所有物件が大地震で損壊…借主との「賃貸借契約」はどうなる?

ここ最近、台風や大雨による水害や大地震などの自然災害が相次いで起こっています。このような大規模な自然災害により、所有する不動産に何らかの影響が出た場合、不動産投資家としては、どのように対応したらよいでしょうか。※本連載では、投資用不動産業界の健全化を目指す一般社団法人首都圏小規模住宅協会が、正しい知識と公平な情報を紹介します。

具体的に「建物の滅失」の状態を定めた規定はない?

【今回の執筆者紹介】
竹村 鮎子 弁護士
練馬・市民と子ども法律事務所
2009年弁護士登録

 

大規模自然災害が賃貸経営に与えうるリスクについて、前回(関連記事『看板が落下して通行人がケガ…ビルオーナーの責任は?』)に引き続いて解説いたします。

 

【モデルケース】

大規模な震災が発生したため、Aさんが所有していた賃貸用の戸建てが損壊してしまいました。この場合、Aさんと借主の間で、今後の賃貸借契約はどうなってしまうのでしょうか。

 

<建物が滅失してしまった場合>

 

ア 建物の滅失とは?

 

そもそも、建物の滅失とはどのような状態を指すでしょうか。

 

この点、具体的に建物の滅失とはどのようなものであるかを定めた規定はありません。罹災証明書などでは、建物について「全壊」「大規模半壊」「半壊」などという判断がなされることがあります。

 

「全壊」の場合には、建物は滅失したと判断できそうですが、「大規模半壊」「半壊」などの場合には、修繕する場合にはどの程度費用がかかるのかなどの要素から、建物が滅失したかどうかの判断がなされるものとされています。

 

したがって、罹災証明書上では「一部損壊」とされていても、場合によっては「滅失」と判断されることもあります。

 

イ 賃貸借契約はどうなるか?

 

賃貸借契約における貸主の義務は、「建物を契約の趣旨(居住用なら居住用、事業用なら事業用など)に沿った形で利用できる状態で貸すこと」です。しかし、建物が災害で滅失してしまった場合には、もはや建物を貸すことができないわけですから、賃貸借契約は終了します。

 

ウ 借主の原状回復義務はどうなるか?

 

通常、賃貸借契約が終了した場合、借主には、退去時には建物を原状回復する義務(建物を借りたときの状態にして返すこと。ただし、経年劣化の部分や、通常の利用の範囲内の損耗まで回復させなくとも良い)がありますが、そもそも建物自体がなくなってしまっているため、借主には原状回復義務はありません。

 

エ 敷金はどうなるか?

 

また、賃貸借契約時に差し入れられた敷金の扱いですが、敷金とは、賃貸借契約における借主の債務を担保するものです。したがって、借主に未払賃料などがない場合には、建物が滅失したとしても、貸主は借主に対して、敷金を全額返還しなくてはなりません。

 

オ 新たに建物を建築した場合はどうなるか?

 

Aさんが建物を新たに建てる場合、何か決められた手続きはあるでしょうか。

 

平成25年9月25日に施行された、大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法(被災借地借家法)が適用される場合、被災借地借家法の適用があってから3年以内に、賃貸建物の所有者が、同じ場所に新たに建物を建築する場合、従前の賃借人のうち、所在が分かっている人に対しては、新しい建物を作ることを通知する必要があります。

 

これは、従前の賃借人に対して、新しい建物に入居するための交渉をする機会を与える趣旨ですので、賃貸人として必ず従前の賃借人に建物を貸さなくてはならないというものではありません。

 

カ 借地上に建物が建っていた場合

 

Aさんの建物が、借地上に建っていた場合、Aさんの借地権はどうなるでしょうか。

 

建物が滅失しても、それだけでは借地権は消滅しません。しかし、被災借地借家法が適用されてから1年間は、建物の滅失により、地代の支払が困難になったため、借地契約を解約したいときには、地主に借地契約の解約を申し入れることができます。

 

また、建物を再築する前に、地主が土地を第三者に売却してしまった場合、借地権の登記をしておかなければ、地主に立ち退きを命じられることがあります。その場合に備えて、借地人は、全壊した建物に関する所在、家屋番号、種類、構造などの登記事項、全壊した日時、新しい建物を建てる旨、および自分の住所氏名を記載した立看板を立てておく必要があります。

 

原則として、立看板を立てて2年以内に新しく建物を建てたときには、借地権を新しい地主に対しても主張できます。

 

しかし、被災借地借家法が適用される場合には、立看板を出しておかなくても半年の間は、新しい地主に対して借地権を主張することができます。

建物が一部損壊した場合、修繕費は「賃貸人」が負担

<建物が一部損壊した場合>

 

ア 賃貸借契約はどうなるか?

 

建物の損壊が一部にとどまる場合、まだ建物は利用可能といえますので、賃貸借契約は終了しません。

 

イ 誰が建物を修理するか?

