前回は、事業承継のために「少数株主」から株を買い集める方法を解説しました。今回は、自社株を相続する際に留意したい、他の相続人からの遺留分減殺請求について見ていきます。

遺言によっても侵害されない最低限の遺産の取り分

自社株を相続する際には、「遺留分」に対する配慮も必要です。遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められる「遺言によっても侵害されない最低限の遺産の取り分」です。わかりやすい例をあげると、被相続人(男性)が「愛人に全財産を与える」という遺言書を残したとしても、妻は遺留分の額だけは財産を必ず相続できるのです。

 

この遺留分を請求することは遺留分減殺請求といい、遺留分と遺留分減殺請求の主なポイントとして以下のような点があげられます。

 

●遺留分の割合は直系尊属のみが法定相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1

●遺留分の計算の基礎となる財産の価値は相続発生の時点の「時価」なので、相続税の計算のための評価額とは異なる

●特別受益や相続発生1年前の生前贈与も遺留分減殺請求の対象となる

●贈与者(被相続人)と受贈者(相続人)がともに「遺留分を侵害するおそれ」を認識していた場合も遺留分減殺請求の対象となる(法定相続財産以外についてはケースバイケース)

遺留分に足りない場合、自分の財産から支払うケースも

事業承継の際に、他の相続人から遺留分減殺請求が行われトラブルとなる典型的な場合は、以下のようなケースです。

 

〈CASE1〉

製造業を営む甲社の創業社長が亡くなった。相続財産の大半は甲社の株式に偏っており(下記図表参照)、相続人は後継者である長男のほかに長女がいた。長男が株式を全て相続したが、長女が遺留分を主張し争いになった。

 

[図表]CASE1のそれぞれの相続財産

 

このケースでは、株式以外の財産を長女が相続しましたが、それでも遺留分の額には足りず、株式の価格相当の一部を長男が自らの財産から支払うことになりました。

本連載は、2016年10月21日刊行の書籍『「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド

「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド

大磯 毅/中山 昌則

幻冬舎メディアコンサルティング

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