アジアインフラ投資銀行(AIIB)を主導する中国の狙いとは?

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)。日本は創設メンバーになることを見送ったが、今後はどのようにAIIBと向き合っていくべきか? 中国の思惑などと合わせて検証する。

アジア開発銀行を上回る規模になる可能性も

対中関係で今年前半の大きな話題のひとつは、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、日本も創設メンバーになるべきかどうかだった。中国は6月、欧州諸国やオーストラリア等を含む57の創設メンバーを北京に招き、設立協定の調印式を挙行、その後、初代行長候補である金立群中国財政部元副大臣は、9月韓国訪問時、加盟国は近い将来70まで増加する見込みであると発言、もしそうなれば、アジア開発銀行(ADB)の67を上回る規模となる。

 

日本は創設メンバーになることを見送ったが、今後どう対応していくべきか、引き続き検討が求められる状況にある。

 

(注)6月29日時点での加盟状況。赤は協定署名済50か国、黄色は署名がまだ終わっていない7か国を表す。
(資料)Baidu百科
(注)6月29日時点での加盟状況。赤は協定署名済50か国、黄色は署名がまだ終わっていない7か国を表す。
(資料)Baidu百科

 

「大国」としてのグローバル・ガバナンスの一つ

中国がAIIBを提唱する伏線は、すでに近年のその外交の動きの中にあった。経済力をつけ、自らも国際社会の「大国」と位置付ける中国は、近年、国際社会の問題を議論し方針を決める枠組み(グローバル・ガバナンス、中国語では“全球治理”)の議論を好み、またそれを対外的に示すことに熱心になっていた。

 

鄧小平以来続いてきた、いわゆる韜光養晦方針(とうこうようかい、外交で目立たず、内政に注力し、力を蓄える)からの戦略転換だ。筆者自身が参加したものだけでも、中国社会科学院主催“亜洲研究論壇”での“亜洲発展と全球治理”、中国国際経済交流中心(CCIEE)が主催した“全球智庫峰会(グローバル・シンクタンク・サミット)”における“全球経済治理:共同責任”(いずれも2011年6月、北京)、CCIEEと国連開発計画(UNDP)中国事務所が共催した“全球治理、前進か後退か?-途上国の視角”と題した“全球治理高層(ハイレベル)政策論壇”(2012年12月、北京)といった国際会議を次々に開催、アジアのみならず、欧米各国から経済や国際政治の専門家を招いて議論を主導してきた。

 

次に、新型大国関係論が盛んになった。まず中国の学界で、2012年11月の共産党大会での指導層交替と軌を一にするようにして、この関係の議論が多く見られるようになった。例えば“大国のアジア戦略調整と中国の対応”(亜太藍皮書2012年)、“安定的な体系下での新しい大国関係”(毛沢東鄧小平理論研究、同年10月)、“新型大国関係の構築”(人民日報理論、2013年4月)、“積極的な姿勢で大国関係を構築すべき”(中国社会科学報、同年9月)等である。そこでは、冷戦前はゼロサム・ゲーム、冷戦中は分裂、緊張、抑圧、対抗衝突、冷戦後は複雑・多様化、競争と協力といった表現で特徴付けられるとし、“軟硬兼施”、ハードラインとソフトラインを兼ねた政策が大国外交として望ましいと論じられた。

 

さらに中国は、グローバル・ガバナンスの議論にからめて、「米国主導で民主的でない」IMFやG7と異なり、G20を多くの新興・途上国の意見がより反映される枠組みであると評価したが、国際金融面では、既存組織はそれなりに有効に機能する一方、G20は恒久組織を持たない緩い枠組みで、既存組織に代替できないとその限界も認識し、既存組織への出資増額による影響力拡大を目指してきた。

 

しかし、IMF・世銀改革が米国議会の反対で進まない中、大きな不満を募らせていた。上記、大国関係論の脈絡では、大国関係とは中米関係に他ならないと明確に主張されるようになり、米国中心の戦後秩序に対する挑戦的な姿勢を見せ始めていた。習近平国家主席は2015年9月の訪米も含め、米中首脳会談等の機会を捉え、盛んに「対抗ではない新しい大国関係の構築」について米側に言及、胡錦濤前国家主席が、共産党総書記としては最後になった演説の中で(2012年11月党大会)、「大国関係とは全ての先進国との関係」と述べたことと対照的と言うべきだろう。

 

国内経済的には、膨大な外貨準備の運用をどうするのか、国内でのインフラ投資の伸び悩み、製造業部門での過剰設備の蓄積、それによってもたらされた成長率の鈍化といった環境変化がある。また、人民元ローンや国際市場での人民元建て債券の発行などを通じて、AIIBが手掛ける各国でのインフラプロジェクト資金に人民元の利用を促進し、中国が進めている人民元の国際化を後押しする狙いもあろう。こうした経済要因も、構想を推し進める背景として無視できない。

AIIBは既存機関と競合しないのか?

中国は表向き、アジアのインフラ需要は膨大であること、またADBや世界銀行はもっぱら貧困削減を目的とする一方、AIIBはインフラ建設を目的とするものであることから、両者は競合せず、補完的関係にあると主張している。

 

AIIBは「国際商業銀行」であって、「開発金融機関」ではないということかもしれない。しかしこれは詭弁だ。世銀やADBはどうすれば貧困救済といった開発効果を上げることができるかを考えながら、インフラ建設を推進してきた。AIIBも貧困救済といった開発効果、環境への影響などを考えずに、単に中国企業に橋や鉄道を建設させるだけでは、中国がその援助外交への批判をかわすため、国際機関を通じて「マネーロンダリング(資金洗浄)」をしているだけだと言われても仕方あるまい。筆者の知る限りでは、インフラ整備が途上国の最大の課題である貧困削減にどう寄与するのかといった点について、中国が何かその考えを述べたということは聞かない。

 

AIIBに参加する国の大半は世銀やADBにも加盟しており、彼らが出せる資金は有限だ。中国が本当にアジアのインフラ需要に応えたいだけなら、ADBの中に「インフラ投資特別基金」を設置し、そこに資金拠出すればよかった。その方が、ADBのノウハウと人材を効率的に活用でき、機関間の協調欠如から債務返済能力を超える融資が行われるといった問題も回避できる。中国としては、既存枠組みよりは、自ら新組織を主導し、そこに資金を出したかったということだろう。

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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連載AIIBに日本はどう向き合うべきか

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

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