前回は、「得意領域以外」の業務による勝負を提案した、ある若手社員の例を紹介しました。今回は、経営者に新しい分野への挑戦を決意させた、技術部社員のエピソードを紹介します。

テレビもない部屋で、仕事の資料を読み漁る技術部社員

営業部の岩本の提案を受けて、企画が社内でとおる前から密かに電子基板用の放熱材料の研究にあたっていたのは、技術部の川合良治でした。

 

26歳の川合は、技術部の中でも相当の変わり者という評判です。

 

彼の部屋にはテレビがありません。そのかわりに仕事関連の資料や文献が足の踏み場もないくらい、数百冊は転がっている。仕事から帰ると、その資料や文献を読み漁る。とにかく勉強するのが大好きという強者です。勉強好きを象徴するエピソードとして、毎年冬に新聞に掲載される大学入試のセンター試験を解くことを楽しみにしているというものがあります。

 

そんな彼は、世の中に存在しているものには、絶対にそれがつくられる原理があるはずで、その原理がわからないはずがないという考えを持っています。だから、どんなに難しい問題に直面しても、文献だったり特許だったりを読み漁れば必ずそこにはヒントがある。そう考えてチャレンジするタイプ。生まれながらの研究者だといえるでしょう。

 

川合は岩本から電子基板へのクールテックの応用という話を聞いた時、難しい技術ではあるが、これはできるというある程度の算段が即座についたといいます。

 

いままで手がけたことがない、異なるジャンルの商品だとしても、それがつくられた方法を科学的にどう分析していくかという、新たなテーマに気持ちが浮き立ったようです。

 

この時期、川合の部屋には、競合他社の特許関係の資料や関連文献が200〜300冊は積まれていました。もちろん、まだ開発に着手する前のことですから、就業時間中にはできません。毎日帰宅後、寝る前に読みふける日々。

 

どんなに難しい課題でも、周囲から無理だとかやるだけ無駄といわれても、調べるところは調べる、確かめるところは確かめるという「科学者魂」を発揮して、決して怯ひるまないのが私の会社の研究室に流れるDNAだと思います。クールテックを開発した吉岡たちが持っていたそんな精神を、川合もしっかりと引き継いでいるのです。

これまでの技術と新しい素材との組み合わせを提案

川合は二つの方向で研究を進めました。一つは光反応科学です。レジストインキは光硬化反応を応用する商品です。そこで光反応について徹底的に学習しました。全部読むのに3週間程度かかりましたが、そのうち開発に対して確信が持てたといいます。

 

また、レジストインキに放熱機能を持たせるための研究も進めました。放熱機能を持たせるには、輻射率をあげるか熱伝導率をあげるかです。

 

レジストインキにはクールテックと同様、輻射機能を持ったセラミックス材料を混ぜることで放熱させる方向で研究を進めました。

 

私の会社では機能性塗料を研究開発する中で、様々な物質の特性を研究してきました。これまでも、それらを組み合わせてインキに転用してきたのです。特にセラミックス材料は、私の会社の大きな柱の一つであり、慣れ親しんだ素材です。それをレジストインキという新しい商材に組み合わせて、世の中にない新しい素材をつくろうという考え方でした。

 

電子基板へのクールテックの応用という新しい領域の可能性を信じた営業と、その可能性を科学的に証明しようとする研究者。この二人がそろったことで、放熱基板への挑戦という新しいテーマが私の会社に宿ったのです。

 

[図表1]紫外線硬化の仕組み

 

[図表2]紫外線硬化の長所・短所

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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