前回は、交通事故の後遺障害の審査をする、「損害保険料率算出機構」の問題点を紹介しました。今回は、後遺障害の認定を一手に行う「損害保険料率算出機構」の概要を説明します。

後遺障害の賠償を求める被害者にとって大きな壁」に

後遺障害の認定を一手に行うのが「損害保険料率算出機構」という団体だ。実はこの機関こそ後遺障害の賠償を求める交通事故被害者にとって大きな壁なのである。

 

損害保険料率算出機構とは「損害保険料率算出団体に関する法律」(料団法)に基づいて設立された非営利の民間法人である。そこには損害保険会社から大量の保険データが集められている。そこから各保険会社が基準とする保険料率(基準料率)や参考料率などを算出し提供している。

 

保険料率とは損害保険における保険金額(支払われる保険金)に対する保険料(保険契約者が支払うお金)の割合である。また保険料率は保険金支払いに充てる純保険料率と、経費や手数料に充てる付加保険料率からなっている。

 

ちなみに同機構は自賠責保険だけでなく、地震保険の基準料率や自動車保険、火災保険、傷害保険、介護費用保険などの参考料率を算出している。これらの数字に基づいて損害保険各社は保険事業を運営することになる。

 

つまり同機構は損害保険業界全体の利益を左右し、その舵取りをしている重要な団体だと考えてもらって間違いない。

 

同機構のもう一つの事業の柱が自賠責保険の損害調査である。損害調査とは自賠責保険への請求に対して、資料等を確認して損害の調査を行うこと、典型的には後遺障害の認定審査である。同機構のパンフレットによれば2014年度は133万件の損害調査を行ったという。

損害保険会社40社からなる「損害保険料率算出機構」

同機構がどのような団体であるかは、その構成員を見れば、よりはっきりする。同機構は会員制となっていて、保険業法に基づいて免許を受けた損害保険会社40社からなっている(2015年現在)。

 

役員構成は某大学の教授を理事長として、以下には国土交通省の元役人と民間の保険会社の社長の名前が並んでいる。そして同機構の運営費も会員からの出資に依っているのである。

 

つまり民間の損害保険会社によって運営される、損害保険会社のための組織だと言っても過言ではない。そのような団体が社会保障的な意味合いが強く、被害者救済、弱者保護の視点が重視されるべき自賠責保険の後遺障害認定を行っているのである。普通に考えれば公正で中立な認定を期待することは難しいと考えるだろう。

 

同機構が出している「組織のご案内」の中で同機構は自らの使命を「損害保険業の健全な発達と保険契約者などの利益の保護」と謳っている。「損害保険業の健全な発達」とは他でもない損害保険会社の利益を図るということだろう。

 

問題は「保険契約者の利益の保護」である。これは自賠責保険に関して言うならば加害者側の利益を保護するということに他ならない。賠償金を受ける側、すなわち被害者の利益の保護に関しては、どこにも謳われていないのである。

 

実際、弁護士として交通事故の損害賠償事件を担当すると、同機構の認定やその対応は被害者を救済することよりも、いかに等級を抑え、賠償額すなわち保険金額を減らすかということに力点が置かれていることを痛感させられる。

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    本連載は、2015年12月21日刊行の書籍『虚像のトライアングル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    虚像のトライアングル

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    平岡 将人

    幻冬舎メディアコンサルティング

    自賠責保険が誕生し、我が国の自動車保険の体制が生まれて約60年、損害保険会社と国、そして裁判所というトライアングルが交通事故被害者の救済の形を作り上げ、被害者救済に貢献してきたが、現在、その完成された構図の中で各…

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