GDPに応じて決まる加盟国分担金…「EU予算」の概要

ヨーロッパ経済に関するニュースは悲観的なものが多く報道されていますが、実際にはこの10年、EUの加盟国やユーロの参加国は増え続け、EUの協力体制は単なる貿易の自由化をはるかに越えて進んでいます。本連載は、東洋大学経済学部国際経済学科教授・川野祐司氏の著書、『ヨーロッパ経済とユーロ』(文眞堂)から内容を一部抜粋し、EUの経済にまつわる取り組みからヨーロッパ各国の金融政策デザイン、マイナス金利政策などについて解説します。

スイスなどいくつかの非加盟国もEU予算の一部を拠出

EUは幅広い活動を行っているため多額の経費が必要となる。EUの収入は加盟国分担金、付加価値税(Value AddedTax:VAT)関税および砂糖課徴金、その他の収入から成り立っている。

 

加盟国分担金はGDPに応じて負担割合が決まり、加盟国はGDPの約0.8%をEUに拠出する。付加価値税は各加盟国が0.3%に相当する金額をEUに拠出する。その他の収入は、利子収入、非EU加盟国からの拠出、課徴金などからなり、EU予算の約1%を占めている。例えば、EUは非加盟国との間にもシェンゲン協定などの協力を行っており、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスが費用の一部を拠出している。

 

2016年予算では加盟国分担金が約73%、付加価値税と関税がそれぞれ約13%となっている。EUの収入は約1500億ユーロに上るが、GDP比率でみると2016年は0.97%にとどまり、上限として決められている1.23%を下回っている。

 

イギリスはEUへの拠出がEUからの受け取りを大幅に上回っているため、拠出額を25%減額する特別処置を受けている。この制度をリベートといい、2016年予算ではイギリスの拠出額は218億ユーロとなるところから53億ユーロのリベートを差し引いて165億ユーロの拠出にとどまっている。オランダとスウェーデンもそれぞれ6億500万ユーロと1億5000万ユーロの減額を受けている。オーストリア、ドイツ、オランダ、スウェーデンは付加価値税の拠出を一部減額されている。

EUの2016年予算は1550億ユーロ…その配分は?

次に支出面に目を向けてみよう。リスボン条約では、EUは5年以上の中期予算を作成しなければならない。現在は2014年から2020年までの7年間の中期予算が作成されており、単年度予算のシーリング(上限)の役割を担っている。EUの会計年度は1月から12月までであり暦年と一致する。2016年の予算は1550億ユーロであり、図表のように配分される。

 

[図表]2016年EU予算

(注)金額は億ユーロ,割合は%。データはEU ホー
ムページ。
(注)金額は億ユーロ、割合は%。データはEUホームページ。

 

EUの予算は分野別に5項目計上されており、項目1は更にabの2つに分けられている。

 

●項目1a:成長と雇用のための競争力向上

 

項目1aで最も大きいのは、研究開発(R&D)の98.6億ユーロであり、Horizon2020というプロジェクトがほとんどを占めている。Horizon2020では、最先端の科学、社会の改善、産業のリーダーシップなどを柱とし、バイオテクノロジー、情報通信技術(ICT)、宇宙、輸送など22の分野で研究プロジェクトを支援する。例えば2017年には、よりエネルギー効率が高く排出の少ないフェリーの技術開発プロジェクトへの助成が決まっており、研究プロジェクトを公募している。

 

その他には、教育に関するエラスムスプラス(Erasmus+)にも17.3億ユーロ支出され、大学生の留学やインターンシップを支援する。EUの衛星ナビゲーションシステム(ガリレオ)や地球観測衛星(コペルニクス)などの大規模インフラにも17.7億ユーロ支出される。

 

●項目1b:経済・社会・国境付近の結束

 

項目1bは各地域への支援が大部分を占め、466.6億ユーロ支出されている。1人当たりGDPが75を下回る地域を低開発地域、75-90を移行地域、90を超える地域を発展地域と位置付け、それぞれ支援している。

 

EUは、NUTS(Nomenclature of Territorial Units for Statistics)と呼ばれる地域分けの区分があり、NUTS1は人口300-700万人の97地域、NUTS2は人口80-300万人の270地域、NUTS3は人口15-80万人の1294地域を設定している。

 

必要に応じて、NUTS3のレベルまで1人当たりGDPなどの経済指標が算出されている。低開発地域には中東欧諸国の多くの地域が含まれるが、南イタリアやポルトガルなどにも該当地域がある。

 

EUによる地域支援に国境付近への支援がある。国境にまたがる地域は山あいなどが多くインフラ整備が遅れている。このような地域では、住民は国境をまたぐ形で生活圏を形成していることもあるが、国境の両側では国が異なるため制度や支援の度合いが異なり、統一的な整備が難しい。そこでEUが調整を担当している。また、1bでは結束基金への支出も大きな項目となっている。

 

●項目2:持続的成長、天然資源

 

持続的成長は最も予算配分が大きく、欧州農業補償基金(European Agricultural Guarantee Fund:EAGF)に422.2億ユーロ、欧州地域開発農業基金に186.8億ユーロ、欧州漁業基金に9億ユーロ支出している。

