相続はゴネた人が得をする?弟から200万円をせしめた姉

今回は、遺産の再分配を求める相続トラブルが、どのように決着したのかを見ていきましょう。※相続でもめたあげく、仲がよかった親族が憎しみ合い、絶縁状態になるケースは少なくない。また、近年の法改正により、このような問題に頭を抱える人たちは、ますます増加することが想定される。もし自分の身に降りかかったら、どうすべきか。本連載では、リアルなエピソードを追いながら、相続トラブル解決のヒントを探る。

姉のそばには「入れ知恵」をする人物が…

「それでお姉さんは納得したのですか」

 

「最初は猛反発していました。兄がたくさんもらっている、私はもっと受け取る権利がある。その一点張りでした」

 

「しかし、お姉さんもお金をもらっていたんですよね」

 

「ええ。それでも、自分がもらった分は棚に上げて、兄が多くもらっている分を自分によこせと言い張っていたんです」

 

「無茶苦茶ですね」

 

「はい、無茶苦茶です。自分の姉でありながら他人のように見えましたし、他人であってほしいとも思いました」

 

「もともとそういう強気な性格だったのですか?」

 

「いいえ。どちらかというと穏やかなほうです。しかし、お金に困っているという現実があって、背に腹は代えられない状態だったのでしょう。それと──」

 

「それと?」

 

「どうやら近くに相続に詳しい人がいたようで、その人から相続のやり直しなどについて話を聞いたようなのです」

 

やはりそうか。姉の近くに入れ知恵する人物がいた。特別受益のこともその人物が教えたのだろう。相続トラブルでは、ゴネた人が得するケースが少なくない。そういう実情を知っている人が近くにいたのだ。もしかしたらその人自身が、過去にゴネて得したのかもしれない。自分がもらった分は隠しておけばいい、兄が多くもらっているんだからそこからもらえる。そういったことを教えたのだろうと思った。

「私が200万円を渡しました」

「どうやって説得したのですか」

 

「私が200万円渡しました」

 

「大将さんが?」

 

「はい。たまたま母から相続したお金をそのままにしてありましたので、それを渡すことにしたんです。それで、この相続やり直しの話はなしにするという約束で」

 

優しい男だと思った。

 

「そこまでお姉さんのことを心配しているとは思いませんでした」私はそう言った。実際、そのようには見えなかったからだ。

 

「いえいえ、姉のことというより、兄弟仲が壊れるのを避けたかったんです。兄を巻き込むようなことになれば、ますますトラブルが大きくなります。亡くなった母親もそんなことは望まないでしょうから」

 

「お母さまはどんな人だったのですか?」

 

「よくも悪くも、子どもに甘い人でした。兄がお金に困っていれば、妹、弟には内緒だよと言ってお金を渡す、姉が困っていれば、兄さん、弟には内緒よと言ってお金を渡す。そういうところがあったんです」

 

「そうでしたか」話を聞きながら、母親の姿が目に浮かんだ。

 

お金を援助するのは構わないが、他の兄弟に内緒にしていたことが問題だ。

 

長男は事業でお金がいる。長女がお金に困っている。そういう事情を話しておけば、このようなトラブルにはならなかったのではないか。

 

母親に悪意はない。むしろ善意しかない。子どもを支えようとしているだけだ。しかし、その優しさが子どもをダメにすることがある。

 

もしかしたら大将さんも、優しい母親の血を引いているのかもしれないと思った。

 

いくら兄弟だからといって、ポンと200万円もの大金をあげるのは難しい。自分で店を切り盛りしている人ならなおさらである。

 

その考えを察知したかのように、大将さんが言う。

 

「甘いなあと思っていますよね」

 

そして、頭を搔いた。

 

「いや、そんなことは」

 

私は言葉を濁したが、濁しきれなかった。昔から噓はどうにも苦手なのだ。

 