 

建物が一部損壊したものの、全壊には至っていない場合には、賃貸借契約は当然には終了しません。この場合、賃貸人は、建物を使用できるように修繕する義務を負います。仮に、賃借人の側が建物を修繕した場合には、その費用は賃貸人が負担する必要があります。

 

ウ 修理期間中の賃料はどうなるか?

 

それでは、建物を修繕している間、賃貸人は賃借人に対して賃料を請求できるでしょうか。

 

この点、賃料は「賃貸借契約の目的となっている建物を利用する対価」ですので、建物の修繕の間、賃借人が建物を利用できない場合には、賃料の請求はできないでしょう。

 

また、建物自体には影響がなくても、水道やガスが使えないなど、ライフラインに影響があったり、マンションのエレベーターが使えなくなったなどの事情がある場合には、賃料はその影響に応じて減額されるでしょう。

 

それに加えて、賃借人が一時、建物を利用できないために他の建物を借りた際の賃料まで、賃貸人が負担する必要はあるでしょうか。

 

これについては、建物の損壊の原因が賃貸人にあれば、賃借人に生じた損害は賃貸人が賠償すべきと考えられます。したがって、賃貸人が必要な建物の管理を怠っていた結果、災害が引き金となって建物が損壊したというような事情があれば、賃貸人側が、賃借人の仮住まいの賃料も負担するべきであるといえるでしょう。

 

エ 修繕しても建物の一部が使えなくなった場合はどうなるか?

 

それでは、建物の修繕はできたものの、例えば、部屋が1室使えなくなったなど、一部、これまでどおりの利用ができなくなった場合はどうでしょうか。

 

この場合、契約当初と比べて、建物の利用に制限が出たわけですから、利用できない割合に応じて、賃料の減額がなされるべきであるといえます。その場合は、使えなくなった部分の床面積の割合や機能に応じて決定することになるでしょう。

 

オ 賃貸借契約を終了させたい場合はどうするか?

 

建物を修繕するのではなく、思い切って賃貸借契約を終了させたいと思う場合には、貸主はどのようにしたらよいでしょうか。

 

この場合、建物の賃貸借契約は有効ですので、契約の更新時期に、「更新拒絶」を行うことになります。建物の賃貸借契約において、契約の更新拒絶を行うには、「正当事由」が必要になります。

 

具体的にどのようなものが正当事由に当たるかといえば、賃貸借契約を終了させることについての正当な理由であり、建物の賃貸借について定めた法律である借地借家法には、「建物を必要とする事情」「建物の利用状況」「建物の現況」「財産上の給付」がその判断基準として挙げられています。

 

Aさんの場合、災害により建物が一部損壊したという事情は、「建物の現況」が賃貸借契約を継続させるのに不適切であり、正当事由の1つになりうるものといえます。

 

ただし、究極的には、賃借人側の事情と賃貸人側の事情を天秤にかけて、正当事由の有無が判断されるので、賃借人の側にも、どうしてもこの建物を借りたいという事情がある場合には、「財産上の給付」すなわち立退料の支払が必要になるといえるでしょう。

 

<建物の倒壊により死傷者が出た場合>

 

それでは、建物の倒壊により、賃借人に死傷者が出た場合、Aさんに何らかの責任が生じるでしょうか。

 

この点、Aさんには土地の工作物の所有者として、「工作物責任」が発生します(工作物責任の詳細については、前回をご参照ください)。

 

つまり、予見可能な災害によって、建物が必要な強度を持っていなかったために損壊し、第三者に損害が生じた場合には、土地の工作物(建物)の所有者であるAさんは、その第三者に生じた損害を賠償しなくてはなりません。

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練馬・市民と子ども法律事務所 弁護士

2009年に弁護士登録、あだん法律事務所に入所。田島・寺西法律事務所を経て,2019年1月より、練馬・市民と子ども法律事務所に合流。主に扱っている分野は不動産関係全般(不動産売買、賃貸借契約締結、土地境界確定、地代[賃料]増減額請求、不動産明渡、マンション法等)の法務が中心だが、他にも企業法務全般、労働法関連、一般民事事件、家事事件、刑事事件など、幅広い分野を取り扱っている。実地で培った法務知識を、「賃貸経営博士~専門家コラムニスト~」としてコラムを公開しており、人気コンテンツとなっている。

著者紹介

投資への関心が高まる中で、高い安定性から注目を集める不動産投資。しかし不動産業界の現状は残念ながら不透明な部分が多く、様々な場面で個人投資家様の判断と見極めを要します。一人ひとりの個人投資家様が正しい知識を身に付け、今後起こり得るトラブルに対応していくことが肝要です。私たち一般社団法人首都圏小規模住宅協会は、投資用不動産業界の健全化を目指す活動の一環として本サイト「不動産投資塾」を介し、公平な情報をお送りいたします。

著者紹介

連載初心者から上級者まで…知っておくべき「投資用不動産」の基礎知識

本連載は、「不動産投資塾」の記事を抜粋、一部改変したものです。

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