中国不安、米ローン債権暴落…世界経済を脅かすリスクシナリオ

戦後最長の景気拡大が続く日本。この景気は当分続くであろうという経済予測を、前回は「メインシナリオ」として紹介しました。しかし、可能性は低いとはいえ、起こってしまうと甚大な被害を被る「リスクシナリオ」もあります。本項では、今注視しておくべき世界経済のリスクシナリオを、人気経済学者の塚崎公義教授がズバリ解説します。将来の経済不安には、正しい経済学の知識で対抗を。塚崎公義教授の目からウロコの経済談義、第7回目です。

米中関係は、もはや「覇権を賭けた冷戦」に

前回の記事、『戦後最長の日本の景気拡大が「まだまだ続く」といえる理由』(有料)では、メインシナリオとして景気の拡大が続くと記しましたが、今回はリスクシナリオについて考えてみましょう。

 

米国と中国が貿易戦争を繰り広げている、といわれていますが、米中関係は関税合戦にとどまらず、覇権を賭けた冷戦を戦っていると考えたほうがよいでしょう。

 

喧嘩には2種類あります。第1は、ガキ大将が「オモチャをよこさないと殴るぞ」と脅す場合です。殴ると自分も痛いので、殴らないでオモチャを手に入れよう、という脅し戦略です。トランプ大統領が日欧などと争っているのは、これに当たります。「米国産の武器を買わないと、日本車に輸入関税を課すぞ」といった脅しをするわけです。

 

第2は、急激に力を増しつつある副社長派閥に恐れを感じた社長派閥が、全面的な戦争を仕掛ける場合です。この場合は「殴ると手が痛い」などといわずに、「肉を切らせて骨を断つ」覚悟で戦うわけです。最近の米中関係は、これに当たります。

 

注目すべきなのは、これがトランプ大統領単独ではなく、上下両院の超党派の対中国方針だ、という点です。むしろトランプ大統領が「米国製品を大量に輸入してくれるなら、中国と仲よくしたい」と考えても、議会等々がそれを許さない、と考えておいたほうがよさそうです。したがって、今後仮に関税が引き下げられたとしても、それ以外の方法で中国叩きは続くはずです。

 

そうなると、中国経済が痛むことは不可避でしょう。メインシナリオでは、米国が中国から買わなくなった物はほかの途上国から買うだろうから、ほかの途上国の景気がよくなり、世界全体の景気はそれほど変わらない、としましたが、リスクシナリオは、中国経済の落ち込みがあまりに急で、ほかの途上国の好景気では間に合わない、という可能性です。

中国から外国企業が逃げ出せば、経済に空白が発生!?

中国政府が中国在住のカナダ人を逮捕し、死刑判決を出しましたが、これはカナダ政府が中国企業の幹部を逮捕したことへの報復措置であるといわれています。今後もこうしたことが続くとすると、米国等(米国及びその同盟国等、以下同様)の企業は駐在員を中国に置いておくことに不安を感じるようになります。

 

また、中国にある資産を差し押さえられる可能性も考えると、急いで工場等を畳んで中国から逃げ帰るほうが安全だ、ということにもなりかねません。

 

通常であれば、ほかの途上国に工場等を建てて、そちらが稼働しはじめてから中国の工場等を畳むのでしょうが、そういう時間的な余裕がない場合には、中国の工場を畳んでからほかの途上国での工場建設を検討する、という事態にもなりかねません。

 

そうなると、一時的に「どこの工場でも生産が行われない時間」が生じます。その間は、「中国の景気が悪くなった分だけ、ほかの途上国の景気がよくなる」ということもなく、「米国向け輸出品に組み込まれる目的で中国向けに輸出されていた日本製部品が減る分だけ、ほかの途上国向けの部品輸出が増える」ということもありませんから、日本の需要が減り、景気が悪化するかもしれません。

 

あるいは反対に、中国で生産されていた物の生産が一時的に止まるので、世界的な物不足が発生するかもしれません。洋服や玩具等の最終製品であれば何とかなりますが、工業製品の部品等であった場合には、世界中の工場が部品不足で生産を続けられない、といった可能性も皆無ではありません。

 

こうしたことが起きる可能性は低いでしょうから、あくまでもメインシナリオではなく、リスクシナリオではありますが、起きた場合の影響は大きいでしょうから、注目しておきたいですね。

