前回は、自宅が全焼した90歳の方の「サ高住」への入居事例を紹介しました。今回は、「サ高住」への入居で手に入れた「生活の利便性」を見ていきます。

「玄関の鍵一つをかければいいので便利」

前回の続きです。自宅が全焼し、サ高住へ入居された方の体験談をご紹介します。

 

T氏:90歳 女性

入居前の住まい:一戸建て

入居前の家族構成:一人暮らし

 

<入居後の感想>

「引っ越して3年が経ちました。一度火事を経験しているので、災害に対して心配症になっていましたが、ここは高台にあるので地盤は強いようです。あとは火の元が不安でしたが、IHクッキングヒーターなので安心です。

 

それにマンションは、玄関の鍵一つをかければいいだけなので便利ですね。一戸建てに住んでいたときは、外出の前に家中の窓の鍵もかけなければいけなかったので大変でした。ほかには冬でも暖かいことに驚きました。やはり木造の一戸建てと鉄筋コンクリート造のマンションは違いますね。

 

あと、ここは都内なので、気軽に友だちが遊びに来てくれるところもいいですね。やはり立地にこだわってよかったと思います。ただ、実を言うとこちらの環境に馴染むまでには時間がかかりました。

 

入居した当初は、まだ火事のショックから立ち直っていなくて……。若い頃から住んでいたところが突然なくなったショックはもちろん大きかったのですが、同時に隣近所の家にも少なからず迷惑をかけてしまって、結構ひどいことも言われました。でも、本当に火事の原因は今も分かっていないんです。なのにどうしてそんなことを言われなくてはならないのかと本当に落ち込みました。

 

なので、ここに引っ越してから半年以上は誰とも話したくなかったんです。それにもともと両親が亡くなり一人暮らしを続けていた私は、無口になっていました。ご近所も60年住んでいると世代交代を繰り返して誰が住んでいるのか分からず、会話することはなくなっていたのです。

同世代と昔話ができる環境が嬉しい

そんな事情を周りの人たちは理解してくれていたようです。細かいことは聞かずに入居者もスタッフも毎日挨拶をしてくださいました。『おはよう』『いってらっしゃい』『おやすみなさい』。皆さんは当たり前に交わす言葉かもしれませんが、私にはうれしかったんです。

 

さらに隣の棟に住んでいる子どもたちも『おはようございます!』と毎日挨拶してくれます。これがかわいいんですよ。そんなことが続いて私は、この施設の一員として認められていることが分かってきました。

 

だから1年くらい経ってからでしょうか。自分からサークル活動に参加するようになったんです。折り紙、体操、オセロ、切子ガラス、フラワーアレンジメントなど自分でできそうと思ったことはなんでも参加しています。

 

サークル活動を通じてお友だちもたくさんできました。今まで戦争の話ができる世代の知り合いは本当に少なかったのですが、ここにはたくさんいます。話が合うんですよ。本当にここの一員になれてうれしい。自宅が火事にあってよかったと思うくらいです。

 

不幸と思える火事でも、あわなければここに来ることはありませんでした。運命って分からないものですね。今考えれば、80代までがんばって一人暮らしを続けることはなかったと思います。こんなに楽しいなら60代でも高齢者用の住宅に引っ越せばよかったと後悔しているくらいです」

70歳からの住まい選び

70歳からの住まい選び

小山 健

幻冬舎メディアコンサルティング

最高の住み心地・豊かな人間関係・健康面の安心…生涯充実した人生を送るための高齢者向け住宅とは⁉︎ 一人で住み続けるのは不安…でも、老人ホームには入りたくない。70歳を過ぎた人の、新しい住まい探しの教科書です。

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