今回は、EUに「保守化」の波が押し寄せている原因を考察します。※本連載は、評論家・作家として活躍する宮崎正弘氏の著書、『世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、「世界大乱」とも言うべき状況のなか、国際社会の行方を占います。

急速に浮上した「銀行の不良債権問題」

衝撃はむしろ南欧諸国、とくにスペイン、ポルトガル、そしてイタリアに強く出た。イタリアの老舗銀行モンテデイパスキディシエナの不良債権問題に対して市場の懸念が強まり、同行の株価は年初来80%近くも下落した。暴落といっていい。

 

[図表]南欧諸国とその周辺国

 

すでに2015年以来、ドイツではフォルクスワーゲン(VW)の不正データ事件で、経済が傾きかけ、最大のドイツ銀行の経営不安が高まり、そのドイツ銀行の「CoCo債」が暴落、日本を含む世界的な株安となっていた。

 

この不良債権問題はブレグジット以後、急速に浮上した。EUとの交渉によってはイタリアだけの問題にとどまらず、EU全加盟国、ユーロ圏の銀行システムの不安となって世界的なリスクになる危険性があるからである。

 

リーマンショック後、アメリカは政府とFRBが一丸となって不良債権買取機構を設置するなどして、銀行と証券の大規模な再編が進んだ。しかし、ユーロ圏ではギリシャの国家財政における粉飾問題から「ソブリン危機」が発生し、ギリシャのデフォルト懸念が起こったため、根本的な不良債権処理が遅れた。

 

とりわけ中小企業向けの融資が多いイタリアの銀行にとって、経済の悪化、景気の低迷が大きく響き、企業倒産を急増させてきた。

 

すでにモンテデイパスキディシエナの不良債権比率は40%を超えており、もはやデフォルトは避けられないといわれた。2016年7月末、増資による緊急策で一時的に破産を逃れたものの、根本的解決とはいえない。

 

景気低迷の流れを受けてイタリアでは反EU、反ユーロを謳う政党「5つ星運動」が躍進し、ローマ、ミラノの市長選挙に勝利した。

 

[写真]ローマ初の女性市長となった「5つ星運動」のビルジニア・ラッジ

 

レンツィ政権は、これらの難題を前に風前の灯となっており、公的資金注入による銀行救済(ベイルアウト)がなされた場合、国民から「銀行の怠慢を許した」「モラルハザードだ」と批判する声が出る。つまりレンツィ政権も八方ふさがりの状況で、いずれユーロ圏の陥没、分裂あるいは世界の金融システムへの打撃となる。

主権の曖昧さや、統一通貨ユーロに対する不満が噴出

こうした経済的混乱に加えて全欧に拡がりつつあるのが、保守の大躍進という地殻変動だ。EU加盟が実質的には各国の主権放棄であること、さらに統一通貨ユーロは各国の経済主権喪失であるということへの不満が噴出した結果であり、全欧の保守派の団結もみられる。

 

イギリスのEU離脱決定直前の6月17日、オーストリアの右派政党「自由党」のハインツ・シュトラーヒェ党首の呼びかけで、ウィーンにフランス「国民戦線」のルペンをはじめ、ドイツの「ドイツのための選択肢」、イギリス、イタリア、ベルギーの右派政党の代表が集まり、会議が持たれた。

 

つまり過去半世紀にわたって欧米を覆ったグローバリズムに対する思わぬ側面からの反撃であり、怪しげな文化多元主義への挑戦でもあった。EU離脱の動きは、これからフランス、イタリアなど各国に拡がる勢いだ。

 

基底にある潜在的心理とは、移民問題への嫌悪、「多文化主義」への疑問なのである。左翼リベラリズムに立脚する欧米のメディアは、これとはベクトルが反対だから、保守主義を「極右」と書いて罵る。だが、その政治的プロパガンダも、選挙結果を見れば民衆がマスコミの主張を鵜吞みにしていなかったことが浮かび上がる。

 

文化多元主義とかグローバリズムは、共産主義運動が破綻したあと、左翼が巧妙に逃げ込んだ「隠れ蓑」であり、その偽装が露呈したのだ。

世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変

世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変

宮崎 正弘

徳間書店

英国のEU離脱決定で中国は瓦解する! 親中派のキャメロン首相は辞任、メイ首相誕生で対中政策は大転換。欧州の反中意識はドミノ倒しのように広がり、中国の欧州投資、AIIB、人民元の国際化も次々と破綻する。国際裁判所で南シ…

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