中国の経済成長率低下が「極めて自然な成り行き」である理由

2桁成長を続けてきた中国経済も近年では目に見えて減速し、今年は6%台前半になるともいわれています。そして、その減速していく状況は、日本の高度成長期が終焉とそっくりです。今回は、中国経済と戦後日本経済史を比較することで、中国の高度成長が続かない理由、成長率が次第に低下していく理由を考えてみましょう。将来の経済不安には、正しい経済学の知識で対抗を。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、連載第8回目です。

2桁成長から6%成長へ落ち着いた中国経済

中国経済といえば、2桁の成長率を続け、あっという間に日本のGDPを抜き去って米国に近づこうとしている・・・という印象が強いですが、最近では6%台の成長率が続いています。昨年は6.6%でしたし、今年は6%台前半になりそうだ、と言われています。

 

6%台前半でも、日本や欧米先進国と比べればはるかに高い成長率ですが、2桁成長から落ちてきたことを考えると、今後も緩やかな低下を続け、将来中国が先進国の仲間入りをしたときには、先進国並みの成長率にまで低下していると思われます。

 

今回は、戦後日本経済史と比較することで、中国の高度成長が続かない理由、成長率が次第に低下していく理由を考えてみましょう。

農村から都会に働きに出る労働者が減ると…

日本の高度成長は、石油ショックで劇的に幕を閉じましたが、石油ショックが来なくても遠からず終わる運命でした。それは、高度成長が無限には続かないからです。

 

高度成長期には、農村から若者が都会に働きに出て来ました。中学を卒業したばかりの「金の卵」たちが集団就職列車に乗って都会に出て来たわけですね。金の卵以外にも、大勢の人が大都市に移住したり、出稼ぎに来たりしました。

 

しかし、農村から都会へ働きに出られる人は、次第に減って行きます。極端なことを言えば、働きに行ける人が全員働きに出てしまえば、働く人材は尽きてしまうからです。

 

一方で、経済が2桁成長を続けているということは、都会で必要な労働者の数が2桁で増え続けるということですから、高度成長が続けば労働力不足になります。実際、高度成長期の後半の日本は大変な労働力不足でした。

経済のサービス化も、労働生産性の上昇率を押し下げる

都会で働ける人数の増加が鈍っただけではありません。労働生産性の上昇率も落ちて行きました。手作業で畑を耕し、洋服を作っている経済が、トラクターやミシンを使い始めると、労働生産性(1人の労働者が作り出す物の量)は飛躍的に向上します。しかし、全員がトラクターやミシンを持つようになると、古いミシン等を最新式の物に買い替えても労働力不足はそれほど向上しません。

 

こうして、使える労働力はそれほど増えない一方で、労働者1人当たりの生産量もそれほど増えなくなったわけですから、高度成長はいずれ終了する運命だったというわけですね。

 

労働生産性の上昇率を押し下げる要因は、もうひとつありました。経済のサービス化です。「ペティ=クラークの法則」といわれるものがあります。経済が発展すると、労働力が第一次産業(農業等)から第二次産業(工業等)、第二次産業から第三次産業(サービス業等)にシフトして行く、というものです。

 

空腹のときは、とにかく食べ物がほしいので、需要が農産物に集中し、それを満たすために労働者は第一次産業に従事します。お腹が一杯になると、自動車や化粧品といった物がほしくなりますから、その需要を満たすために労働者は第二次産業に移動します。

 

物を持つようになると、今度は居酒屋に行ったり、美容院に行ったりしたくなりますから、労働者は第三次産業に移動します。

 

これが、ペティ=クラークの法則です。

 

問題は、自動車や化粧品が全自動の工場で作れるのに対し、居酒屋や美容院は全自動化が難しいので、労働集約的だ、という点です。消費者が100万円分の化粧品を買っていた時代と比べて、100万円分の美容院代を払うようになると、同じ100万円の消費であっても、はるかに多くの労働力を使うのです。

 

したがって、経済がサービス化していくと、「労働力不足で成長できない」というハードルが高くなっていくわけです。

少子高齢化も、経済成長率を押し下げる

じつは、少子高齢化も経済成長率を押し下げる要因です。日本の場合には、高度成長が終わってから少子高齢化が本格化しましたが、中国ではすでに少子高齢化の影響が出始めているようです。少子高齢化によって二つの面から「労働力不足だから経済が成長できない」ということになるのです。

 

ひとつは、当然ですが、労働力の供給が減ることです。現役世代の人口が減れば、高齢者や子育て中の主婦などが働くようになったとしても、補うのは容易ではないでしょう。

 

もうひとつは、高齢者の需要は労働集約的だ、ということです。若者が100万円の自動車を買っても、全自動のロボットが自動車を作ればいいので、労働力不足にはなりにくいですが、高齢者が100万円で介護を頼むと、大勢の介護士が必要となるわけです。

日本の高度成長も、遠からず終わる運命だった

日本の高度成長は、石油ショックによって劇的な幕切れを迎えましたが、石油ショックは単なる契機であって、それがなくても高度成長は終わっていたでしょう。

 

農村からの労働力流入が減り、皆がトラクターやミシンを持つようになり、経済のサービス化も進みましたから。もちろん、安定成長への移行はるかにスムーズだったでしょうが。

 

傍証としては、石油ショックの混乱が終わっても、その後に石油価格が大幅に下がっても、高度成長には戻らなかったということを挙げておきましょう。「高度成長が石油ショックによって一休みを強いられたが、しばらくして再開した」ということにはならなかったのです。

 

中国の場合も日本と同様に、農村からの労働力流入が減り、皆がトラクターやミシンを持つようになり、経済のサービス化も進みましたし、少子高齢化の影響も出始めていますから、成長率が下がるのは自然なことです。中国の場合は日本と異なり、安定成長期への移行はスムーズなものでしょうから、明確な線引きは難しいかも知れませんが。

 

もっとも、中国経済は米中冷戦や過剰債務問題によって、大きな痛手を被る可能性もあります。そうなれば、日本と同様、高度成長が劇的な幕切れを迎えることになるかもしれません。そんなところまで日本の真似をしなくてもいいのですが(笑)。

 

ここから先は余談です。筆者は高度成長が終わったとき高校生でしたが、「高度成長は無限には続かないのだ」という説明を聞いて納得した覚えがあります。「2桁成長が100年続いたら、日本国内を走り回るトラックの数が日本の人口を超えるから」というものでした。あとから考えれば、その説明は誤りでしたが(笑)。

 

「重厚長大から軽薄短小へ」ということで、「大きいことは良いことだ」という高度成長期の価値観が、「小さくて高付加価値」に変化したのです。筆者の掌のスマホが、当時のスーパーコンピューターよりもはるかに高性能であることを考えれば、時代の変化は明らかですね。

 

今回は、以上です。
 


塚崎 公義

久留米大学教授

 

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久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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