今回は、中国人の「~をよく知っている」という言葉に注意すべき理由を見ていきます。※本連載では、中国に進出する日本企業支援などに携わってきた、吉村章氏の著書『中国とビジネスをするための鉄則55』(アルク)の中から一部を抜粋し、仕事において「信頼できる中国人」の探し方を実践的に紹介していきます。

会って会話をすればもう「朋友(ポンヨウ=友達)」!?

Q.「……をよく知っています」「……ができます」という言葉をどこまで信じてよいでしょうか?

 

A.「知っている」「できる」と判断する「基準の感覚差」に要注意。相手の物差しを再チェックし、基準について共通の認識を持てるようにしましょう。

 

「私は地方政府の副市長をよく知っています」と陳さんのコメント。そう聞かされたとき、二人はどんな関係だと思いますか?

 

「よく知っています」とは、仕事上の付き合いがある、よく会合で一緒になって話をする、定期的に会って食事をする仲、世間話やプライベートな話をする仲、一緒にゴルフへ行く仲など。濃淡はともかく「よく知っています」からイメージするのはこのような関係ではないでしょうか?

 

または、趣味が同じでプライベートでも深い付き合いだったり、頻繁に一緒に食事に行ったり、もしかしたら家族ぐるみの付き合いがあるかもしれません。「よく知っています」という言葉にはいろいろな段階があります。

 

しかし、陳さんの話をよく聞いてみると、会合で月一度ほど顔を合わせるだけだったり、仕事の付き合いがあっても話をすることはまれだったり、または名刺交換をしたことがあるだけだったり、食事会で見掛けただけだったり、この程度の付き合いでも中国では「よく知っている」なのです。

 

日本人の感覚では会合で顔を合わせたり、名刺交換した程度では「よく知っています」とは言いません。ここが「基準の感覚差」です。「知っている」という基準や「親しさ」を測る基準の物差しが日本人の感覚とは違うことがあります。陳さんは決してうそをついているわけではありませんが、こちらの想像や期待とは大きく違います。

 

中国人は会って会話をすればもう「朋友」(ポンヨウ=友達)です。一度食事会でお酒を一緒に飲めば「老朋友」(ラオポンヨウ=親友)です。一度でもゴルフを一緒にすることがあれば、彼らの感覚では、それはもうとてもいい友達、大親友なのです。

 

「えっ?会合で顔を合わせるだけ?」「それは『よく知っている』と言わないでしょう」と思うのが一般的な日本人。「陳さん、だましちゃだめだよ」「まったく冗談がきついな」と思う人もいるかもしれません。しかし、陳さんは冗談を言ったわけでも、他人をだまそうと思ったわけでもないのです。陳さんにとっては一度会っただけでも確かに「よく知っている」なのです。これが基準の感覚差です。

あいまいな表現をせず、明確に相手に伝える

「私は日本語ができます」というときの物差しもよく誤解を生むケースです。「あいうえお」の読み書きができるレベルなのか、日常会話は問題ないレベルなのか、仕事で通訳もこなすレベルなのか、双方の基準の感覚差が違っていることがよくあります。

 

たとえば、自己申告で「私は日本語ができます」「私は日本語が上手です」と言っても、面接で日本語のテストをしてみると、期待するレベルではなかったり、仕事で使う言葉の理解がまったくできていなかったりというケースがよくあります。

 

ちょっと日本語を話してみれば話し方やボキャブラリーの数で日本語レベルはすぐに分かると思うかもしれませんが、自己紹介や特定のエピソードなどよく使う言葉やストーリーだけ大変流ちょうだったり、面接のために話すことを準備してきたりということもありますので要注意です。程度の感覚差の事例です。

 

次に、時間に関する基準の感覚差についてです。「できるだけ早く」とはどのくらいを指すでしょうか?もし、頼んだ方が10分以内を期待して、頼まれた方が30分後にコピーした書類を持っていったとしたら、「どうしたの?困るよ。遅いじゃない!」という言葉が返ってくるでしょう。頼んだ方が「夕方まで」と思っていて1時間後に書類を持っていったとしたら、「さすが陳さんだね。仕事が早いね!」とプラスの評価になります。日本人同士なら通じる「以心伝心」や「阿吽の呼吸」は通じません。あいまいな時間の指示では分からないのです。基準の感覚差がコミュニケーションギャップを生む事例の一つです。これは時間の感覚差です。

 

実は解決方法は簡単です。「できるだけ早く」の場合は「いつまでに」と期限や時刻、与えられた時間を明確に言うことです。あいまいな表現をせず、はっきりと相手に伝えましょう。「以心伝心」や「阿吽の呼吸」は原則禁止。相手に期待しない方が無難です。「夕方5時までにお願い」「1時間以内にできる?」とはっきり時間を伝えるべきです。

 

「できる」も同じです。日本語の学習年数、学習したボキャブラリーの数、検定試験の等級などを確認することで解決できます。

 

「知っている」の場合、会合で副市長に会う頻度、食事会の回数、一緒にゴルフをした回数など、数字で親密度を確認します。また、「副市長に贈り物をしたいと思うんですが、好きな果物は?」「乗っている車は?」「奥様の趣味は?」など、プライベートな関係でなければ知り得ないような質問をしてみると二人の関係がはっきり分かります。

本連載は、2017年3月15日刊行の書籍『中国とビジネスをするための鉄則55』から抜粋したものです。その後の社会情勢等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

中国とビジネスをするための 鉄則55

中国とビジネスをするための 鉄則55

吉村 卓

アルク

海外ビジネスにかかわる人が知っておきたい情報をQ&A形式で簡潔にまとめる国別ビジネスガイドの第5弾。 これまでの4冊と異なり、仕事における人間関係に重点を置きました。これから中国ビジネスに携わる人だけでなく、すでに…

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