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元中流サラリーマン層が危ない 「医療費」で破産寸前の事例

本記事では、年金暮らしの高齢者が「下流老人予備軍」となり得る理由を探ります。※本連載では、高齢者が貧困に陥るきっかけとなる無駄な医療を受けずに、人生をまっとうするために知っておくべきことについて、データを基に解説します。

予想される「年金額の引き下げ」「医療費の高騰」

高齢者が余裕ある暮らしを送るためには、数千万円に及ぶお金が必要です。しかし、それだけの預金を蓄えている人は、ごく少数にすぎません。そこで、多くの高齢者は年金に頼って老後の生活設計を立てています。

 

ところが、日本の財政状況はきわめて厳しい状況です。さらに、今後は年金額が引き下げられてしまうかもしれません。一方、医療費は徐々に高くなると予想されています。既に高齢者の家計には、暗い影が迫っているのです。

 

しかし、過去の生活スタイルを180度転換するのは難しいことです。歳をとっても、人付き合いはしたいですし、趣味も楽しみたい。時には見栄を張りたいと思うのが人情だからです。

 

なかでも、現役時代にある程度の収入を得ていた中流サラリーマン家庭は、生活レベルを落としたくないと考え、年金受給額以上の暮らしをしてしまいがちです。

医療費を無視した人生設計が「下流転落」の原因に

私が受け持っている患者のなかにも、定年後も贅沢な暮らしを続け、その結果、借金を抱えたり破産寸前に追い込まれたりした人が何人もいます。また、私がNPO法人を通じて支援しているホームレスのなかには、現役時代、1000万円クラスの年収を得ていた方もいます。

 

彼らが転落した原因はさまざまです。

 

急な病気で高額な医療費が必要になった人はもちろん、老後のことを考えず、家の増改築や車の購入代金など、まとまった出費が原因で預金が目減りした人。投資や、定年後に手がけたビジネスが失敗して借金を背負った人。子どもの学費や、家を新築した子どもに援助したことが原因でお金を使い果たした人もいました。

 

思わぬトラブルも1回くらいで済めば、人はなんとか対応できます。しかし、それが2度、3度と続くと、どんな人でも転落してしまう危険があるのです。

 

私のクリニックに通う患者のひとりで、多額の資産を持っていながら自殺寸前まで追い込まれたAさんのケースを紹介しておきましょう。

老後のため新築マンションを購入したAさんだったが…

○Aさんの場合

 

【プロフィール】

80歳男性。大学卒業後、電力会社に入社して営業や総務などを担当。60歳で定年退職し、現在は特に仕事はしていない。

 

【家族構成】

77歳の妻、51歳の息子、49歳と46歳の娘がいる。長男とは以前から折り合いが悪く、現在はほとんど音信不通の状態。長女と次女は遠くの地方に嫁いだため、それぞれ数年に1度程度しか会わない。

 

【経済状況】

会社員時代の年収は1100万円程度。退職時には7000万円ほどの資産があった。現在の収入は、Aさんの厚生年金が月25万円、妻の国民年金が月5万円ほどで、合計すると月30万円程度。

 

Aさんは、ある大企業に勤めていました。定年直前の年収は1000万円を超え、退職時には預金や株式などで約7000万円の資産があったといいます。その頃には、3人の子どもは全員独立しており、まさに悠々自適の老後が待っているはずでした。

 

Aさんは退職してすぐ、3LDKの新築マンションを4000万円で購入しました。それまで住んでいた郊外の一戸建ては、駅や市街から離れていて、大型のショッピングセンターや病院などに行くにも車で15分ほどかかり生活するにはやや不便だったからです。

 

Aさん自身も妻も運転ができますが、高齢になればいつまでできるかわかりません。また足腰も弱るだろうと考えると、買い物や通院がしづらくなります。そこで、大都市の中心部で交通の便のよい街に移り住んだのです。

 

郊外の一戸建ては売却しましたが、築30年だったため、取り壊して更地にしなければ売れませんでした。その費用もかかり、売却で得られたお金は、わずか200万円程度にしかなりませんでした。

 

そのため、預金は一気に減りましたが、年金が月に30万円も受け取れるため、問題なく暮らせるだろうというのがAさんの考えでした。

妻が認知症を発症し、高額な医療費負担が発生

ところが、新居に移ってわずか数年で状況は一変します。

 

奥さんが認知症を発症してしまったのです。Aさんには子どもが3人いましたが、全員が他府県で生活していて、子育て真っ盛り。時間的にも経済的にも余裕はなく、実家の手助けはできない状況でした。しかも、それまでずっと仕事人間として生きてきたAさんには、家事をしながら奥さんの介護をすることは難しかったのです。