米国の銀行等が、ハイリスクな貸出を絞りはじめると…

金融の緩和が続くと、金融機関のリスクに対する拒絶反応が薄れてくるようです。優良企業が借りに来てくれないので、多少リスクのある先にも融資をするようになる、というわけですね。実際に、米国では格付けが低い企業への融資が増えているようです。

 

そうした状況下で、あるとき「景気が悪化しそうだから融資の焦げ付きが増えそうだ」という噂が流れると、各銀行は一斉に融資を回収するでしょうから、景気が一気に悪化する可能性があります。

 

最悪なのは、デマによる銀行の取り付け騒ぎのように、誤った噂を人々が信じて行動したが故に、誤った噂が真実になってしまう、という可能性です。銀行が「景気が悪化して融資の焦げ付きが増えそうだ」という誤った噂を信じて貸出に慎重になると、本当に景気が悪化して、焦げ付きが増えるかもしれません。

 

そうなることを予想した人々は、噂が嘘である(景気が悪くなる理由がない)と思っても、「噂を信じた銀行が融資を回収すると、本当に景気が悪化するかもしれない。我が銀行も融資を回収しておこう」と考えるかもしれず、結局すべての銀行が融資を回収して景気が悪化する可能性もあるわけです。

 

米国の銀行等が、「リスクのある貸出はコリゴリだ」と考えて貸出を絞るようになると、ドルを借りることが難しくなります。ドルは世界中の投資や貿易の取引で使われていますから、ドルを借りることが難しくなると、世界経済に深刻な影響を与えかねません。

 

新しく借りることができなくても、それほど深刻な問題ではありませんが、今すでに借りている人が返済を求められたり、融資の満期時に「借り換え」を断られたりすると大変です。

リーマンショックの悪夢が再来する可能性も

金融緩和が続くと、投資家の間でも「日本国債や米国債を購入しても金利が低くて儲からないから、リスクはあるのだろうが、金利の高い債券を購入して利益を稼ごう」という動きがでてきます。

 

実際に、格付けが低い企業への融資が増えていて、それらをまとめて証券化した「CLO(ローン担保証券)」と呼ばれる商品の発行も増えているようです。これは大変危険なことかもしれません。

 

そうした商品は、ひとたび景気が悪化して融資の返済が滞ると、あるいは投資家たちが景気の悪化による返済の滞りを予想しただけでも、一斉に売りが出て、買い手が付かずに価格だけ暴落して保有している投資家等が全員大損をする、といった可能性があるからです。

 

リーマン・ショックのときに起きたことですね。

可能性は低くても、被害の大きさを考えれば注意が必要

銀行や投資家たちが一斉に資金を回収しはじめる事態は、ある意味で合成の誤謬(ごびゅう)だといえるでしょう。パーティー会場の火災の際には、各自にとって最適な行動は非常口に向かって走ることですが、全員が同じ行動をすると全員が酷い目に遭います。それと同じことが起きかねないわけです。各銀行にとって最適な行動は融資の回収ですが、皆がそれをすると皆が損をする、というわけですね。

 

大きなパーティー会場に出口が少ししかないことを知っていたとしても、人々が気持ちよく酔っているときには気にしないでしょうし、少しは気にしたとしても「自分は他人より早く走れるから大丈夫」だと思い込んでいたりするものです。

 

酔っていないときでさえも、「もしも火災が発生して全員が非常口に殺到したら何が起きるか」という想像力を働かせる人は稀でしょう。合成の誤謬の面倒なところは、実際にそれが起きるまでだれもそれを気にしない、という点なのかもしれませんね。

 

そんなときに火災が発生したりすると大変です。バブルのときに株を買う人、金融緩和のときにリスクの高い融資をする銀行なども、パーティー参加者と同じようなものかもしれません。

 

パーティー会場で火災が起きる可能性が低いのと同様に、米国の銀行融資の回収が激増する可能性も低いとは思いますが、万が一の場合の被害の大きさを考えると、要注意です。

 

本稿で指摘したようなことは、発生する可能性は低いけれども発生したら影響が大きいリスクシナリオとして、注目しておく必要がありそうです。

 

今回は、以上です。

 

 

塚崎 公義

久留米大学教授

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久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載塚崎公義教授の目からウロコの経済談義

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