前回は、保険会社にとって、被害者の治療に介入する免罪符になり得る「同意書」について取り上げました。今回は、「休業損害」のずさんな算出方法について見ていきます。

保険では休業損害分も補償することになっているが・・・

休業損害に注目してみよう。繰り返しになるが、休業損害とは事故による負傷のため働くことができなかったことによる減収のことである。保険ではこの減収分も補償することになっている。基本的に治療期間中の減収に限られているため、結局ここでも症状固定がポイントになってくる。つまり症状固定後は治療期間にならないため、休業損害は発生しないということになる。

 

ちなみに休業損害の算出方法は通常事故直前の3カ月間の収入の平均額をもとに治療期間中にどれだけ収入が減ったかで算出する。いわゆる実損を補てんするもので、そのためには実際に何日間仕事を休んだか、収入がいくら減ったかを証明する必要がある。会社に勤めていれば、通常は会社側で休業損害の証明書を発行してもらう。有給休暇を使って休んだ場合はどうかという質問がよくあるが、結論からいえばたとえ有給休暇を使っても休業損害は認められるのである。

 

ただ、会社員なら会社に問い合わせればすぐに年収がわかるからいいのだが、問題になるのは、それ以外の人々である。例えば会社を辞めて就職活動をしている期間に事故に遭った場合、年収を証明する方法がまったくなくなってしまう。例えば契約社員の場合、事故が原因で契約更新されないケースもあるが、そのような場合は当然休業損害の証明書は発行されない。つまり実損は発生していないのと同じ扱いになってしまうのである。そのため、泣き寝入りをするしかない被害者も数多く存在する。

税金対策をしている自営業者の休業損害は「雀の涙」に

また大きな問題となるのが自営業者だ。というのも、自営業者の多くは自ら確定申告を行っているが、実際の話、税金対策として経費の積み上げなどで所得自体を低く抑えて申告しているのが一般的だからだ。そういったことから、年収が80万円、100万円という自営業者は大勢いるのだが、実際に稼いでいるお金はそれだけではない。常識的に考えてそれだけの収入で家族を養えるはずがない。ところが、いざ証明しようとしても確定申告での数字が優先されるため、結局100万円なら100万円をベースに日割りして休業損害の額を算出することになるのである。そうなると休業損害とはいえ本当に雀の涙程度、実際に事故で働けない被害者の補償というにはあまりにもお粗末である。

 

だからといっていかに保険会社の目の前に帳簿を山積みにして実際のお金の動きを説明しても、まず取り合ってはもらえない。たまにこういったケースになると、保険会社側から会計のできる担当者が突然やってくることがある。これは目があるかと期待して担当者相手に徹底的に説明しても、話は持ち帰られ、その後、その担当者は出てこなくなったりする。聞く耳を持つ姿勢だけを示して、結局はうやむやにしてしまうのがほとんどのパターンだ。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

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