疲れ目だと思ったら!? 失明にもいたる「網膜剥離」の初期症状

今回は、網膜剥離の危険性とその治療にまつわる注意点を見ていきます。※いくら見た目年齢を若く保っても、「目の老化」は避けて通ることができません。50歳を過ぎれば、白内障や緑内障、加齢黄斑変性、眼瞼下垂など、加齢による目の疾患のリスクが上昇します。加齢による目の疾患は、症状が少しずつ進行するものも多く、気づいたときには取り返しがつかなくなるケースも少なくありません。本連載では、加齢によって生じる目の疾患について、医師がやさしく解説します。

入院期間を聞き、手術を躊躇した大手企業取締役

【事例5】 「入院が必要」と言われ、網膜剝離の手術を先延ばしして、失明寸前に!

 

大手企業に勤務する友彦さん(55歳)は、半年ほど前から左の目の前をちらちらと何かが飛んでいるように見えるようになりました。

 

最初はただの疲れ目だと思っていたのですが、なかなかよくならず、次第に見えづらさを感じるようになったため、大学病院の眼科を受診したところ、「網膜剝離で、すでに網膜がはがれている」と言われました。

 

すぐに入院して手術しなければならないということでしたが、入院期間を聞いた友彦さんは愕然としました。最低でも1週間、できれば2週間入院して、絶対安静を保たなければならないというのです。

 

実は友彦さんは、2カ月前に昇進し、常務取締役に就任したばかりです。大学卒業後、私生活も家族も半ば犠牲にして働いてきた結果、ほんの一握りしか就けないポストに就いた早々、治療のために長期間、会社を休むわけにはいきません。

 

また、これまで大病をしたことがなかった友彦さんにとって、いきなり「入院して手術しましょう」と言われても、どうしてそこまでしなければならないのか、たかが目じゃないか、しかも今現在、痛みがあるわけでもないしという気持ちが先立ち、手術を拒否しました。

 

右目は普通に見えていたので、「片方の目が見えるからいいや」という気持ちもありました。

 

ところがその3日後、友彦さんは恐ろしい事態に直面しました。朝、目が覚めたとき、左の目にカーテンがかかったように視野の3分の2が見えなくなっていたのです。

 

このとき初めて友彦さんは、医師の「このまま放っておくと、大変なことになりますよ。最悪の場合、失明することもありえます」という言葉の意味を理解したのでした。

 

網膜剝離の有効な治療法は手術です。

 

手術は日帰りで行うことも可能ですが、実際には日帰りで手術をしてくれる病院はそう多くありません。

 

日帰り手術を行うには、短時間で手術を行える高い技術力を持った医師と、的確な術後管理を行うためのノウハウが確立されていることが必須条件だからです。

 

これを裏返すと、網膜剝離で入院を勧める病院は、「日帰り手術ができるほどの技術力と術後管理のノウハウがない」ともいえます。

 

というのも、患者さんに入院してもらえれば、手術時間が長引いて深夜に及んだり、患者さんに必要以上の絶対安静を強いたりすることが可能になり、病院側にとって大変好都合になるからです。

 

手術に長く時間がかかると、患者さんの体にかかる負担が大きくなり、感染リスクが高くなります。

 

時間の流れがスピーディーになっている今の時代、1週間や2週間の入院が可能な人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

 

特に働き盛りだったり、職場で重要なポストに就いていたりする人の場合、「眼科治療で、1〜2週間入院のために休みます」とは、なかなか言いづらいでしょう。

 

特に眼科疾患の場合、治療しないからといって即座に命に関わるものではないので、手術の緊急性が理解されづらいという事情もあります。

 

さて、では仮に1〜2週間の時間をどうにか捻出して入院したとしましょう。その入院期間に何をするかというと、ひたすら同じ姿勢で安静にしていることを強いられるだけなのです。

 

急激な進行もある網膜剥離は、即刻手術が必要

網膜剝離は何らかの原因によって網膜に穴があき、眼球の中の硝子体というゼリー状の物質がそこから漏れ出して、網膜と網膜の外側の層との間に入り込み、網膜がはがれる病気です。部屋の壁紙が、湿気によってはがれるのをイメージしていただくとわかりやすいかと思います。

 

網膜剝離の初期症状は、目の前を黒い点がチラチラと飛ぶ飛蚊症という形で出てきます。網膜に小さな穴があいていることによるもので、この段階だとレーザーで穴を塞ぐことができます。

 

ところがこれを放置すると、次第に硝子体が網膜の裏側に回ってしまい、網膜がはがれていき、友彦さんが経験したようにカーテンがかかるように半分だけものが見えないなど、視野が欠けてくるのです。

