今回は、産業界に起こりつつある垂直統制型から水平協働型への移行について見ていきます。※本連載は、シーオス株式会社の代表取締役・松島聡氏の著書、『UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか 』(英治出版)の中から一部を抜粋し、AIやIoTなどテクノロジーの進化によって大変革期を迎えている経済・産業の今とこれからについて解説します。

新しく出現するのは「人や組織が協働する」社会

今起こりつつある新しい「産業革命」は、経済・産業だけでなく、社会を根底から変えようとしている。過去の産業革命と異なり、消費者・ユーザーから生まれつつある大きなうねりに呑み込まれるかたちで、産業の仕組み自体が変わろうとしていると言ったほうがいい。だからこれまでの産業革命とは本質的に違うのだ。

 

最近刊行された本の中で最も刺激的な、ジェレミー・リフキンの『限界費用ゼロ社会』も、産業・経済・テクノロジーについて語りながら、結局のところ新しい社会の出現について語っている。それは欲望や利益、拡大の原理ではなく、人や組織が協働する社会だ。リフキンは「コモンズ」と呼んでいるが、近代より前、中世と一般的に呼ばれている時代までは、広く存在していた共生型の社会システムだという。つまり社会がリフキンの言う垂直統合型(及び後述する日本企業の「垂直統制型」)から、人が主役の水平協働型へ移行するということだ。

 

「垂直統合型」とは、原料調達や製造、物流など、関連するあらゆる事業を傘下に置く一貫体制のビジネスモデルであり、19世紀から20世紀にかけて欧米で誕生したスタンダード石油やフォードなどがこのモデルによって巨大企業へと成長した。この垂直統合型はそれまでになかったレベルの生産・経営の効率化を実現し、長く最強のビジネスモデルとして経済を牽引してきた。

「ユーザー起点」でUXを最大化し、提供

一方で「垂直統制型」は、日本が欧米の垂直統合型から学んで創り出した独特のビジネスモデルだ。社員が企業・所属部署・上司への強い忠誠心で結束し、企業のために残業や転勤をいとわず無制限に働く組織や、下請け企業を強力な支配・保護関係で統括する「系列」などにより、「垂直統制型ヒエラルキー」とも言うべき体制になっている。この本でこれから述べていくように、この体制は時代が求める企業の変革、特にこれからの水平協働型への移行の大きな障害になるだろう。

 

垂直統合型がスケールメリットや効率の追求から生まれた合理的なビジネスモデルであるのに対して、垂直統制型は第二次大戦後に日本の企業が欧米にキャッチアップするために生まれたビジネスモデルだ。成長期においては効果的に機能したが、日本が経済大国になり、グローバルな市場で戦うようになってからは効力を失ってきた。

 

これに対し「水平協働型」は、ユーザーサイドから商品やサービスを考え、これを実現しようとする人たちが水平に連携しながらUXを創り出していく新しいビジネスモデルだ。

 

垂直型(垂直統合型および垂直統制型)の企業が既存の組織やリソースを前提としたサプライサイドの論理で商品やサービスを開発し、ユーザーに提供してきたのに対し、水平協働型にはこうした前提は存在しない。ユーザーはビジネスモデルの中心に位置づけられ、事業の推進者たちはUXを基準に企業や業界の垣根を超えて協力し、最適のリソースを活用しながらめざすUXを最大化させていく。

 

ユーザー起点でUXを最大化して提供する水平協働型のビジネスモデルは、サプライサイドの論理で商品やサービスを提供する垂直型ビジネスモデルより高い支持を市場で獲得することができる。やがて水平協働型モデルが垂直型モデルに代わって市場の主役になる日が来る。

 

【図表】垂直統合型、垂直統制型、水平協働型

アメリカでは既に水平協働型モデルへ移行した企業も

ジェレミー・リフキンはビジネスだけでなく、行政の仕組みも国や自治体が主導する垂直統合型から国民・地域住民による水平協働型へ移行していくとしている。

 

この革命によって資本主義経済という仕組みは衰退するかもしれないが、社会はかつての不便で不衛生だった時代に戻ってしまうのではなく、人類が進化したテクノロジーやこれまでの経験を活かすことで、より望ましい社会、多くの人が幸福を感じる社会へと変えていけるとリフキンは言う。

 

ピーター・ドラッカーは、2002年にすでに『ネクスト・ソサエティ』(ダイヤモンド社)で社会が変わりつつあることの意味を強調し、「はたしてニューエコノミーなるものが実現しうるかどうかは不明である。だが、ネクスト・ソサエティがやってくることは間違いない」と語っていた。そして、この新しい社会は中世以来600年ぶりに訪れる多元社会だと彼は言う。この点では、垂直型社会から水平型社会への移行を説くリフキンの視点と共通するものがあると言えるかもしれない。

 

社会・文明思想家であるリフキンは、この社会の変化の中で既存の産業・企業がどのように変わっていくべきなのかについて、具体的な提案をしていないが、ビジネスの思想家であるドラッカーは、今の企業・産業がどういう状況に置かれていて、これからどうなっていくべきかについて、彼らしいわかりやすさで5つのポイントにまとめていた7

7. P・F・ドラッカー『ネクスト・ソサエティ』(上田惇生訳、ダイヤモンド社、2002 年)

 

1.企業の従業員支配からプロフェッショナル主導へ

2.画一的フルタイム労働から勤務の多様化へ

3.統合的経営から分業・アウトソーシングへ

4.メーカー主導から市場主導へ

5.産業ごとの独自技術からクロスボーダー技術へ

 

これらは今、産業界に起こりつつある垂直統制型モデルから水平協働型モデルへの移行を裏書きしている。しかもこの変化は日本だけではなく、世界中で進行している。欧米特にアメリカにはこの変化にいち早く気づき、新しいビジネスモデルを構築している企業が次々と出てきているが、まだ一部の企業に限られている。

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか

松島 聡

英治出版

IoT、人工知能、ビッグデータ、センサー、ロボティクス…テクノロジーの進化と普及は、企業のあり方、個人の働き方を根底から変え、かつてないUX(ユーザーエクスペリエンス)を生み出す―。モノ・空間・仕事・輸送の4大リソース…

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