前回は、海外進出の武器にしたい「技術的なアドバンテージ」を取り上げました。今回は、日本ではすでに「過去のもの」となっている製品が海外で活用されている事例を見ていきます。

網戸とエアコンの普及で消えた「蚊帳」だが・・・

日本では、普及しきって当たり前になってしまったもの、あるいは、新製品に置き換えられて売れなくなってしまったものが、新興国では歓迎されるということもよくあります。

 

たとえば、蚊帳です。現在、蚊帳は日本ではあまり見かけなくなってしまいましたが、数十年前まではどこの家庭でも普通に使われていました。地方ではまだ使われているところもあるでしょうが、都市部ではほとんど蚊帳を使っている家庭はありません。

 

蚊帳が使われなくなった理由としてあげられるのが、網戸とエアコンの普及です。

 

夏の蒸し暑い夜には、窓を開け放しにして風を室内に取り入れるのが涼を取るための良い手段ですが、そのままだと風と一緒に蚊などの虫も部屋に入ってきてしまいます。蚊に食われながらでは安眠できませんから、昔は蚊帳が必須でした。

 

しかし、網戸があれば、虫をさえぎりつつ風だけを室内に取り入れることができます。さらに、エアコンが普及した結果、蒸し暑い夜でも窓を開ける必要がなくなりました。こうして、日本の家屋から蚊帳は消えていったのです。

アフリカのマラリア対策としてハイテク蚊帳を開発

しかし、日本では必要なくなった蚊帳も、網戸やエアコンが普及しきっていない国では、まだまだ重宝されます。ただの蚊帳であれば、コストや物流の面から現地メーカーにはかないませんが、日本企業ならではのハイテク蚊帳を開発して、アフリカに進出したメーカーがあります。それが住友化学です。

 

蚊が媒介するマラリアのせいで毎年、世界で40万人以上の乳児が死亡しています。このアフリカのマラリア対策として、住友化学が開発した蚊帳が「オリセットネット」です。この蚊帳は、殺虫成分を繊維に織り込んでいるため、5年以上にわたって蚊を撃退し続ける製品でした。もちろんそれまでも防虫の蚊帳はありましたが、それらは蚊帳の繊維を薬剤に浸しただけで、すぐに効き目がなくなってしまっていたのです。

 

現在、住友化学は、中国、ベトナム、タンザニアに製造工場をつくり、ユニセフなどの国際機関を通じて、世界の80以上の国々にこの蚊帳を提供しています。タンザニアでは7000人を雇用し、年間3000万張りを生産するなど、現地の経済成長にも大きく貢献しています。


さらに考えれば、前記のように現在蚊帳を必要としている国々では、経済の成長段階に合わせて網戸やエアコンなど、日本で蚊帳と入れ替わりに必要となったものの需要が増えてくる可能性が高いでしょう。

 

あるいは、日本ではすでに使わなくなったものとして、動力脱穀機もあげられます。米や麦の収穫は、日本では刈り入れから脱穀までを自動的に行うコンバインを使っています。しかし、発展途上国では高価なコンバインを導入することはできず、農村部では昔ながらの人力での刈り入れから、足踏み脱穀機、あるいは千歯と呼ばれる道具での脱穀がいまだに行われていました。


そのような地域では、日本ではコンバインの導入によって使われなくなった動力脱穀機でも、たいへん便利な機械だと受け入れられます。つまり、日本ではいまさら動力脱穀機は売れませんが、海外に持っていけば、コンバインよりも安価な機械としてありがたがられるのです。


このように、日本ではあまり売れなくなったものが、海外では重宝されることがいくらでもあります。御社の製品も、売る場所を選んだり、ちょっと工夫を加えたりするだけで、海外での需要を開拓できるのではないでしょうか。

国内頭打ち商品で利益を生み出す 海外進出戦略

国内頭打ち商品で利益を生み出す 海外進出戦略

田中 義徳

幻冬舎メディアコンサルティング

国内では売上・利益ともに頭打ちで生き残りが厳しく、海外進出を試みても撤退を余儀なくされる――中小企業はどこに活路を見出せばいいのでしょうか。 海外のマーケットでは、日本国内と同様のマーケティング、営業手法で成果…

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