前回は、国際通貨ユーロの存在を揺さぶったギリシャの経済危機について取り上げました。今回は、ユーロの存続が危ぶまれる中で講じられた、投機マネーへの対策について見ていきます。

投機マネーが狙い撃ちにした「国債金利」の格差

危機がユーロ圏全体に波及し、ユーロの存続自体が危ぶまれる事態になって、メルケルはようやく決断し、「ユーロが崩壊すればヨーロッパ(統合)も失敗に終わる」と叫んで、緊急の真剣な立て直し作業を開始しました。いったん作業が始まると、日ごろは利害の対立で一向に議論が進まなかった諸問題が、強い緊張感のもとに迅速に処理されました。その気になればできるんじゃないかと言いたくなる進捗ぶりでした。

 

ユーロ危機の原因はいろいろありますが、もっとも重要なのが、金融とともに国民経済のもう一本の柱となる、財政の統合がおろそかにされていたことです。ユーロ導入にあたって財政の統合も大いに議論の対象になったのですが、作成された財政協定は、不十分なもので、予算の編成は基本的には各国の自主的な責任のもとで行われることになりました。単一通貨の財政は各国バラバラで、モザイク病状態だったのです。

 

ギリシャ危機で投機マネーの狙い撃ちにあったのは、このモザイク病が原因で発生する国債金利の格差です。

イギリスとチェコ以外は緊縮財政の協定に調印

独仏両国は危機のさなか、二〇一〇年一〇月ドービル宣言を発し、基本条約を一部改正して強力な財政協定をつくることを呼びかけました。新しい財政協定はその後二年足らずで完成し、一三年一月一日、各国の批准も終わって発効しました。

 

調印したのは、ユーロ加盟の一八か国(当時)は当然ですが、討議に参加したヨーロッパ連合(EuropeanUnion:EU)加盟のなかのユーロに参加していない九か国のうち七か国も調印しました。結局EU加盟全二七か国のうち二五か国が、厳しい緊縮を求める協定にためらうことなく調印したのです。調印しなかったのは、ユーロ問題にはすべて非協力的なイギリスと大陸ではチェコ一国だけでした。

 

新協定では、すでに条約で決められている対GDP比の赤字制限を、単年度で三%、累積で六〇%とするルールに加えて、すでに六〇%を超えているものは単年度の制限を〇.五%とし、これを超えた場合は罰金を課されるなど、きわめて厳しいものです。予算編成は財務相会議で相互に監視されるので、かつてのギリシャのようなごまかしは難しくなります。

 

このようなドイツ型の緊縮財政には、アングロサクソン系の経済学者から、かえって成長を妨げるという批判がしきりですが、いわゆる成長政策対緊縮政策という伝統的な論争とは次元が違います。ドイツは成長を妨げる無駄遣いはやめて構造改革をやるべきだと言っているのであって、緊縮のための緊縮を求めているわけではありません。この問題はこのあとも詳しく取り上げます。

 

財政協定に続く、二番目の危機対策は総額七〇〇〇億ユーロの緊急支援基金、欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism:ESM)の設立です。一二年一〇月、拠出金の分担をめぐる合意がまとまり、基金が設立されました。これで緊急事態が発生しても議会の審議などを待たずに支援金を支出することができる体制が整えられました。

 

さらに三番目の措置として、圏内のすべての銀行を欧州中央銀行(European CentralBank:ECB)が一元的に監視する銀行同盟の創設が決まり、現在ほぼ予定のスケジュールで作業が進行中です。

 

第一次危機は後述するECBのドラギ総裁の、「ユーロを救うためにはあらゆる措置をとる」というひと声で収束します。ユーロはここでモザイク病の治療を終わり、投機に対する有効な防壁を築くことに成功したと結論することができます。

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