前回は、厳しい状況に置かれる「交通事故被害者」の現状を紹介しました。今回は、交通事故の後遺障害の審査を行う、「損害保険料率算出機構」の問題点を見ていきます。

受ける賠償は、労働能力の喪失度合いにより決定

交通事故に遭遇して受傷し、その後治療を続けたものの、もうこれ以上治療を続けても根本的に改善しないと医師が判断すると症状固定に至り、その段階で治療費や休業損害はストップする。

 

症状固定をした後、何らかの後遺症が残った場合には、後遺障害として賠償を受けることになる。

 

この後遺障害の賠償を受けるには医師に後遺障害診断書(以下の図表を参照)を書いてもらい、それに必要書類を付けて損害保険料率算出機構に提出し、後遺障害の申請をする必要がある。後遺障害診断書を取り寄せるのも、また医師に書き込んでもらった診断書を提出するのも、保険会社を通して行うのが一般的だ。

 

[図表]自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書

 

 

この書類をもとに後遺障害の審査をするのが、「損害保険料率算出機構」である。後遺障害が認められるかどうかを判断し、認められる場合は自賠責保険の定める等級表に基づき、1級から14級までのどれに当たるかを判定、その結果を通知する。

 

地域差はあるが、通常は申請から2~3カ月くらいで結果が分かるが、早い場合で1カ月半のときもあれば、半年以上かかる場合もある。

 

この後遺障害の結果は、損害賠償において極めて重要である。なぜならば、自賠責の等級によって後遺障害の賠償額がほとんど決定されるからである。その内容は大きく分けて2つ、所得喪失に対する「逸失利益」と障害が残ったことに対する「慰謝料」である。

 

自賠責保険では1級から14級までどのような障害が残ったときに、どれくらい労働能力が喪失されるかが細かく決められている。

 

たとえば、1級は「両目が失明したもの」「咀嚼および言語の機能を失ったもの」「両上肢をひじ関節以上から失ったもの」などで、労働能力喪失率は100%とされている。5級は「1眼が失明し、他方の視力が0.1以下になったもの」「1上肢を手関節以上から失ったもの」などとされ、労働能力喪失率は79%となっている。

 

このように労働能力喪失率は1級の100%から14級の5%まで等級ごとに段階的に定められているのである。

後遺障害の審査結果の理由や、審査の経過は不透明

これまでの連載で症状固定までの問題点を指摘した。この段階までに、被害者の多くは保険会社や保険制度そのものの不条理で非情な実態に憤ったり傷付いたりする。しかしそれは前段階にすぎない。むしろその後に続く、後遺障害の認定手続きに、より大きな壁と不条理が立ちはだかっているのである。

 

後遺障害の結果は書面で通知されるのだが、送られてくる認定結果の書類には結果だけが1行書かれていて、その理由や審査の経過はわずか数行しか書かれていない。

 

なぜ自分の後遺障害がこの等級なのか分からないのが通常であろうし、適正なのかどうかも判断できないはずだ。保険会社の担当者に問い合わせても、「不服があるなら異議申し立てがあるからそちらで何とかするしかない」と告げられるだけだ。

本連載は、2015年12月21日刊行の書籍『虚像のトライアングル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

虚像のトライアングル

虚像のトライアングル

平岡 将人

幻冬舎メディアコンサルティング

自賠責保険が誕生し、我が国の自動車保険の体制が生まれて約60年、損害保険会社と国、そして裁判所というトライアングルが交通事故被害者の救済の形を作り上げ、被害者救済に貢献してきたが、現在、その完成された構図の中で各…

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