今回は、悔いなく旅立つための墓選び、葬儀の準備、断捨離などの「終活」について見ていきます。※本連載では、特定社会保険労務士の三宅明彦氏、三平和男氏、深澤理香氏の共著『年金・医療保険・介護保険のしくみがわかる本〔第2版〕』(法学書院)の中から一部を抜粋し、平成27年に一元化された年金、そして医療保険・介護保険のしくみや手続きの基礎知識を解説します。

元気なうちに伝えておきたい「自分の意思」

「悔いのない逝き方をしたい!」と誰もが思いますが、さて、何からはじめてよいか分かりませんよね。仕事の有無、家族との関わりによって異なりますが、まずは、墓選び葬儀の準備旅行断捨離(所有物の整理)などから始めると気持ちが落ち着くみたいです。

 

【病院で亡くなった後の搬送】

身内が無くなると、家族は悲しみの中、葬儀の準備をすすめることになります。

 

たいていは病院で亡くなりますので、すぐに遺体を病院から搬送しなくてはなりません。自宅は一軒家ですか?一階に寝かせるスペースがありますか?マンションの場合は、エレベーターに棺が入りますか?……。

 

このようなことは、普段から考えている人はほとんどいません。ですから、多くは病院と提携している葬儀社に依頼し、安置場所を決めてもらい、その後の葬儀まで任せるようです。

 

あまり多くはないケースですが、実は自家用車を使用するのでしたら業者に頼らず自宅に戻ることも可能です。「最期は、自分の家に帰りたい」、「全ては子どもや残された家族に任せる」等、自分の意思を元気なうちに伝えておくとよいですね。

 

【葬儀費用は明細が無い?】

悲しみにくれる中、複数の葬儀社から見積りを取ることは至難の業です。その上、葬儀費用は一般的に「葬儀一式」で請求書が届き、全てが終わった後でこんなにかかったのかと驚くことも少なくありません。

 

「死ぬ前に準備するなんて……」と思うかもしれませんが、「自分らしい」葬式を考えるのは、意外に後ろ向きな作業ではないみたいです。前述のエンディングノートを記入することにも共通しますが、気持ちの整理にはとてもよいとききます。

 

●葬式の形態

宗教形式(菩提寺の住職に連絡が必要か、無宗教で行うか、など)

一般的な仏前式、家族葬、など会葬者(見送り人数)の規模

直葬(通夜や葬儀を行わず、火葬だけを行う)

 

●家族が困らないために、自分でできる準備事項

葬儀費用(一般的な葬儀で200万円くらい)

喪主

遺影

葬儀社

菩提寺などとの連絡

親せき・友人・知人などの連絡先一覧作成

 

【家族葬の後にお別れ会をひらく】

慣れない葬儀において、葬儀社との打合せや参列者との対応等に追われ、何が何だか分からないまま大事な家族を見送ってしまったと悔やむ遺族もいます。

 

最近では、まずゆっくり家族で見送り、後日知人や友人に集まってもらって「お別れ会」をひらく形式を選択する人たちが増えています。実際「お別れ会」を開催した家族は、亡くなった日から多少時間が経過して気持ちの整理もできていたのでよかったといいます。費用面では、必ずしも2倍かかるわけではないようです。「お別れ会」は食事会のような形なので、葬儀社に頼らなくてよい分、出費を抑えられることもあります。

「断捨離」は高度で崇高な旅立ちの準備

【健康保険から葬儀代が出る?】

ご加入の健康保険によっては、埋葬を行う人に埋葬料(まいそうりょう)等が支給されます。例えば、協会けんぽにご加入の人は、協会けんぽから5万円支給されます。なかなか知られていない制度です。申請しないと支給されませんので、家族の方はご加入の健康保険に相談してください。

 

【墓決め、墓の引っ越し】

先祖代々の墓は遠いので、自分たちの墓は自宅近くに用意したいのだけど、先祖の墓はどうしよう?という話が多く聞かれます。核家族や少子化等、時代の流れで、地方の墓の問題は悩みの種です。実は、墓も引っ越しができることをご存知ですか?「改葬(かいそう)」といいます。改葬するには、「墓地、埋葬等に関する法律」の規定に従った手続きが必要です。

 

自宅近くに新しい墓を用意した場合は、新しい墓の管理者などから「受入証明書」や「墓地使用許可書」などを受け取った後、市区町村役場で「改葬許可申請書」や「改葬許可証」等の手続きが必要です。市区町村役場の戸籍課などに相談してください。寺社へのお礼(お布施)も含めて、かなりの出費が予想されます。計画的にすすめましょう。

 

【断捨離】

もともと断捨離(だんしゃり)とは、ヨガの行法に由来し、人生や日常生活に不要なものを断つことで、その後の生活が身軽で快適になる、という考え方です。最近、このことばをよく耳にします。単なる片付けより高度で崇高な旅立ちの準備とも言えるかもしれません。

 

認知症の親の死後、部屋の片付けをしていたら、砂糖が20袋、下着が100枚、醤油が30本……、とあり得ない量の日用品が出てきたというのはよくある話です。これは、病気のせいでもありますが、歳をとればとるほど、「もったいない」精神に磨きがかかります。これは、残された家族にとっては、捨てるに捨てられない思い出の品として残ってしまい、かなりの負担をかけることになります。大事なものや高価なものなど、引き継いでもらいたい品は、事前にその旨を遺書やエンディングノートに記し、譲り渡す人の承諾も得ておくと安心ですね。特に、残されたら困るもの、本人が整理しておくべきものベスト5は以下の通りです。

 

印鑑(以前は印鑑を作るのが好きな人が多く、最近は印影が通帳にないため、自分でもどの通帳にどの印鑑か分からないことが多いのです)

手紙・写真類

趣味や習い事の道具

骨董品、美術品

家族に秘密にしていたマイナス財産(借入金、未納税金、未払金など)

 

【きれいに生きる】

遺書も書いた、墓も用意した、葬儀の希望も伝えた(費用も戒名も準備した)、断捨離も終えた……、と元気なうちに終活を始めると、すがすがしい気持ちになり、さらに長生きして「旅行に行きたい!」「ひ孫の顔が見たい!」と目標が出てくるようです。

 

社会保険労務士の仕事は、人生のゆりかごから墓場までの法律を扱うため、さまざまなケースに遭遇します。夫の死後、「本妻より先に愛人が遺族年金の手続きをしていた。」や「愛人の子どものところに遺族年金がいってしまった。」などという相談もあります。立つ鳥跡あとを濁にごさず……。

 

きれいに生きて、きれいに旅立ちたい……ものですね。私自身もそうありたいと願っています。

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    本連載は、2016年12月15日刊行の書籍『年金・医療保険・介護保険のしくみがわかる本〔第2版〕』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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