 

こうなると手術は避けられません。網膜の裏に回ったゼリー状のものを取り去って空気を入れ、はがれた網膜を外側の層にレーザーでくっつける手術が必要になります。

 

網膜剝離は、急激に進行することがあります。1〜2日遅れると、急速に悪化したり、術後の回復が遅れたりする可能性があるため、網膜がはがれているのがわかった段階で、即座に手術を行わなくてはなりません。

 

ですから本来、「入院して手術しましょう。つきましては1〜2週間お仕事を休んでいただいて……」などと言っている場合ではないのです。

 

なぜならば、入院手術となると、患者さんのスケジュール調整だけでなく、病院のベッドの空き状況や、手術室の使用状況による調整、手術室のスタッフのスケジュール調整など、いくつもの調整が必要になり、それだけで時間がかかってしまうからです。

 

そうした調整に時間をかけるよりも、その時間に即刻手術を行わなければならないのに。

 

ベッドや手術室の空きがなければ何日も待たねばならず、その間に病気が進行していくことも十分に考えられます。

 

「入院施設のある大病院だから安心」ではなく、「入院しないと網膜剝離の手術が受けられない病院よりも、すぐにでも手術をしてくれる病院が安心」なのです。

 

つまり、日帰り手術ができる病院のほうが、素早い対応ができるということです。

網膜剝離手術後に求められる「絶対安静」とは?

とはいえ、手術後に「絶対安静」を保たなければならないのだとしたら、やはり入院したほうがいいのでは? と思っても無理はありません。

 

では網膜剝離手術後の「絶対安静」についてご説明しましょう。

 

網膜剝離の手術では、はがれた網膜を外側の層に密着させるため、眼内にガスやシリコンオイルを注入します。そのため、「最低でも1週間はうつぶせ寝で安静を保つことが必要」というのが「絶対安静」で、それがこれまでの網膜剝離の手術後の「常識」とされていました。

 

しかし、実際は網膜がはがれている位置によって、押さえつける必要のある場所が異なるため、必ずしも全員が全員、1週間うつぶせのままでいなければならないということはないのです。

 

さすがに仰向けというわけにはいきませんが、網膜剝離の手術経験が豊富で、多くの症例を見てきた医師であれば、「この人は右向きに寝ても大丈夫」など、その人によって取ってもいい体勢、取ってはいけない体勢に違いがあることがわかっているので、的確な指示を出すことができます。

 

「絶対にダメな体位」を避けるようにすれば、日帰り手術をして術後3日目から仕事に復帰するとか、主婦であれば、掃除は家族に任せるとしても食事の支度はできるなど、早期に日常生活を再開することが可能になります。

 

そもそも入院してうつぶせの状態を保つといっても、病棟で看護師が24時間見張っているというわけでもありません。自然に寝返りを打ってしまうこともあるでしょう。

 

また、大病院に眼科専門の病棟看護師が必ずいるとも限りません。むしろ眼科専門の看護師はほとんどいないと考えていいでしょう。

 

するとどんなことが起こるかというと、眼科医師としては仰天するようなことが起こるわけです。多くの眼科医は、夜勤の看護師から「眼帯が煩わしいと患者さんが言うので外した」とか「首が痛いというので、仰向けにさせた」「目が熱いというので湿布をした」など、「それはあり得ないでしょう」という報告を受け、驚いた経験を持っているのではないでしょうか。

 

日帰り手術ができない病院に行ってしまい「入院による絶対安静が必要」と言われ、適切な手術時期を逃してしまった友彦さんのような例は、全国でもたくさん見られます。

 

現代の医療技術では、医師の力量・施設の充実度次第で、どのような眼科手術も日帰りで行うことができるという事実を知らなかったために起こった悲劇といえるでしょう。

 

アイケアクリニック院長
医療法人トータルアイケア理事
アイケアクリニック銀座院副院長 医師

獨協医大越谷病院・眼科専門外来として、黄斑外来・緑内障外来・糖尿病レーザー外来・PDT外来・硝子体内注射外来等を担当しながら、栗原眼科にも勤務。
白内障や眼瞼、結膜疾患の手術を中心に担当。その後、八潮中央総合病院眼科医長として、白内障、眼瞼、結膜疾患だけでなく緑内障手術、網膜硝子体手術、硝子体内注射など幅広く手術も行いながら、外来診療では地域住民のかかりつけ医として地域医療にも貢献している。

http://cataract.eye-care-clinic.jp/

著者紹介

連載「目の疾患」の基礎知識…加齢がリスクになる白内障・緑内障・加齢黄斑変性とは?

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