段は需要と供給の一致する所に決まる」というのが経済学の教えです。その価格を「均衡価格」と呼び、均衡価格であれば、当然ながら需要と供給が一致するので、物が不足することはない、というわけです。

 

確かに理屈はその通りなのですが、現実はその通りに動かないので、実際には労働力不足が生じたりするわけです。ちなみに、労働力の価格というのは賃金水準、たとえばアルバイトの時給のことだと考えて下さい。

 

均衡価格の時給でアルバイトを募集すれば、応募者がいるはずなので、労働力不足という事にはならないはずです。実際には労働力不足になっているわけですが、それは「アルバイト募集」の際の時給が均衡価格より低いことによるものです。

 

「ならば、店が均衡価格でアルバイトを募集すればいいだけの話だ」というのは簡単ですが、そうはいかない事情があるのです。それは、値上げが難しいため収入が少なく、アルバイトに高い時給を払うことができないからです。

 

日本企業は以前から過当競争体質なのですが、長いデフレの間に一層過当競争体質になったようです。値下げしてライバルから客を奪うことに熱心なのですが、ライバルも同じことを考えるので、「両者ともに売値が下がるだけで客数は増えない」ということが頻繁に生じているわけです。

 

そうなると、収入が減りますから賃上げは無理ですね。したがって、払える範囲内での時給を提示するわけですが、それでは当然に必要数のアルバイトが集まらないので、労働力不足が続く、というわけです。

労働力不足は「労働者の賃上げ」の絶好の機会

労働力不足だから外国人の単純労働者を受け入れよう、ということで政府が動いていますが、これはやめるべきです。

 

労働力不足というのは、経営者にとっては困ったことですが、労働者にとっては賃金が上がる絶好の機会です。そんなときに外国人の単純労働者が大量に来たら、賃上げの可能性が消えてしまうからです。

 

外国人労働者を受け入れる前に、日本人労働者の賃金を均衡価格まで引き上げるべきです。決まってしまったことは仕方ありませんが、今後受け入れ枠が拡大しないように、日本人労働者や労働組合等はしっかり反対していく必要があるでしょう。
 

今回は、以上です。

 

 

塚崎 公義

久留米大学教授

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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