今回は、前回に引き続き、監理契約、工事請負契約の成否と設計の瑕疵の存否の判例について解説します。※本連載では、弁護士・犬塚 弘氏の編集(代表)、共著『建築紛争 判例ハンドブック』(青林書院)の中から一部を抜粋し、建築紛争の中でも「契約の有効性・仕事の完成」に関する重要判例(判決の内容、解説)を取り上げ、紛争予防と問題解決への実務指針を探ります。

工事請負契約の存在を否定した判決は妥当

前回の続きです。

 

本件は、店舗の内装工事につき、原告Xが設計契約の報酬残金の請求を求める本訴を提起したところ、被告Yが、原告Xとの間に、設計契約のほかに、工事監理契約及び工事請負契約が存在しており、工事内容に瑕疵があるとして、工事請負契約の瑕疵担保責任あるいは設計ないし工事監理契約の債務不履行の損害賠償の支払を求める反訴を提起した事案において、裁判所が、工事請負契約の存在、工事監理契約の存在のいずれも否定するとともに、設計契約上の瑕疵の存在も否定したものである。

 

まず、工事請負契約の存否に関しては、被告Y自身が、工事施工業者である補助参加人との間で直接建設工事請負契約を締結していることや、消防署長宛てに提出した書面にも施工者欄に原告Xではなく補助参加人を記載したこと等に照らすと、被告Yと原告Xとの間の工事請負契約の存在を否定した判決の結論は妥当であると考えられる。

「工事監理」と「工事管理」の違い

次に、工事監理契約に関して、判決では、監理業務の遂行についての合意を裏付ける直接的証拠がないことを理由にその存在が否定されたが、他方で、原告Xが被告Yに交付を求めた原告X作成に係る発注書には発注項目として「○○カフェ設計監理」と記載され、かつ、原告Xが、被告Yに、施工業者を選定して紹介までしていることや、本件契約の報酬金支払日が初回・施工開始日・竣工日に各3分の1ずつとされ、工事の施工状況に応じて支払うことになっていたこと等に照らすと、被告Yと原告Xとの間で設計業務のみならず、工事監理業務の実施についても合意されていたとみる余地が相応に存したものと考えられる。

 

なお、「工事監理」とは、監理者が、「その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認」し、実施されていない場合には工事施工者へ指摘等を行い、また、建築主への報告等を行うものであるが、「工事管理」は、施工者の現場代理人(施工管理者、現場管理者)等が、工事の適切・円滑な実施のために、工程管理、材料管理、原価管理、安全管理等を行うものであり、両者は全く異なる(「監理」は施工者から独立した監理者(原則として建築士)の業務であるが、「管理」は施工者の行う業務である)。

 

また、設計契約の法的性質については、準委任契約説、請負契約説、混合契約説等の争いがあり、近時請負契約であるとした裁判例が出ているところ、本件では、法的性質につき当事者間に争いがないことを前提にしたためか、準委任契約である旨判示されている点も注目される。

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