今回は、イギリスのEU離脱決定によって、EUは今後どうなるのかを探っていきます。※本連載は、評論家・作家として活躍する宮崎正弘氏の著書、『世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、「世界大乱」とも言うべき状況のなか、国際社会の行方を占います。

頻発するテロ、押し寄せる難民…EUは難しい立場にある

それにしてもヨーロッパ政治は、「独仏蜜月」によるEU、通貨統合「ユーロ」という従来のグローバリズムの基本姿勢が真っ正面から挑戦を受けたかたちとなった。

 

民意を反映するEU議会もあるが、最終的な政策決定権はEU理事会にあり、ドイツ、フランスが主導している。したがって「反ブリュッセル感情」の爆発が今後も継続されるだろう。

 

現に、「BREXIT」に続いて「FREXIT」(フランスの離脱)、「ITEXIT」(イタリアの離脱)、「NEXIT」(オランダの離脱)の動きが顕在化した。

 

オバマはTPPが絶望的になったことを嘆き、朋友だったキャメロンに電話して慰めた。しかし、ヒラリー・クリントンは「TPPに反対し、みなさんの雇用を守り、アメリカを守る」と従来のTPP推進路線を修正しており、トランプとバーニー・サンダースもTPPに反対しているからアメリカ議会での批准は望めない展望となった。TPPは空中分解へいたる可能性が高まったと見るべきだろう。

 

フランスでは、2017年5月に予定される大統領選挙でマリーヌ・ルペン率いる保守政党の国民戦線が勝利しそうな勢いにある。2015年1月のシャルリー・エブド襲撃事件から同年11月のパリ同時多発テロ、そして2016年7月にはニースでトラックによる大量殺戮テロなど、度重なるテロ事件が勃発し、オランド大統領への批判が高まっているからだ。

 

すでに保守政権となっているハンガリーは、EU域内の移動の自由を定めた「シェンゲン協定」の加盟国であるにもかかわらず、オルバン・ヴィクトル首相はシリア難民を押し返すために、セルビアとの国境175キロメートルにわたって有刺鉄線のバリケードを築いた。EU本部から非難されたが、彼の人気は急伸した。

 

2016年5月末のオーストリア大統領選では、保守政党である自由党の候補者が僅差で敗退したものの、開票手続きに不備があったという理由で、選挙やりなおしとなった。

EUの弱体化は中国経済にも悪影響を及ぼす

このように、世界はきわめて不安定な状況にある。今後、何が起こるか。

 

過剰反応と市場の狼狽は、投資家のパニック心理を表すものでしかない。長い目で見れば、ヨーロッパ結束、政治同一化という長年のブリュッセルのエリートが夢想した政治統合は幻想となって終わり、EUはやがて分裂を繰り返し、ユーロからギリシャ、スペイン、ポルトガルの離脱への動きが本格化し、ヨーロッパの弱体化が起こるだろう。

 

もしフランスでルペンが大統領となれば、フランスのEU離脱は明確なスケジュールに入ってくるから、最大の悪影響を被るのは蜜月相手だったドイツとなる。

 

そして、そのドイツでも2017年に連邦議会選挙と首相選挙がある。右派政党で移民反対派の「ドイツのための選択肢」が勢力を伸ばしてきており、メルケルが首相に再選されるかどうかも不透明だ。

 

こうした動きは、EUに貿易黒字を大きく依存する中国にドミノ倒しのように影響をおよぼし、中国経済の崩壊を加速させていく。その意味では、EUとの貿易量が比較的少ない日本経済にはそれほどの悪影響はないはずである。

 

本書では、いま全世界で起きている地殻変動を見据えながら、腰を落ち着けて世界情勢の変化、とりわけヨーロッパショック以後の中国、アメリカ、ロシア、日本という4つの大国とその関係性の変化を検証してみたい。

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