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赤字確実でも必要な事業・・・運営すべきは国か、民間企業か?

今回は、自衛隊や健康保険、JR北海道などを例に、政府の役割と民間の役割について考察します。※本連載は、わかりやすい経済解説で知られる久留米大学商学部教授・塚崎公義氏の著書、『経済暴論』(河出書房新社)の中から一部を抜粋し、普段なかなか報道されない、日本の景気と財政の実態について解説します。

必要不可欠なサービスは「政府」主導で行うべき

「自衛隊は必要か?」というのは、以前は重要な争点でしたが、最近は多くの人が自衛隊の必要性を認めているので、本書もその立場から話を進めていきます。

 

外国が攻めてきたとき、誰も国を守らなければ、国が滅びてしまうかもしれませんから、誰かが金を出して自衛官を雇い、国を守る必要があります。そう考えた瞬間、筆者の脳裏(のうり)に、ある考えがよぎりました。「自分は金を出さなくても、ほかの日本国民が全員で自衛官の給料を払ってくれれば、自分も安泰だ」と──。

 

「塚崎は金を出していないから、塚崎の家に向けて飛んできたミサイルは撃ち落とさない」などということにはならないでしょうから。周囲から「非国民」とイジメられる可能性はありますが、ここでは考えないことにしましょう。

 

そうだとすると、筆者以外の人々も同じことを考えるかもしれません。そうなると、結果として誰も払わないで自衛官が雇えずに敗戦、ということになりかねません。それでは困るので、政府が必要になるのです。政府が全国民から税金を徴収して自衛隊をつくる、税金を払わない者は処罰する、ということになるわけです。

 

経済学をつくったアダム・スミスは、「経済は“神の見えざる手”がはたらくから、王様は何もしない方がうまくいきます」と主張しました。しかし、それには例外がある、と後世の学者が指摘しました。「市場の失敗」と呼ばれています。だからこそ、政府が税金を徴収して自衛隊をつくるのだ、というわけです。

 

警察も、同様です。政府が警察をつくらなければ、金持ちはガードマンを雇うでしょうが、庶民は泥棒や強盗から身を守ることができません。「皆で金を出し合って警察官を雇おう」という相談をしても、「自分は払わない」という人が増えて、結局、警察官は雇われなくなってしまうでしょう。

 

健康保険はどうでしょうか。健康保険制度がなければ、病気になっても貧しい人は医者にかかれません。「それではかわいそうだから、貧しい人が病気になっても治療が受けられるように、皆で金を出し合おう」という博愛の精神ももちろんありますが、流行性の疫病に罹患しても治療を受けない貧しい人がいると、疫病が蔓延してしまうかもしれないから、皆で金を出し合って貧しい人を医師に連れていこう」ということもあるでしょう。まさに「情けは他人のためならず」ですね。

 

国家としては、「貴重な労働力が疾病で寝込んでいると経済が発展しないから、貧しい人に治療を受けさせ、労働力として復帰させるべきだ」ということもあるでしょう。

 

もっとも、何事もコストとベネフィット(利益)を比較しなければなりませんから、自衛官や警察官を何人雇うのか、医療保険はどこまでカバーするのか、といった議論は当然に必要です。なんといっても、コストは国民の負担なのですから。日本では「政府に○○をやらせよう」というと、政府が無料でサービスを提供してくれると思っている人も多いようですが、政府のサービスは決して無料ではないのだ、ということをしっかり意識することが重要ですね。

 

小中学校は義務教育にして、全員が「読み書き」ができるようにすることは必要で、そのための費用は税金で賄うことになっていますが、大学教育は原則として「受けたい人が自分で費用を負担する」ことになっています。

 

両者のあいだには、理論的な差があるわけではありませんが、コストとベネフィットの比較で論じられるべき問題です。大学も無償化しようという話が一部で出ていますが、それに対する私見は『経済暴論』218ページに記述しています。

政府と民間企業の事業に明確な線引きはない

鉄道はどうでしょうか。JR各社は、昔は国有鉄道でしたが、いまでは民営化しています。自衛隊や警察と異なり、私鉄と国鉄はビジネスの内容がほぼ似ているので、国が行なう必要はなかったのですが、国力が乏しかったときに「全国に鉄道網を行き渡らせるのは民間会社では無理だ」という判断で国鉄になり、その後、国力が充実してきたので「民営化しても大丈夫だ」ということになったのでしょう。

 

このように、政府が行なうべき事業と民間が行なうべき事業のあいだには、明確な線引きがなされるわけではありません。ケースバイケースなのです。

 

一般に、民間企業の方が政府よりもコスト意識が強く、経営的には成功する可能性が高いといわれています。国鉄が民営化されたことで巨額の赤字が一掃されたことを見ても、そうだろうと思います。しかし、世の中には「赤字確実だが必要な事業」もあります。たとえばJR北海道は、赤字を逃れることは難しいでしょうが、倒産してしまえば道民の生活が困ります。そうした事業は、国がやるべきか、民間企業にやらせて政府が補助金で赤字を補塡してやるべきか、悩ましいところです。

 

経営の効率性という観点からは後者が望ましいのでしょうが、民間企業だと赤字路線は廃線にしようとする傾向があり、道民生活との兼ね合いが難しいからです。「赤字路線を維持すれば補助金を出す」といった工夫が必要でしょうね。

 

久留米大学商学部 教授

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。
著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。
趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載メディアが伝えない「景気と財政」の実態

企画・編集:株式会社夢の設計社

 

経済暴論

経済暴論

塚崎 公義

河出書房新社

「トランプ大統領は日本経済にとってプラス」「勤勉と倹約が不況を長引かせる」…経済の話を“極論と暴論”で面白がりながら学ぶ本! 教科書はもちろんのことニュースや新聞でも知ることができない“経済の裏のウラの真実”と…

 

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