前回に引き続き、「社員に対する未払賞与」の処理に関するポイントを見ていきます。※本連載では、税務調査の現場実務に精通し、国際税務コンサルタント事務所の所長として活躍する渡邊崇甫氏の著書、『業種別 税務調査のポイントー国税調査官の視点とアドバイスー』(新日本法規出版)より一部を抜粋し、税務調査の基礎知識や税務処理で誤りやすいポイントなどを解説します。

社員に対する「賞与の損金算入時期」とは?

<解説>

 

法人が使用人に対して賞与(臨時的な給与)を支給する場合、その支給額はそれぞれ次の事業年度において損金の額に算入されることとなります(法令72の3)。

 

①労働協約又は就業規則に定められた支給予定日が到来している賞与:その支給予定日又は使用人にその支給額の通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度(損金経理が要件)

 

②次に掲げる要件の全てを満たす賞与:使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度

 

㋐その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。

 

㋑㋐の通知をした全ての使用人に対し、当該通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に当該通知した金額を支払っていること。

 

㋒その支給額につき㋐の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。

 

③①及び②以外の賞与:当該賞与が支払われた日の属する事業年度

通知どおりの金額が支払われない可能性があると・・・

上記1で確認したように、使用人賞与は実際にその支払が行われた事業年度において損金算入を認めることを原則(上記1③)としていますが、未払賞与であっても実際に支払が行われたものと同視し得るような状況にあるもの(上記1①及び②)については損金算入を認めることとしています。

 

上記1①については、労働協約又は就業規則により労使間で賞与の支給につき約定がなされ、それにより定められた支給予定日が到来しているにもかかわらず何らかの事情で未払の状態にあるケースにおいては、既に債務は成立している状況にあるといえ、その状態に加えて使用人に対し支給額の通知をしていれば、更に具体的な債務の確認(金額の確定)をも行ったことになりますので、実際に支給がなされたものと同視することができるといえます。

 

また、本事例における未払賞与の計上の根拠とした上記1②のケースについては、㋐において支給を受ける全ての使用人に対する「通知」を要件のひとつとしていますが、支給日に在籍する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の「通知」は、ここでいう「通知」には該当しないこととされています(法基通9243)。

 

これは、期末における未払賞与が実際に支給されたものと同視できる状況にあるというためには、期末までに通知した賞与につき、その通知を受けた使用人が支給日まで在籍しようがしまいが支給される確定支給額として双方認識し合っている状況である必要があると考えられるからです。

 

すなわち、期末までに通知した金額どおりの金額が実際には支払われないようなことが起こり得る状況では、未払賞与を計上できないこととなります。

 

したがって、支給日までに退職した者については賞与を支給しないこととしている場合には、支給日までに退職した者がおり、実際にその者に対して賞与を支給しなかった場合はもちろんのこと、たとえ結果的に退職者がいなかったため通知した金額を全額支給した場合においても、未払賞与は損金の額には算入されないこととなります。

 

また、支給日までに退職者がいたため実際に賞与を支給しなかった者がいるケースでは、上記1②㋑の「全ての使用人に対し、・・・当該通知した金額を支払っていること」の要件にも抵触することとなり、いずれにせよ未払賞与の全額が損金として認められないことになります。

 

この話は次回に続きます。

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