問題だらけの「交通事故補償」 その実態の啓蒙が必要な理由

日本の交通事故補償は多くの問題を抱えています。本連載では、交通事故補償の実情とその問題点について見ていきます。

交通事故保険制度は日本の実情に適合しているか?

現在、我が国では1年間に約60万件の交通事故が発生している。警察庁の調べによれば平成26年(2014年)の交通事故件数は57万3842件、死亡者数は4113人、負傷者数は71万1374人に上っている。実に多くの人が交通事故被害に遭い、肉体的、精神的な苦痛と、経済的な負担を強いられているのが現状である。交通事故の被害者だけでなく、加害者もまた様々な苦痛と負担を背負い、重い十字架を背負って生活しなければいけない。交通事故は現代を生きる私たちの誰もが、いつ何時襲われるかもしれない身近な事件であり災禍なのだ。

 

このような交通事故は死亡事故や、重度の障害が残ったり長期の入通院が必要になったりすることも多く、多額の治療費や慰謝料など、補償額を個人で賄うには限界がある。そのため交通事故の被害者、加害者およびそれぞれの関係者の負担を軽減し、救済を図るべく、交通事故保険制度が存在している。ご存じのとおり我が国の制度では強制加入の自賠責保険と、自賠責保険だけでは補償しきれない部分を補償する任意保険の2段階の構造からなっている。昭和30年(1955年)に自動車損害賠償保障法が制定されて以降、この保険制度はほとんど変わることなく今日まで続いてきた。しかし、すでに半世紀以上経った保険制度が果たして現代の日本の実情に合っているか、あるいはその運用自体が適正なものであるかどうかについては、大いに疑問のあるところである。

「非権利状態」に置かれている交通事故被害者

私自身は弁護士になってからの約20年間で、交通事故事件を約1000件担当してきた。様々なケースとそれらのやり取りを経験する中で、この国の交通事故補償の矛盾点、問題点を強く感じるようになった。現在の日本の交通事故補償において被害者たちはすでに看過できない非権利状態に置かれているといってもいい。保険制度を運用し交通事故補償全般を担っているのは保険会社と自賠責システムを担う国、そして裁判所の3つが中心である。しかしこの3つの機関が果たして本当に被害者の保護、救済という保険制度の根本的な思想に沿った補償活動を行っているかといえば、残念ながらそうとはいえない。

 

保険会社は保険会社の利益を追求することを第一目的とし、被害者保護、救済の精神はほとんど垣間見ることができない。本来それをチェックし、あるべき制度の運用へ舵取りをすべき国も裁判所も、一向に問題点を改善しようとする気配はない。そのような状況下で本来受けられるべき補償を受けることができず、多くの不利益を被っている交通事故被害者が多数存在するのである。

 

一番の問題は、この深刻な実態と問題点を多くの国民が知らないということだ。交通事故の被害者になったほとんどの人は、保険制度、補償制度の仕組みも十分にわからないまま、保険会社のいいなりになって不当な条件で示談を結ばされているのが現状である。実際、弁護士が介入し交渉をすることで、より被害者に有利な形で決着することも多い。ただし弁護士に依頼ができる金銭的な余裕がある人ばかりではない。弁護士が介入せずとも被害者が相応の条件で示談できるような、本来あるべき保険制度に変えていかなければいけないのである。それには交通事故事件の当事者はもちろん、国民全般の意識の高まりが必要である。この国の交通事故保険制度の何が問題なのか? 変えるべきところはどこなのか? 交通事故事件に関わり、多くの実態と現状を目の当たりにしてきた私たち弁護士の役割として、直接の事件解決はもちろん、より多くの国民にその真の姿を伝えることが、今こそ大切だと考える。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載ブラック・トライアングル~交通事故補償の知られざる実態

弁護士法人サリュ 前代表/弁護士

昭和40年、大阪市生まれ。府立天王寺高校、京都大学法学部卒業。平成9年、大阪で弁護士登録。当時問題となっていた弁護士偏在解決の先駆けとして、同10年より弁護士過疎地であった山口県萩市に赴任、独立開業。同16年、弁護士法人サリュ設立。同27年現在、法律事務所を全国7カ所に構え、大阪にて執務する。平成20年より同志社大学法科大学院講師。

著者紹介

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

現代に生きる私たちは交通事故にいつ巻き込まれるかわからない。実際日本では1年間に100万人近くの人が被害者であれ加害者であれ交通事故の当事者になっている。そのような身近な問題であるにもかかわらず、我が国の交通事故補…

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