本連載では、税理士法人FP総合研究所 代表社員・税理士の山本和義氏の共著書『相続財産がないことの確認 ー見落としてはいけない遺産整理業務の要点』(TKC出版)の中から一部を抜粋し、相続税の申告義務の有無に関わらず必要となる、相続財産が「ないことの確認」の必要性について解説します。

まずは遺言書の有無を確認

遺産は、相続人が複数人あるときは相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであることから、共同相続人間で遺産分割協議を通じて、遺産をそれぞれの相続人に帰属させる手続きが必要とされます。

 

遺産分割協議は、共同相続人全員の意思の合致によりなされなければなりません。したがって、戸籍上判明している相続人を除外してなされた遺産分割協議は無効とされます。そのため、相続手続きでは、相続人が誰かについての確認から始めることになります。

 

遺言書が残されていた場合

遺言書が残されていた場合に不動産の相続登記を行うには、遺言書(※)と被相続人の死亡の事実が確認できる戸籍謄本、又は住民票の除票があれば手続きをすることができます。

 

しかし、相続税の申告においては、法定相続人(相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人)の数によって基礎控除額を求めなければならず、被相続人の法定相続人を確認する必要があるため、遺言書が残されていた場合であっても、被相続人の出生から死亡時までの連続した戸籍が必要となります。
※ 公正証書遺言以外の遺言書によって不動産の相続登記を行う場合は、家庭裁判所の検認済証明書が必要です。

 

遺言書がなかった場合

被相続人の出生から死亡時までの連続した戸籍が必要となります。相続手続きでは、被相続人の戸籍謄本等以外に、相続人全員の最新の戸籍(以下「現在戸籍」)も必要となります。なぜ相続人の現在戸籍が必要かというと、先に死亡している相続人がいて、その相続人に子がいた場合は、代襲相続により、その子が相続人となるからです。

 

その場合、死亡している相続人の出生から死亡時までの連続した戸籍も必要となります。なお、被相続人の配偶者は、被相続人の戸籍に記載されているので、配偶者の戸籍謄本は不要です。

民法と相続税法で法定相続分が異なる養子縁組

養子縁組が行われている場合

民法第793条では、尊属又は年長者は、これを養子とすることができないと規定しています。そのため、年下の叔父や叔母を養子にすることはできませんが、養子の数の制限はありません。普通養子は、養子縁組の届出をした日から養親の嫡出子としての身分を取得し(民法809)、養親に相続が開始すると、養子は第1順位の相続人となります。

 

一方、相続税法では、基礎控除額などの計算における養子の数に関して、被相続人に実子がいる場合は1人まで、被相続人に実子がいない場合は2人までと制限しています。

 

なお、養子縁組により被相続人の養子となった者であっても、次の養子は、相続税の課税上、実子とみなすこととしています。

 

①被相続人との特別養子縁組により被相続人の養子となった者

②被相続人の配偶者の実子で、被相続人の養子となった者

③被相続人と配偶者の結婚前に特別養子縁組によりその配偶者の養子となっていた者で、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった者

④被相続人の実子、養子又は直系卑属が既に死亡しているか、相続権を失ったため、その子などに代わって相続人となった直系卑属(例えば、子や孫)

 

また、相続又は遺贈(死因贈与を含む)により財産を取得した者が、その相続又は遺贈に係る被相続人の1親等の血族(その者又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属を含む)及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額を2割加算することとされています【図表】。

 

以上のことから、養子縁組が行われている場合には、民法と相続税法で法定相続分が異なることもあるため、司法書士に相続人と相続分の判定を一任することなく、税理士も、養子縁組の規制対象になる養子か否かなどの確認をすることが必要です。

 

【図表】 相続分と2割加算

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    本連載は、2016年12月刊行の書籍『相続財産がないことの確認 ー見落としてはいけない遺産整理業務の要点』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

    相続財産がないことの確認―見落としてはいけない遺産整理業務の要点

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    山本 和義

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