今回は、見直しが進む今後の「介護保険制度」の概要について見ていきます。※本連載では、特定社会保険労務士の三宅明彦氏、三平和男氏、深澤理香氏の共著『年金・医療保険・介護保険のしくみがわかる本〔第2版〕』(法学書院)の中から一部を抜粋し、平成27年に一元化された年金、そして医療保険・介護保険のしくみや手続きの基礎知識を解説します。

所得や資産のある人の利用者負担を見直し

1 介護保険制度の改正について

平成26年6月に地域医療・介護総合確保推進法(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律)が成立しました。今後の高齢化の一層の進展に伴い、地域における医療および介護の提供体制の総合的な確保を推進するための介護保険制度が改正されることになり、平成27年4月以降、順次施行されています。

 

今回の改正により見直される主要な内容は、①地域包括(ちいきほうかつ)ケアシステムの構築と②費用負担の公平化を図ろうというものです。

 

①地域包括ケアシステムの構築

高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるようにするため、介護、医療、生活支援、介護予防を充実させようとするものです。

 

②費用負担の公平化

低所得者の保険料軽減を拡充すると同時に、保険料上昇をできる限り抑制するため、所得や資産のある人の利用者負担を見直すということです。具体的な内容は以下の通りとなっています。

 

[図表] 新しい地域支援事業の全体像

      出典:厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/)

 

2 地域支援事業の充実

①在宅医療・介護連携の推進

在宅医療・介護の連携推進については、介護保険法において制度化し、全国的に取り組むこととし、具体的には、市町村が主体となり、地区医師会等と連携しつつ、取り組むこととされます。

 

②認知症施策の推進

認知症施策を推進するため、介護保険法の地域支援事業に位置付けられました。

 

③地域ケア会議の充実

地域ケア会議については、地域包括ケアシステムの実現のための有効なツールであり、さらに取組みを進めることが必要であり、介護保険法で制度的に位置づけることとされました。

 

④生活支援サービスの充実・強化

ボランティア、NPO、民間企業、協同組合等の多様な主体が見守り・安否確認、外出支援、買い物、調理、掃除などの家事支援など多様なニーズに合ったサービスを提供します。

 

また、生活支援サービスを利用できるような地域づくりを市区町村が支援することについての制度的な位置付けを図るため、介護保険法の地域支援事業に位置付けられました。

低所得者の保険料軽減を拡充

3 全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護)を多様化

予防給付の地域支援事業への移行は、29年度末までに段階的に移行することが予定されています。この見直しにより、既存のサービス事業者による既存サービスに加え、NPO、民間企業、社会福祉法人、住民ボランティア、協同組合等による多様なサービスの提供も可能となり、効果的・効率的な事業も実施可能となります。

 

4 特別養護老人ホームの新規入所者を原則、要介護3以上に限定

特別養護老人ホームの新規入所者を、原則、要介護3以上の高齢者に限定し、在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える施設としての機能に重点化します。

 

他方で、軽度(要介護1・2)の要介護者について、やむを得ない事情により、特養(とくよう)以外での生活が著しく困難であると認められる場合には、市町村の関与の下、特例的に入所を認めます

 

また、既入所者はそのまま入所していることができます。

 

5 低所得者の保険料軽減を拡充

給付費の5割の公費とは別枠で公費を投入し、低所得の高齢者の保険料の軽減割合を拡大します。

 

6 一定以上の所得のある利用者の自己負担を引き上げる

被保険者の上位20%に該当する合計所得金額160万円以上の者(単身で年金収入のみの場合、280万円以上、夫婦359万円以上)の自己負担割合を2割とします。

 

ただし、月額上限があるため、見直し対象の全員の負担が2倍になるわけではありません。

 

7 低所得の施設利用者の食費・居住費を補てんする「補足給付」の要件に資産などを追加

 

施設入所などにかかる費用のうち、食費および居住費は本人の自己負担が原則となっていますが、住民税非課税世帯である入居者については、補足給付を支給し負担を軽減しています。

 

しかし、預貯金などを保有するにもかかわらず、給付が行われることは不公平であることから、支給の要件に、次のように資産などを追加することとします。

 

●一定額超の預貯金など(単身では1000万円超、夫婦世帯では2000万円超程度)がある場合は、支給の対象外。

●世帯分離が行われた場合でも、配偶者が課税されている場合は、支給の対象外。

●給付額の決定にあたり、非課税年金(遺族年金、障害年金)を収入として勘案する。

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    本連載は、2016年12月15日刊行の書籍『年金・医療保険・介護保険のしくみがわかる本〔第2版〕』から抜粋したものです。稀にその後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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