今回は、「国際金融規制」による各金融機関への弊害を見ていきます。※本連載は、銀行、証券、保険など金融機関を中心に30年以上の豊富な取材経験をもち、現在も各種媒体で健筆をふるうジャーナリスト・齋藤裕氏の著書、『金融業界大研究』(産学社)の中から一部を抜粋し、銀行、証券、生命保険、損害保険各業界の最前線を徹底レポートします。

総資産の拡大抑制に躍起となる金融機関

日本の3大メガバンクグループは、収益に占める国際部門の比率を、急速に高めている。欧米勢が、資産規模を縮めるのを尻自に、海外の融資先を引き継いだり、日本企業の海外展聞に伴って業務を拡大したのだ。グローバルにみて資産規模の拡大が目立つのは、中国の銀行と並んで邦銀である。しかし、この海外展開にも今後は見直しが必要かも知れない。

 

金融危機の反省から、金融規制がいよいよ本格化し、マネーの動きが変わりつつあるからだ。

 

金融の世界は「政治」の世界でもある。人、物だけではなく金融(カネ・資本)もグローバル化している(金融)資本主義の時代、カネを支配することで政治・経済の世界の覇者になりうる。

 

その国際金融界で、いま、関心を持たれているのが金融規制動向だ。主要国の銀行が加盟するバーゼル銀行監督委員会が2015年6月、銀行が持っている国債などの金利関連商品に導入する新規制案を発表した。

 

中身は2通り。金利上昇リスクに応じ、資本を積み増す共通ルールを導入する案と、金融当局に行政処分などを含む監督権限を与える案だ。2016年に結論をだし、2019年以降に適用する。

 

新規制は市場金利が急上昇(価格が急落)した際に、銀行が保有する国債や住宅ローン商品などの価格が下がり、保有リスクが高まることを監視する狙いがある。外国債も含め、あらゆる金利商品を対象にする。この案では、金利が1%上がると日本の銀行が持つ債券価値は約5兆5000億円値下がりする。

 

金融規制がどんどん強化されている結果、金融機関は自己資本との見合いで、総資産が膨らむのを極力避けたビジネスモデル作りを行なってきており、その結果、市場を駆けめぐるマネーの収縮が起こっている。

世界に流通するドルの量は収縮傾向に・・・原因は何か?

先進国はどこも金融緩和策に走り、カネをジャブジャブ放出している。年金といった投資マネーも減るどころか増えている。それなのに、どうしてマネーの収縮が起きるのか。

 

原因の一つに、原油価格の下落に伴うオイルマネーの縮小がある。というのも、産油国の優等生であったサウジアラビアは、世界の投資資金を引き揚げる動きに出ている。また、ワールドダラー(米国のマネタリーベースと米国以外の国が外貨準備として保有するドルを足し合わせたもの)は2014年から伸びが止まっている。

 

つまり、世界に流通するドルの量が収縮しており、今は「カネ余り」ではない。

 

米銀などがドルの放出を制限している結果、大きな影響を与えているのが邦銀の国際展開。例えば、邦銀は海外ではほとんどドル建ての融資を行なっているが、マーケットのドルの量が収縮すれば、当然調達コストが上昇し、企業向けの貸出金利も押し上げられる。

 

その結果、海外展開を進めた日本企業などは、金利負担が重くなる。また、国際金融の世界でも、大量にドルを借りている新興国などでは、今後、返済のためのドル資金の手当てそのものが難しくなれば、リーマンショックの時と同じく金融危機が再現される可能性も出てくる。

 

【図表】金融危機後の国際金融規制の枠組み

出所:金融庁、国際金融規制の資料
出所:金融庁、国際金融規制の資料

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