早期治療や先進治療が「万能」とはいえない理由

前回は、頻繁に健康診断を受ける必要はない理由を紹介しました。今回は、早期治療や先進治療が「万能」とはいえない理由を見ていきます。

早期発見しても・・・何が明暗を分けるのか?

女優の樹木希林さんは、皆さんご存じだと思います。2007年に公開された映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』と、2012年の映画『わが母の記』の2作品で日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を獲得。また、さまざまな映画やテレビドラマで個性豊かな役を演じ、幅広く親しまれている方です。

 

その樹木さんは、2013年の日本アカデミー賞授賞式で、自らがんだと告白して話題になりました。報道によれば、2004年に乳がんを患って右乳房の全摘手術を受けました。その後、同じ右乳房でがんが再発。さらに、腸や副腎、脊髄にも転移していたそうです。2013年のスピーチでは、自らを「全身がん」だと表現していました。

 

しかし、その後も樹木さんは、さまざまな映画に出演を続けています。2015年の映画『あん』では主役を演じ、カンヌ映画祭のレッドカーペットにも登場しています。

 

朝日新聞のシンポジウム「がんに負けない、あきらめないコツ」に樹木さんが参加した際のトーク内容によれば、樹木さんの後輩で乳がんになった人がいたそうです。樹木さんはがんが2~3センチまで大きくなってから手術をしたのですが、その後輩は3~5ミリ程度の小さな段階で乳がんが見つかり、処置を始めたといいます。ところが、樹木さんと後輩のその後は、明暗がくっきり分かれました。「そこ(樹木さんの後輩)は医者の家系なんですよね、周りが全部、医者。それで大変だって、あの医者、この医者、全部がっちりガードして、温存手術で切ったんですけれども、こういうふうにリンパのこっちのほうまでとったらしくって、形はあるんですけれども、その後に抗がん剤、放射線、いろんなことをして、今や片手が上がらなくなっているわけです。

 

周りにあんまりいい医者がずらっと並んでいるっていうのもね、考えもんだなと思いましたね(笑)。要するに、すごくやってくれちゃうわけですよ。私みたいにあんまりほっぽりっ放しも例がないんですけれども、その後輩みたいに、至れり尽くせりで、その結果、今立っていることも座っていることもできない、苦しいっていうような、こういうがんの術後っていうのもあるんだなって考えますと……。

(中略)

いい医者にめぐり会えなかったとか、いい病院に会えなかったとか、つらい思いをさせられたという人がいますが、これも私の場合はそれも自分のご縁だなというふうに思うようにしています」(朝日新聞シンポジウム「がんに負けない、あきらめないコツ」2006年3月25日(土)東京・有楽町朝日ホール 医師・鎌田實氏との対談より抜粋)

「身体が発する声」に耳を傾ける

樹木さんより早い段階でがんが見つかった後輩の女性は、抗がん剤治療や放射線治療などを受け、体力を消耗していきました。そして、最後には「腕が上がらない」、あるいは「立っていることも座っていることもできない」という状況に追い込まれたわけです。一方、樹木さんは多くの映画に出演できるほど回復しました。

 

二人の運命を分けたのは、「運」としかいいようがありません。樹木さんの言葉を借りれば「ご縁」ということになるのでしょう。樹木さんは運良く回復してさまざまな映画に出演した一方、後輩の方の回復は遅れてしまったのです。

 

ただ、樹木さんを救ったのは運だけではありません。最初にがんが見つかったとき、樹木さんはこう感じたそうです。「私は一昨年の夏に乳がんだろうなあと自分で感じました。(中略)18年ぐらい前から乳腺炎が出ているんですね。それは何かモワッとしたゴリッとした感じで、カチッとしたものじゃなかったから、いろいろ耳でちらっちらっと聞いた乳がんというものの感じからすると、これは違うなと思って。(中略)(ところがその後「カチッとした」ものを感じて)今回はがんになるなって思ったんですね」(前出シンポジウムより)

 

こうした言葉から推測するに、樹木さんは普段から自分自身の身体をきちんとチェックしているのでしょう。そして、痛みや違和感、ちょっとしためまいなどの「身体が発する声」に耳を傾けているのです。

 

何らかの病気にかかると、身体は信号を発します。大事なのは、その信号を聞き逃さないこと。そして、それをキャッチしてから病院に向かっても、十分に間に合うことが多いのです。

本連載は、2016年9月10日刊行の書籍『長寿大国日本と「下流老人」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

医療法人 八事の森 理事長

医療法人八事の森理事長(杉浦医院院長)。NPO法人ささしまサポートセンター理事長、NPO法人外国人医療センター理事、名古屋労災職業病研究会代表。1970年生まれ、1998年名古屋市立大学医学部卒。宗教法人在日本南プレスビテリアンミッション淀川キリスト教病院で内科・小児科から救急、ホスピスでの緩和医療まで幅広く研修。2000年名古屋市立大学臨床研究医、名古屋市立東市民病院(現・名古屋市立東部医療センター)で外科医として勤務。2010年4月から杉浦医院の副院長、2011年1月より院長に就任。

著者紹介

連載老後破産を回避するために知っておきたい「60歳からの医療との付き合い方」

長寿大国日本と「下流老人」

長寿大国日本と「下流老人」

森 亮太

幻冬舎メディアコンサルティング

日本が超高齢社会に突入し、社会保障費の急膨張が問題になっている昨今、高齢者の中で医療を受けられない「医療難民」、貧窮する「下流老人」が増え続けていることがテレビや新聞、週刊誌などのメディアでしばしば取り上げられ…

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