事業承継の観点から見る、企業の「所有」と「経営」の問題

前回は、金融機関(取引銀行)との関係の引継ぎについて考察しました。今回は、事業承継の観点から、企業の「所有」と「経営」の問題について考えていきます。

企業の所有と経営の一致度が高いファミリービジネス

所有と経営の問題は、経営学において最も重要なテーマとして議論されてきました。バーリ=ミーンズの古典的研究によると、企業資本が大規模化することに伴い、企業に出資する株主が増加することから、企業を経営する主体(経営者)と所有する主体(株主)が分離することが示されています。反面、ファミリービジネスは、経営者が主要株主であるケースが多く、所有と経営の一致度が高いといえるでしょう。

 

それでは、所有と経営の一致は、企業経営にどのような影響を与えるのでしょうか。

 

第一に、所有と経営の一致度が高いと、企業の所有者が経営者となるため、経営者は真剣に経営にあたる傾向が強いようです。他方、経営者には所有者としての権限が担保されるため、経営者の暴走を止めにくいという欠点もあります。

 

第二に、所有と経営の一致度が低い場合は、経営者以外の利害関係者が株主として関与するために、企業経営の客観性が担保されやすく、経営者の暴走を防ぎやすい利点があります。他方、所有と経営が分離してしまうことから、所有者である株主の意向が経営に反映されにくくなるという欠点もあります。

功利的な株主の増加は長期的な経営の妨げに

上記のように、株主は企業経営に大きな影響を与える存在であることが理解できました。次に、事業承継にあたっての株主の構成(誰を株主にするのか)の観点から考えていきましょう。事業承継においては、株主が次の経営を担う後継者にどのような影響を与える存在なのかを考えることで、対策が立てやすくなります。

 

例えば、多くの株主から出資してもらう場合は、後継者による経営に対して牽制と規律づけ(ガバナンス)を期待することができます。特に、同族だけではなく取引先などの株主に出資してもらうことで、後継者による経営に多様な視点からのチェック機能が期待できます。

 

他方、功利的な株主が増えてしまうと、後継者による経営は功利的な利害関係者に振り回されてしまう可能性もあります(例えば、高額配当の要求等)。結果として、後継者の育成も視野に入れた長期的な経営の妨げになってしまう場合もあることを考えていかねばなりません。

 

次に、出資者を限定する場合、もの言ういわば功利的な株主を防ぐことができます。加えて、企業への権利関係の分散を防ぐことができることがあげられます。出資者が分散してしまうと、将来の企業にかかわる利害対立を引き起こす可能性を高めてしまいます。しかし、株主を限定しすぎることで、客観的な観点から後継者による経営に対しての規律づけを行うことが難しくなる点もあるでしょう。

 

[図表]株主の分散と集中における効果

出所:筆者作成
出所:筆者作成

三井家の経営承継手法に学ぶ利害関係者との関係

世代を超えて、重要な利害関係者との関係を考えていく上で、江戸時代から明治に隆盛を誇った三井家の経営手法が知見を与えてくれます。三井家の創業者である三井高利は多くの子供をもうけましたが、事業資本の承継にあたっては直系長子に集中的に承継するように定めました。

 

他方、経営に関与する同族の範囲を定めた上で、同族は資本の所有に関与させないで、定率で利益分配を受ける仕組みとしたのです。この仕組みは、将来的な同族による会社所有権を巡る利害対立を防ぐとともに、同族に対しては多くの利益分配が受けられるよう一生懸命経営に参画させるように仕向けていたことが理解できます。

 

三井家の経営承継手法は、現代の株式会社制度や事業承継の問題を考えていく上で多くの実践的示唆を与えてくれるといえるでしょう。

 

<参考文献>

三井広報委員会HP(アクセス日:2017/04/26)
http://www.mitsuipr.com/history/edo/sochikuisho.html
中田易直(1988)『三井高利』吉川弘文館.
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.
落合康裕(2016)「中小企業の事業承継と企業変革:老舗企業の承継事例から学ぶ」中部産業連盟機関誌『プログレス 2016年11月号』, pp. 9-14.

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

日本経済大学 経営学部 准教授 名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 客員教授

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。
大和証券(株)入社後、本社人事部、大和証券SMBC (株)金融法人部をへて、2014年より日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授就任。ファミリービジネス学会理事。
現在、ファミリー企業の事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、ビジネススクールにおけるケースメソッド形式による事業承継講座を担当するほか、企業の事業承継に関する助言指導や実務家向けセミナーの講師などを務める。2015年末に日本で初めてとなる同族経営の実証研究書となる『ファミリービジネス白書』を同友館から発刊。同書の初代企画編集委員長を務める。

著者紹介

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継…

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