AIIBに「急いで参加する必要がない」6つの理由

アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を見送った日本。「急いで参加する必要がない」理由を見るとともに、AIIBに対して、今後、求められる対応を検討する。

現実的に考えれば日本の参加は米国次第

日本はAIIBに参加すべきか否か? 中国問題や外交問題の専門家と言われる人々の間では、「早く参加すべき」、「外交上の失態」といった意見が多いようだが、筆者は次の理由から、急ぐ必要はないと考えている。

 

①現実的に考えれば、よくも悪くも、日本の参加は米国次第で、かつての米国の頭越し対中外交のような事態を避けるため、緊密に米国と連携する選択肢しかない。

 

②AIIBがまともな国際機関になれば、一定の条件を備え、加盟国の同意が得られれば、いつでも参加できることになっていなければおかしく、またそれは、ドナー国である日本にとっては何の問題もないはずである。

 

③加盟すれば、創設メンバーでなくても、ルール改正等について、いつでも提案できるはずであり、もしそうでなければ、主導している中国が批判にさらされるだけである。

 

④参加すべきという主張の大きな論拠のひとつは、AIIBのプロジェクトから日本企業が排除されるというものだが、実際には、加盟しても、日本企業がインフラプロジェクトに参加できる可能性はそれほど高くない。ADBのプロジェクトですら、資材調達や工事の50%以上は中国とインドで占められており、日本は1%未満と極めて低い(ただし、2次、3次の孫請けを考慮すると、これよりやや高くなる可能性はある)。

(参考)ADBローンプロジェクトにかかる資材調達、工事への国別参加状況(シェア、2014年)中国30.08%、インド21.63%、ベトナム8.24%、トルコ6.2%、韓国4.25%、スリランカ4.05%・・・日本0.69%
(資料)ADB年次報告2015

 

⑤ADB等と業務が競合することは明らかで(特に2000年代に入り、これら既存機関は大規模インフラプロジェクトへの回帰を強めている)、厳しい財政状況の中で追加資金を出すのであれば、既存組織に拠出し、その充実を図るべきである。

 

⑥中国はなお、日本や米国に対し、参加を歓迎するとしている。その主たる理由は、日米が参加すると、確実に国際市場で世銀やADB等と同じ最高の格付けを取得でき、それによって、国際市場で低コストの資金調達が可能になるためだ。日米としては、逆にこの点を武器にしていくことができる。金初代行長候補は9月、シンガポールでの会議の席上、おそらくこの点を見越して、「すでに主要国際格付機関に公正な格付け評価を依頼しているが、仮に然るべき格付けが得られなくても、中国国内市場で極めて有利な条件で、200-300億ドルは容易に調達できる。」とけん制発言をしている。その通りかもしれないが、仮にそうなると、AIIBは益々、実態は中国による中国のための組織であって、国際機関とは言い難いということになる。

今後、日本はどう対応していくべきか?

ただ、そうは言っても、日本は、AIIBに多くのアジアの途上国がいち早く参加表明したことからも明らかなように、彼らも既存枠組みに100%満足しているわけではないということに留意する必要がある。既存国際機関が援助に様々な条件を課し、承認にも長い時間がかかるといった点に、途上国の不満が大きい。

 

中国も、AIIBについては、既存の国際機関と異なるガバナンスにすることを示唆している。例えば、世銀のような「自由市場経済政策」は採らず、借入国に対し「不合理な」要求をすることはしない、手続きを簡素化し、審査でプロジェクトの承認、実施が何か月も遅れるといったことは避け、迅速かつ効率的な意思決定、それに伴うコストの削減に努める等々である。理事会を常駐しないと主張しているのもその一環だ。

 

筆者のADBでの経験からすると、環境汚染や人権問題(住民の立ち退きなど)を重視して、プロジェクトの承認を遅らせてきたのは、実は、主として、AIIBに雪崩を打つように加盟した欧州諸国だ。それは必ずしも非難されるべきことではなく、むしろ乱開発を防止する観点から評価すべき点も多い。

 

要は、適切な環境基準や人権尊重などに配慮しつつ、どれだけ迅速かつ効率的な意思決定を行うかというバランスの問題である。欧州諸国は、ADBや世銀では従来通りの対応を続け、AIIBでは全く違う対応というダブルスタンダードを採るのか? そうなると、欧州諸国、AIIBは、とりあえず一部途上国からは歓迎されても、結局は、国際社会全体から厳しい目を向けられることになろう。逆に、同様に環境基準や人権問題について厳しい対応をとるのであれば、それはそれで、AIIBは一応まともな国際機関として評価されることにはなろうが、そのあり様は既存機関とさほど変わらなくなる。

 

その場合、似たような国際機関の並存という非効率な状況に対し、国際社会からなんらかの形で統合すべきという話になってくるかもしれない。日本はADB等既存国際機関のガバナンス改善に積極的に取り組むとともに、仮に国際機関の再編・統合といった話になった時には、主導的役割を果す心構えをしておくべきだろう。

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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連載AIIBに日本はどう向き合うべきか

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

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