前回は、地盤を修正する際に「コスト」を惜しんではいけない理由を説明しました。今回は、フォークリフトの使用環境という観点から倉庫の地盤沈下の問題を見ていきます。

水平・垂直でないと正常に稼動しないフォークリフト

工場、倉庫、そして店舗と、多くの大型建物内で荷物の運搬に大活躍しているのがフォークリフトという運搬用車両です。これがなければ、荷物や商品の搬出入・運搬をすべて人手によらなくてはならなくなりますから、業務効率は軽く見積もっても半分以下に下がります。

 

ところが、地盤沈下によって床が傾いたりたわんだりすると、そのフォークリフトの機能を100%発揮することができません。ご存知のように、フォークリフトとは、水平に出ている熊手のようなツメ(フォーク)を荷の下に差し込み、油圧などの動力で荷を支えるツメを垂直に持ち上げて(リフト)、目的場所まで運搬して垂直に下ろす車両です。

 

たったこれだけの説明からも明確なように、フォークリフトは「水平」「垂直」が保たれないと、正常に稼動することができないのです。

 

まず、荷を持ち上げる際、床が傾いていると、荷物に対してフォークの角度が斜めになってしまい、荷のパレット下に正しく挿入できなくなることもあります。また、フォークを荷の下にスムーズに差し込めず、荷にツメ先が刺さってしまって荷を傷つけることもあります。

 

フォークに対して荷が手前側に傾いていても、あるいは向こう側に傾いていたとしても、どちらにしても荷物を積む方向、フォークリフトを扱う方向が制限されてしまうことになりますから、作業効率は著しく低下するでしょう。

1センチの段差を越える際の振動で、事故が起きた例も

そうして、なんとか工夫して荷を積み上げたとしても、地盤が沈下した建物では、今度は運搬が大変です。

 

まず、不同沈下の結果、床面が波打ったり段差ができたりした状態になっていると、走行時の振動でフォークに載せられた荷が崩れ落ちます。それを避けるためには、徐行運転をするしかありません。

 

道路走行用の車両(乗用車やトラックなど)と違って、普通のフォークリフトは走行路面のでこぼこからくる衝撃を緩衝するサスペンションがないので、ちょっとした振動がそのまま車体に伝わるのです。

 

ですから、傾いた床、段差がある床では、荷の心配だけでなく、運転すること自体が難しくなります。段差でいえば、わずか1センチの段差を越える際の振動によって事故が起こり、死者が出た事例もあります(厚生労働省による)。

 

また、運転者自身に負担が蓄積するでしょう。フォークリフトのオペレーターに腰痛を患う人が多いのは、段差が原因かもしれません。

 

そして、荷を降ろす際も、同様に不具合が起こります。

 

荷を収納する棚が向こう側に傾いているなら、荷はフォークから滑り落ちるようにしてフォークから離れますからまだよいのですが、手前に傾いていれば、角度を操作できないフォークではなかなか荷を降ろすことができません。

 

さらにいえば、車両が傾きの前後に回り込めるとは限りません。フォークに対して、床が左右に傾いていたらどうでしょうか。たとえば、フォークの向かう左側が高く右側が下がっていたら・・・。

 

その場合は、高いほうの左側から何度もフォークを抜き差しして、たった1台のパレットだったとしても、"少しずつ"降ろしていくしかないのです。

 

こうして、積み込み時、走行時、荷降ろし時と、絶えず過大な負担がかかる環境では、フォークリフトもすぐに傷みます。一般にフォークリフトの耐用年数は4年間といわれますが、そこまで持たなくても無理はないでしょう。

 

床の傾き・たわみは、高額機材の寿命を縮めることで不意の出費を増やすばかりか、作業効率を大きく損ねることで収益の面でも深刻な影響をもたらします。

本連載は、2016年11月25日刊行の書籍『改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9割』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9 割

改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9 割

松藤 展和

幻冬舎メディアコンサルティング

4年前出版し関係者の間で話題沸騰したあの書籍が、「傾いた床」による様々なリスクを追加収録し、 【改訂版】としてパワーアップして帰ってきた! たった0.6度の床の傾きで、業務も傾く! 日本の建物の9割が地盤に起因…

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