「いいんです。私自身、なんで還暦をすぎた姉の面倒を見なければならないんだと思います。でも、現状として、それしか方法が思いつかなかったんです」

 

「そうですね。最善の方法だったと思います。あとはお姉さんがしっかりしてくれれば無事解決でしょう」

 

「ええ。頭を冷やしてくれることを望みます」大将はそう言って笑った。

トラブルのタネは放置せず、早めに解決を

「ところで先生、もう1つ相談があるのですが」大将が言う。

 

「何でしょうか」

 

「今回の件で私は姉にお金をあげたわけですが、それは税制的にはどうなるのでしょうか」「貸すのではなく、あげるのですか?」

 

「ええ、姉弟で貸し借りはしたくありません。どうせ貸したとしても返ってこないでしょうし、この件はこれでケリをつけたいんです」

 

「そうですか。その場合は贈与になりますので贈与税が発生します」

 

「いくらくらいですか?」

 

「贈与税は1年につき110万円まで非課税ですから、残りの90万円に対して10%の税金がかかります。つまり、9万円です」

 

「そうですか。仮に、母から相続したお金を再分配するというやり方でも、税金は同じですか?」

 

「はい。税法上は、一度相続が成立した時点で遺産の分割が終わったことになりますので、その後で遺産を移動させると税額の再配分となるのです」

 

「なるほど。すみませんが、その辺の手続きをお任せしてもいいですか。もちろん、前回の相談料と合わせてお金は払いますので」

 

「構いません。それと、お金は不要です。こんなことでお金を受け取ったらママに怒られますからね」

 

「そうですか。では、お言葉に甘えさせていただきます。せめてうちの店の寿司だけでもご馳走させてください」

 

「それはありがたい。では、私も遠慮なくご馳走に上がります」

 

私は笑顔でそう答えた。それからしばらく大将と雑談し、彼を見送った。

 

トラブルに巻き込まれた大将さんは気の毒であったが、調停や裁判になる前に解決できたという点ではハッピーエンドだったといえるだろう。

 

相続トラブルは、放っておいても解決しない。放っておく時間が長くなるほど、多くの人を巻き込み、大きくなっていく。

 

もめないことが第一であるが、もめそうなら早く手を打つ。

 

それが大事だ。大将さんの家の場合、母親が兄や姉を甘やかしたことですでにトラブルの種がまかれていた。そのタネが芽を出し始めた時に、大将さんが解決に動いたからこそハッピーエンドとなったのだ。

 

もちろん、美味しい寿司をタダでいただけることになった私にとってもハッピーエンドである。

 

 

髙野 眞弓

税理士法人アイエスティーパートナーズ 代表社員

税理士

 

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税理士法人アイエスティーパートナーズ 代表社員

東京・浅草生まれ。國學院大學経済学部卒業。日本大学大学院・慶應義塾大学大学院修了。又野税務会計事務所勤務を経て、1975年に独立、税理士髙野眞弓事務所を立ち上げ、多種多様な業種・業態の企業の顧問税理士を務める。事業規模拡大に伴い、2016年6月に税理士法人アイエスティーパートナーズを設立。
40年以上にわたり、「税務のアドバイザー」という枠を超えた公私のパートナーとして、多くの経営者の悩みを解決してきた。特に、骨肉の争いに発展しやすい相続税・贈与税等について、一家の思いに寄り添った提案を行い円満相続に導いている。

著者紹介

連載炎上する相続~エピソードで読み解く「相続トラブル」の解決策

炎上する相続

炎上する相続

髙野 眞弓

幻冬舎メディアコンサルティング

裁判沙汰になったトラブルの3割が遺産総額1000万円以下⁉︎ 「ウチは大丈夫」と思ったら大間違い! 6つの炎上エピソードから学ぶ「円満相続」の秘訣 相続でもめたあげく、兄弟姉妹が憎しみ合い、絶縁状態になってしまうこ…

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