前回に引き続き、急激に数を増やした「サ高住」が抱える問題を見ていきましょう。今回は、運営事業者の割合などのデータから、より詳しく問題の本質を探ります。

現在のサ高住の多くは「要介護者向け」だが・・・

前回に引き続き、急激に数を増やした「サ高住」が抱える問題を見ていきましょう。サ高住の運営事業者の8割以上が介護・医療系事業者です。

 

[図表1]サービス付き高齢者向け住宅事業を行う者

出典:「 サービス付き高齢者向け住宅登録の現状と分析(2016年9月末時点)」
(高齢者住宅研究所)
出典:「 サービス付き高齢者向け住宅登録の現状と分析(2016年9月末時点)」 (高齢者住宅研究所)

 

このようなデータから、現在のサ高住の多くは要介護者向けだということが推測できます。

 

ところが実際には、シルバー世代のなかで要介護者の割合はそれほど多くはありません。現在、日本の65歳以上の人の数は約3411万人です。そのうち要介護認定者は約570万人。

 

つまり、シルバー世代のうち介護を必要とする人の割合は全体の17%程度しかいないのです。住宅市場は、供給実態とは逆の、介護を必要としない高齢者向けの住宅を求めているといえるのではないでしょうか。

欧米では入居者の尊厳が守られる「住宅」へとシフト

要介護者向けではない高齢者住宅の参考になるのが欧米先進国の例です。日本のサ高住は、2011年に登場しました。ところがほとんどの欧米先進国では、それ以前から似たようなシルバー向け賃貸住宅が存在し、すでに市民権を得ています。

 

おもな国々の全高齢者に対する介護施設と高齢者住宅等の割合は以下の図表2のようになっています。

 

[図表2]全高齢者に対する介護施設・高齢者住宅等の割合

※1  シルバーハウジング、高齢者向け優良賃貸住宅、有料老人ホーム及び軽費老人ホーム
(軽費老人ホームは2004年)
※2  介護保険3施設及びグループホーム
【資料】社会保障国民会議サービス保障(医療・介護・福祉)分科会(第8回)
※1 シルバーハウジング、高齢者向け優良賃貸住宅、有料老人ホーム及び軽費老人ホーム (軽費老人ホームは2004年)
※2 介護保険3施設及びグループホーム
【資料】社会保障国民会議サービス保障(医療・介護・福祉)分科会(第8回)

 

各国の制度内容は異なるものの、介護付きの施設系と自立した人も対象とする住宅系に大別した場合、日本は欧米先進国に比べ圧倒的に住宅系の割合が少ない状態です。たとえば、高齢者福祉のトップランナーであるデンマークの9分の1程度しかありません。

 

少し古いデータなので、日本にサ高住が登場したことでこの差は若干縮まっているはずですが、現在でも欧米先進国に追いついていないことは間違いないでしょう。

 

デンマークの高齢者住宅では、徹底して自立を支援しています。同国の政府は「住宅のタイプが高齢者が受ける介護その他のサービスを決めるべきではない。個人のニーズが介護を決めるべき。介護は高齢者に応じたものであるべきで、高齢者の住居に応じたものであるべきではない」として1988年以降プライエム(特別養護老人ホームのようなもの)の新築を禁止しました。

 

その後、シルバー世代の早めの引っ越しを推進して、実際に55~70歳の引っ越しが一般的になっています。

 

欧米先進国のシルバー世代の住まいの潮流は、介護付きの「施設」ではなく入居者の尊厳が守られる「住宅」の方へ流れているのです。

 

私たちの会社では、常にこのような欧米先進国の事例を研究しています。そのうえで今の自宅の自由さを維持しつつ、バリアフリー構造や生活相談、見守りといったサービス、さらにおいしい食事の提供などで、より安全・安心で快適な住まいの実現を目指しています。

本連載は、2017年1月30日刊行の書籍『70歳からの住まい選び』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

70歳からの住まい選び

70歳からの住まい選び

小山 健

幻冬舎メディアコンサルティング

最高の住み心地・豊かな人間関係・健康面の安心…生涯充実した人生を送るための高齢者向け住宅とは⁉︎ 一人で住み続けるのは不安…でも、老人ホームには入りたくない。70歳を過ぎた人の、新しい住まい探しの教科書です。

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