 

Aさんは仕方なく、奥さんを介護施設に入れることにしました。

 

しかし、費用が安い特別養護老人ホームは、順番待ちの人がたくさんいて、何年も待たなければならないという話でした。仕方なく、Aさんは民間の有料老人ホームを探し、奥さんの面倒を見てもらうことにしたそうです。

 

奥さんが入所したのは、料金がかなり高い老人ホームでした。しっかりとした施設を選んだのは、奥さんに対するAさんの愛情だったのでしょう。ただし、この老人ホームは、一時入居金が2000万円も必要でした。Aさんの資産は、この時点でほぼ底をついてしまったのです。

 

奥さんが入った老人ホームは、月に17万円の費用がかかります。一方、Aさんがもらえる年金額は約30万円です。

 

17万円を支払えば、残るお金は13万円です。しかし、この時点ででAさんは、マンションを即金で買ったため、「住む場所は確保しているのだから、月に13万円あれば何とか暮らせるだろう」と甘く見ていたようです。

 

ところが、マンションを維持するためには、管理費や修繕積立金が必要ですし、税金や医療保険料も支払わなければなりません。また、奥さんのおむつ代や医療費が17万円以外に必要で追加で3万円ほど必要になるのも誤算でした。

 

さらに、70歳を過ぎた頃、Aさん自身も脊柱管狭窄症に悩まされるようになり、痛みを止める神経ブロック注射を定期的に打つことになりました。週に1度のペースで打つため、月に9000円ほどの医療費がかかるようになったのです。

 

結局、支出が収入を上回り、毎月の生活費は数万円の赤字となってしまいました。

 

しかし、高校、大学に通う孫を抱えている子どもたちに、経済的な負担をかけたくないという気持ちもあり、また一流企業のエリートコースを歩んだプライドもあり、子どもたちには相談ができませんでした。

 

しかし、だからといって、終の住処として購入したマンションを手放す気にはなれなかったそうです。そこで、つい消費者金融からお金を借りてしまったのです。

 

最初に借りたのは、奥さんの老人ホームに支払うために必要な3万円でした。ところが、借入額はどんどん増えていき、やがて複数の会社から200万円以上を借りるようになりました。

 

Aさんは誰にも相談できないまま、返済に悩んでいたそうです。そしてある日、線路脇にたたずみ、ぼんやりと死ぬことを考えていたところ、私が理事長を務めるNPO法人の職員に声をかけられ、すんでのところで自殺を思いとどまりました。

 

結局、Aさんはマンションを2000万円で売り払い、手頃なアパートに引っ越しました。豊かな老後を迎えるはずが、終の住処になるはずだった都会のマンションで暮らせたのは、3年ほど。購入時の価格は4000万円でしたが、売却費は半額程度になってしまいました。その売却代金で、借金をすべて返済し、残ったお金で細々と生きていくつもりだといいます。

 

Aさんの経済状況は、かなり恵まれていた部類だと思います。預金額も十分でしたし、年金額も平均よりかなりもらっています。それでも、高価なマンションの購入と、奥さんの認知症という2つの大きなアクシデントによって、自殺を考えるところまで追い込まれてしまったのです。

 

今後、日本は国力の低下が予想されています。高齢者が増えて社会保障費はふくれあがるばかり。一方、少子化によって若い世代は少なくなり、税収は伸び悩みます。そうなれば、医療費負担の増額や、年金支給額の削減が進む可能性は大です。

 

高齢者の経済環境は厳しくなるばかりです。特に危険なのは、このようにある程度経済的ゆとりがあり、将来に向けて不安を感じていない元中流サラリーマン層なのです。

 

 

森 亮太

医療法人 八事の森 理事長

 

医療法人 八事の森 理事長

医療法人八事の森理事長(杉浦医院院長)。NPO法人ささしまサポートセンター理事長、NPO法人外国人医療センター理事、名古屋労災職業病研究会代表。1970年生まれ、1998年名古屋市立大学医学部卒。宗教法人在日本南プレスビテリアンミッション淀川キリスト教病院で内科・小児科から救急、ホスピスでの緩和医療まで幅広く研修。2000年名古屋市立大学臨床研究医、名古屋市立東市民病院(現・名古屋市立東部医療センター)で外科医として勤務。2010年4月から杉浦医院の副院長、2011年1月より院長に就任。

著者紹介

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幻冬舎メディアコンサルティング

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