前回は、骨格から見た「肩」の構造について取り上げました。今回は、肩のインナーマッスルにはどんな種類があるのかを見ていきます。

肩の関節を守る、肩甲下筋・棘上筋・棘下筋・小円筋

骨格だけを見ると実に頼りない構造の肩ですが、これを頼りがいのある肩に補強しているのが、筋肉や腱、靭帯などの軟らかい組織(軟部組織)です。

 

肩甲骨と上腕骨をつないでいる肩関節(肩甲上腕関節)は、360度回せるほど可動域が大きい関節です。ここの関節は、肩甲骨の外側にある関節窩という浅い窪みに、上腕骨の上端にある丸い上腕骨頭が、けん玉のように受け皿とボールの関係で収まっています。球状で、しかも受け皿が浅くできているので、動ける範囲が広くなっているわけです。ただ、受け皿が浅いということは、そこに入るボールが不安定になりがちです。負荷がかかるとボールがずれやすい、つまり肩が外れやすい(脱臼)という弱点を持っています。

 

しかし、人間の体は実によくできているもので、そう簡単には肩関節が外れないようにいろいろな工夫がされています。

 

まず、浅くて小さい肩甲骨の関節窩は、上腕骨頭と接する面積を広げるための仕掛けとして、関節窩の周りに軟骨が唇のように張り出しています。これを関節唇といいます。また、関節包という袋が関節唇とつながるようにして関節を包んでいます。関節包は、網目状の何層にもなるコラーゲン線維で、外側は線維性、内側は滑膜でできており、筋肉や腱の動きをスムーズにする働きをしています。

 

骨の中には血管が通っていますが、関節の軟骨には血管が通っていませんので、血液から栄養を得ることができません。そこで、関節包の内側の滑膜から分泌される滑液から栄養を補給しています。

 

そして、関節が外れないように関節上腕靭帯という線維状の帯が関節包を補強しています。さらに、関節包を裏打ちするようにして、肩甲骨の前方には肩甲下筋、上方には棘上筋、後方には棘下筋、小円筋という4つの筋肉(インナーマッスル)が、上腕骨頭を包み込むように張り付いています。これらの筋肉の両端から出ている結合組織である「腱」は、他の部分の腱よりも長く、板状をしているので腱板といわれています。

 

それらの腱が上腕骨を取り巻く様子が、ワイシャツの袖口に似ていることから「ローテーターカフ」とも呼ばれています。カフスは袖口のことで回旋筋腱板と訳され、〝回旋筋の袖口〟という意味になります。

 

肩は、いわば受け皿とボールがぶら下がっている状態ですから、重力に逆らって腕を上げるためには、上腕骨頭を関節の受け皿に支点を与える必要があります。この支点を与える役割を腱板が担っています。

 

[図表]ローテーターカフ

年齢とともに、肩の軟部組織も弱く傷つきやすくなる

肩関節を安定させてスムースな動きができるようにしている4つのインナーマッスルは、実によくできた仕掛けです。それでも、加齢に伴いこの腱板機能が低下したり、姿勢や生活習慣の影響で肩甲骨機能が低下すると、肩関節の中が不安定になり、ちょっとした動作が関節包を刺激し傷つけ、炎症を起こすことがあります。

 

この状態がいわゆる四十肩・五十肩の痛みの強い時期になります。炎症が治まると傷ついた関節包は縮こまった状態で治癒しますが、この時期が四十肩・五十肩の動かなくなった時期(拘縮期)になります。

 

また、加齢によって皮膚の弾力性が失われ、たるみやシワができるように、肩の軟部組織も年齢とともに弱くなって傷つきやすくなります。ちょっとした刺激でも傷がつき、狭い空間の中で炎症を起こして腫れてしまいます。そうなると、痛くて腕を上げることができなくなります。ときには弱くなったインナーマッスルが切れることがあり、これが腱板断裂です。

「肩」に痛みを感じたら読む本

「肩」に痛みを感じたら読む本

鈴木 一秀

幻冬舎メディアコンサルティング

四十肩(五十肩)の発症率は70%を超え、もはや国民病と言っても過言ではありません。 一般に、肩の痛みや違和感は放置する人が多いのが実情ですが、手遅れの場合、尋常ではない痛みと共に日常動作をままならなくなり、最悪の…

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