前回は、保険会社が医師に症状固定を迫るための「手口」について取り上げました。今回は、保険会社にとって、被害者の治療に介入する免罪符になり得る「同意書」について見ていきます。

同意書があれば、医師から被害者の情報を聞きだせる

患者を大切にして保険会社とケンカをしてくれる医師もいるが、なかには保険会社になびいてしまう医師も少なくない。また、この照会ばかりに時間を取られてドクター本来の仕事に支障をきたすのを嫌がり、渋々保険会社に同意してしまうケースもある。実際何度かこのような件に巻き込まれ、交通事故の患者を扱うのは嫌だと本音を語る医師さえいる。それだけ保険会社の攻勢は激烈なのだ。

 

そもそもこのような保険会社の行為が許されるのも、最初に保険会社が被害者に書かせた同意書によるところが大きい。もちろん保険会社が事故による治療の状況を調査することは、補償を進めるうえで必要なことである。それに加えて、昨今は個人情報の公開に慎重にならざるを得ないことから、プライバシーに相当する治療経過などの調査を行うために同意書が必要であることは致し方ない。

 

しかし注意したいのは、この同意書は保険会社にとって被害者の治療に介入する「免罪符」の役割をも果たしうるという事実だ。同意書があれば、治療経過を確認するという名目で、被害者の主治医に接近し、情報を聞き出すことができる。それだけにとどまらず、保険会社が主治医と直接会話し、保険会社側に有利な方向へ誘導したりすることも可能になる。

治療を打ち切られ、法律事務所に駆け込む被害者

いずれにしても、そうこうして症状固定を勝ち取ってしまえば、もう保険会社の思いどおり。堂々と治療を打ち切らせてしまうのだ。治療が打ち切られれば当然治療費もかからない。某大手損保会社は、頸椎捻挫なら2カ月程度で治療を打ち切らせることで有名だ。被害者本人がまだ痛いのだから治療を続けたいと主張しても、一切取り合わないのである。それ以上の治療は被害者本人の負担でということだ。

 

本来、治療の継続の判断は医師が誰からの思惑や指図を受けずに行う医療行為であるはずだ。とくに医師と患者の合意、インフォームドコンセントが求められている昨今、症状固定のような重要な決断は医師と被害者である患者がしっかりと話し合いながら、慎重に行われるべきものである。しかし交通事故治療に関して、保険会社は先ほどのようなやり方で症状固定時期を左右してしまう。これは保険会社の傲慢以外の何ものでもない。

 

実際こういったケースで、2カ月程度で治療を一方的に打ち切られた被害者が法律事務所に駆け込むことが実に多い。被害者の多くはまだ痛みを訴え、治療を続けることを願っているのである。ところが一方的に症状固定を宣言され、治療打ち切りとなってしまう。もちろん治療費も出ない。「一体どうなっているのか?」と保険会社に聞いたところで、「そういう決まりになっている」とか「これ以上治療費は出せない」の一点張り。医師に行って訴えても「もう診断書も書いたし、治療することはない」と突っぱねられる。一体どうしたらいいのか? 途方に暮れて事務所に駆け込んでくるのである。

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    本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

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    谷 清司

    幻冬舎メディアコンサルティング

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