今回は、中国の銀行口座を「エスクロー口座」のように使う方法について見ていきます。※本連載では、中国ビジネスコンサルタントで、Mizuno Consultancy Holdings Limited代表取締役社長・水野真澄氏の著書『中国・外貨管理マニュアルQ&A』(株式会社チェイス・チャイナ)から一部を抜粋し、中国でのビジネスを考える方々に向けて、Q&A方式で銀行口座開設のポイントなどを解説します。

中国にはない「エスクロー口座」制度

Question エスクロー口座

中国にはエスクロー口座制度はありますか

 

Answer

・エスクロー口座とは、特定事業から生じた現金収入を、目的に応じた引出しに限定するように管理された口座ですが、現時点では中国にこの制度はありません。

 

・エスクロー口座と同様の効果を生み出すためには、銀行口座の引出し権を金額に応じて設定するなど、運用面での対応が必要になります。

 

特定案件に紐付いた事業(プロジェクト)を行うための会社を設立する場合、その支出を特定の内容(融資の返済、保証料の支払い、特定コストの充当など)に限定したい、もしくは、引出しに優先順位をつけたい場合があります。

 

このような場合に開設する口座をエスクロー口座といい、資金の引出しを、目的に合致した内容に限定するよう、銀行、信託銀行が管理を行います。

 

残念ながら、中国においては現段階ではこういった制度がないため、エスクロー口座の開設はできません。

銀行口座の「引出し権」を金額に応じて設定

実務面で対応するためには、銀行口座の引出し権を、金額に応じて設定することです。

 

中国で会社を設立する場合は、特定目的会社であっても、董事長、総経理などを任命する必要があり、預金の引出し権についても、一義的には、現場管理を行う人間に権限を付与せざるを得ないでしょう。そのうえで、一定の金額を超過する場合は署名者を一名追加する、さらに、一定額を超過する場合には、もう一名追加するなど、金額が多額になる場合は、事業参画当事者複数のサインを必要とすることで、引出し権を制限するのがこの方法の趣旨です。

 

ただし、この方法の難点は、銀行での実務が煩雑となることから、銀行が応じてくれる場合と応じてくれない場合があることや、当事者が多数になる場合は、署名権の設定が難しいことです。

 

何れにしても、エスクロー口座制度がない以上、銀行口座の引出し権を制限する方法や、社内規定(定款・財務管理規定)にルールを織込むなど、運用面での対応しか方法はありません。

中国・外貨管理マニュアルQ&A[2016改訂版]

中国・外貨管理マニュアルQ&A[2016改訂版]

水野 真澄

株式会社チェイス・チャイナ

2013年夏の前作発売から2016年現在までの、めまぐるしい中国外貨管理制度の変更をすべてキャッチアップした、3年ぶりの全面改訂版。 好評のQ&A方式を踏襲し、複雑な中国の外貨管理(全100問)を一問一答で分かりやすく解説。…

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