今回は、建築請負契約の一部解除の可否の判例を見ていきます。※本連載では、弁護士・犬塚 弘氏の編集(代表)、共著『建築紛争 判例ハンドブック』(青林書院)の中から一部を抜粋し、建築紛争の中でも「契約の有効性・仕事の完成」に関する重要判例(判決の内容、解説)を取り上げ、紛争予防と問題解決への実務指針を探ります。

請負契約全体の解除が認められるかが争点

【ケース】

請負契約の一部解除の可否

東京地裁平成26年12月24日判決(平成23年(ワ)第28937号)

判例時報2260号57頁

 

【争点】

1 基礎に補修不可能な不具合がある場合に請負契約全体の解除が認められるか

 

2 訴え提起後の建築士の調査費用相当額の損害賠償が認められるか

 

3 請負契約解除の場合に住宅エコポイント相当額の損害賠償が認められるか

 

【判決の内容】

●事案の概要

Xらは、平成21年11月7日、建築請負等を目的とする会社であるYとの間で、鉄筋コンクリート壁式構造3階建建物の建築請負契約(設計監理業務を含む)を締結した(請負代金額は消費税込み8568万円であったが、その後、追加変更工事契約を締結し、消費税込み8841万円となった)。

 

Xらは、Yに対し、平成22年6月16日までに上記請負代金のうち、4846万8000円を支払った。

 

Yは平成22年3月、工事に着手し、杭部分の工事(33本)、基礎部分(1階床スラブを含み,杭部分を除く)の工事を経て、同年6月17日に1階壁と2階床のコンクリートの打設工事を行った。

 

ところが、多数の配筋不足などの不具合が発見されたため、XらとYとは、1階床スラブよりも上の1階部分を解体し、解体後、1階床面の状態を確認してから、良好であれば再建築することを合意し、平成22年8月6日、改めて請負代金を8906万1000円(消費税込み)とする追加変更工事請負契約を締結し、併せて、Yは、Xらに対し、既払金のうち2194万5000円を返金した。

 

Yは、上記合意に基づき、平成22年8月、1階部分の解体工事を行い(以下「本件解体工事」という)、同年9月3日、解体工事を終了させた。

 

本件解体工事後、本件土地上には本件建物の基礎部分と杭部分が残ったが、少なくとも、基礎部分にも種々の不具合があることが判明したことから、Xらは、Yに対し、基礎から解体して工事をやり直してほしい旨申し入れた。

 

しかしながら、Yは、基礎については問題がないか、補修で対応可能であるとして、補修工事を申し入れ、Xらはこれを拒絶した。

 

そして、Xらは、Yに対し、本件請負契約を解除する旨の意思表示をし、解除に伴う原状回復として、支払済みの金員の返還と土地上の基礎部分及び杭部分の撤去等を求めて訴えを提起した。

契約の存続に必要な信頼関係は完全に破壊

■判決要旨

1 基礎部分及び杭部分の不具合の存在及び補修の可否について

基礎部分の不具合については、新築建物の工事とは評価することができない状態になっており、これを補修して新築建物の工事と評価することができる状態にすることは不可能であり、基礎部分は解体して施工し直すしかない。

 

他方、杭部分の不具合については、杭の偏芯に関して33本の杭のうちの1本が偏芯しているからといって本件建物自体が直ちに危険な状態になるとも考えにくいほか、杭の施工自体をやり直す必要があるということにはならない。

 

2 本件請負契約解除の可否について

Yは、上記1の基礎部分の不具合につき解体して施工し直す義務を負うところ、Xらの催告に対してこれを拒絶したものであり、基礎部分の施工の不具合の程度からして、XらとYとの間で、契約の存続に必要な信頼関係は完全に破壊されたものであり、解除は有効である。

 

3 解除の効力が及ぶ範囲及びYが負う原状回復義務の内容について

基礎部分の工事については、Xらがこの給付を受けるについて利益を有しないから、解除の効力が及び、Yは解除に伴う原状回復義務に基づき、基礎部分を解体する義務を負う。

 

他方、杭部分の工事については、基礎部分を解体した後、既存の杭の上に新たな基礎を施工することは可能であり、設計にも問題があるとはいえないところ、基礎部分の工事と杭部分の工事や設計業務とは可分であって、Xらは、杭部分の工事や設計業務についてまで契約を解除することはできず、基礎部分の撤去・既払金から杭部分の工事と設計業務に相当する金額を控除した残額の返還を認める。

建築紛争判例ハンドブック

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青林書院

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