ファミリービジネスの後継者と先代経営幹部の関係をどうする?

前回は、ファミリービジネスの事業承継における「利害関係者」との接し方について考えてきました。今回はファミリービジネスの後継者と先代経営幹部との関わりに焦点を絞って見ていきましょう。

先代経営幹部にとって脅威となる「後継者の存在」

事業承継とは、単なる新旧経営者の交代ではありません。新旧経営者の交代がおこなわれることは、新旧両世代に関わる社内の人間関係にも大きな影響を与えるのです。Beckhard and Dyer(1983)によると、事業承継が先代経営幹部にとっての二つの大きな問題が生じさせると言います。

 

第一が、先代経営者の方針の継続の可否です。通常、経営幹部たちは従事してきた先代経営者の価値観、関係性、方針、方法を後継者が継続するつもりなのかを心配しています。

 

第二が、後継者への事業承継後における先代経営幹部の処遇の問題です。通常、経営幹部たちは事業承継後、自分たちがどのような処遇になるのかを心配しています。

 

このように、後継者へ経営権が移っていく状況において、後継者の存在は、先代経営幹部にとってある種の脅威になってしまうようです。それでは、承継プロセスにおいて先代経営幹部と後継者とどのような関係をつくるべきなのでしょうか。

後継者と先代経営幹部との関係は複雑

これまでの研究によると、後継者と先代経営幹部との関係は、悪すぎても事業承継に問題が生じますが、単純に良すぎても問題が生じてしまうようです。以下、それぞれの事業承継に与える効果を考えてみることにしましょう。

 

第一に、両者の関係が「良い」もしくは「親密」な場合、後継者は先代経営幹部の協力を得やすいという利点があります。後継者は大きな仕事をしようとすると、多くの経営資源(従業員など)が必要となります。この場合、社内で影響力のある先代経営幹部の協力は、リーダーシップが不足がちな後継者の大きな後ろ盾となるでしょう。

 

他方、先代経営幹部に協力を得ていく中で、後継者は独自の思考や行動が行いにくくなるという欠点があります。これは、後継者の思考や行動が先代経営幹部に過剰に影響を受けてしまい、保守的な傾向に陥ってしまう可能性があります。

 

第二に、両者の関係が「悪い」もしくは「疎遠」な場合、後継者は先代経営幹部に仕事上の遠慮をする必要がないので、非連続的な変化(イノベーション)が導入しやすいという利点があります。

 

他方、両者の関係が「悪い」もしくは「疎遠」になると、先代経営幹部からの協力が得にくく、彼らの豊かな経験と教訓を活用することができないという欠点も存在します。このように、事業承継プロセスにおいて、先代経営幹部と後継者との間には複雑な関係があることが読み取れます。

 

【図表】後継者と先代経営幹部との関係

出所:筆者作成
出所:筆者作成

適度な距離感が後継者の能動的行動を育む

筆者の調査によると、先代から後継者への事業承継を契機にして、先代経営幹部が全員退任するというケースも存在しました。それは、後継者による主体的な経営に支障がでないようにする配慮であるといえるかもしれません。

 

他方、先代経営者が、後継者と先代経営幹部の関係を上手にマネジメントしているケースも存在しました。確かに、生得的地位を保有する後継者の場合(第16回参照)は、仕事上、先代経営幹部に同調する必要がありません。したがって、ファミリービジネスにおいては、後継者による独創的な思考や行動を促進させる機能があるといえます。

 

しかし、ファミリービジネスでは、後継者が独創的な思考や行動を行いやすいが故に不適正な経営(経営上の暴走)を行ってしまう可能性も高めてしまいます。その場合に、経験豊かな先代経営幹部が後継者に対して、牽制と規律づけの機能を担うことが期待されます。

 

このように、承継プロセスでは、後継者と先代経営幹部の仕事上の距離を一定に保つことによって(良すぎるのでもなく、悪すぎるのでもなく)、後継者の能動的行動を促進させる機能と先代経営幹部による牽制機能の両方を担保することが重要となるといえるでしょう。

 

 

<参考文献>

Beckhard, R., & Dyer Jr., W. (1983). Managing Continuity in the Family-Owed Business. Organizational Dynamics, 12(1), 4-12.

加護野忠男(2008)「学術からの発信 経営学とファミリービジネス研究」『学術の動向』第13巻第1号, 68-70頁.

落合康裕(2014)『ファミリービジネスの事業継承研究:長寿企業の事業継承と後継者の行動』神戸大学大学院経営学研究科博士論文.

落合康裕(2016a)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.

落合康裕(2016b)「中小企業の事業承継と企業変革:老舗企業の承継事例から学ぶ」中部産業連盟機関誌『プログレス 2016年11月号』, pp. 9-14.

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

日本経済大学 経営学部 准教授 名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 客員教授

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。
大和証券(株)入社後、本社人事部、大和証券SMBC (株)金融法人部をへて、2014年より日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授就任。ファミリービジネス学会理事。
現在、ファミリー企業の事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、ビジネススクールにおけるケースメソッド形式による事業承継講座を担当するほか、企業の事業承継に関する助言指導や実務家向けセミナーの講師などを務める。2015年末に日本で初めてとなる同族経営の実証研究書となる『ファミリービジネス白書』を同友館から発刊。同書の初代企画編集委員長を務める。

著者紹介

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継…

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