 

欧州農業補償基金は、農家への直接支払いと農産物市場のサポートに用いられている。これらの政策は共通農業政策(Common Agricultural Policy:CAP)と呼ばれており、EUでは重要な政策分野である。

 

農業は天候の影響を強く受ける。天候が悪いと収穫が減少して収入減につながるが、天候が良すぎても収穫量が増えすぎて価格が下落し収入減につながる。

 

農家の収入は変動しやすいため、農家への直接支払いによって収入の安定化を図っている。農産物への補助金や買い上げは農産物価格を引き上げるが、所得補助に当たる直接支払いは農産物の価格を下げる効果がある。実際に、EUでは農産物価格は低い。直接支払いは基礎支払い、環境保全支払い、40歳未満の農家に支払われる若年農家支払いからなるが、支払いを受けるためには食の安全、環境の保全などの条件を満たす必要がある。農産物市場のサポートは、農産物の規格の設定、農業関連産業の組織化、農産物に関する学校教育へのサポートなどを行っている。

 

持続的成長では、農漁業への幅広い補助金が多くを占めている。20世紀には農業への補助金がEU予算の大部分を占めており、農業補助金の削減が大きな課題となっていた。しかし、農業関係者やフランスなど補助金の受け取りが多い加盟国からの強い反発があり、補助金の削減は進んでいない。そこで、EUは農業を環境保全や地域の発展を進めるための手段として位置付け、農業の保護ではなく環境の保護や地域の発展に対して補助金を出すという立場を採っている。

 

●項目3:安全・市民権

 

安全・市民権は、金額は小さいが市民生活にかかわる多くの項目を含んでいる。最大の予算項目は移民に関するものであり、18.9億ユーロ支出している。その他には食糧支援、健康、消費者支援などにも取り組んでいる。

 

●項目4:グローバル活動

 

グローバル活動には、EUの周辺地域を中心に様々な地域への支援活動が含まれている。開発協力手段(Development Cooperation Instrument)は、ラテンアメリカ、アジア、中東、北アフリカなど47カ国を対象に貧困削減を目的とした支援プログラムであり、26.3億ユーロ支出されている。単に経済的な支援を行うだけではなく、人権や民主主義、ガバナンスなども含めて幅広い活動を支援している。近隣諸国政策(European Neighbourhood Policy)は中東、北アフリカ、東方諸国など16カ国との協力プログラムであり、21.9億ユーロ支出されている。例えば、モルドバとは2014年に自由貿易協定を結んだり、公共部門の近代化や輸送・エネルギー部門の協力基金を設立したりしている。EU加盟を目指す国々への支援を行うIPAIIには16.6億ユーロ支出されている。

 

●項目5:EU運営費

 

EU運営費は、EU職員の年金や教育、EU諸機関の運営費などが含まれている。中でも、欧州委員会の運営費が突出して大きく、33.5億ユーロ支出されている。欧州委員会は2万3000人のスタッフと33の総局(Directorate-Generals)を持ち、人件費や調査費などがかかっている。欧州議会は18.4億ユーロと2番目に大きい。

 

欧州議会はフランスのストラスブールとベルギーのブリュッセルで開催されており、議員だけでなく秘書や事務職員なども移動するため多額の費用がかかっている。経費削減のために開催地を絞るべきだとの意見も出ているが、EU諸機関を地理的に分散させるべきだとの考え方から2都市での開催が続いている。

「地域政策」に大きな力を注ぐEU

これまで見てきたように、EUは様々分野に予算を支出している。しかし、支出の多くは補助金の形を採っており、農業国や1人当たりGDPの低い加盟国・地域が多く受け取っている。

 

2014-2020年の中期予算は本書籍の第3章で見る欧州2020と密接に関連しているが、EUは地域政策に大きな力を注いでいる。20世紀のEU予算は収入面では付加価値税、支出面では農業支援の割合が高かった。付加価値税は単価の高い工業製品を生産する国の負担が大きくなり、ドイツの負担が大きいことを表している。当時はEU加盟国も少ないこともあって、ドイツの工業の負担でフランスの農業を支える構図となっており、ドイツの工業とフランスの農業の結婚という表現もあった。21世紀に入ると中東欧諸国などがEUに加盟し、それらの地域への支援が不可欠となった。

 

EUの予算は次第に加盟国分担金を発展途上地域に分配する構図に変わりつつある。

本連載は、2016年11月1日刊行の書籍『ヨーロッパ経済とユーロ』から抜粋したものです。その後の社会情勢等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

東洋大学経済学部教授 国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

専門は金融政策、ヨーロッパ経済論,国際金融論。
近年の研究テーマは、マイナス金利政策、イギリスのEU離脱(Brexit)、電子通貨。

著者紹介

連載ヨーロッパ経済とユーロ…EUの政策と加盟国の現状

ヨーロッパ経済とユーロ

ヨーロッパ経済とユーロ

川野 祐司

文眞堂

インダストリー4.0,イギリスのEU離脱問題,移民・難民問題,租税回避,北欧の住宅バブル,ラウンディング,マイナス金利政策,銀行同盟,欧州2020…ヨーロッパの経済問題を丁寧に解説。

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