世代継承性の観点から見る「老舗企業の事業承継」

前回は、人生のライフサイクルと事業承継を考えました。今回は、世代継承性という観点から「老舗企業の事業承継」について見ていきます。

世代継承性の類型にはどのようなものがあるか?

前回紹介した世代継承性は、親が子を産み育むという行為を通じて中年期の停滞感を克服して自己の心理的統合を図ろうとすること、つまり中年期の発達課題のことでした。では、この世代継承性の概念とは、親子間の現象だけを説明することなのでしょうか。この問いに対して、コートルは多様な世代継承性の類型を提示しています。

 

第一の特徴が、世代継承性の「対象」に関することです。自分の子どもに加え、企業の従業員などが対象とされています。つまり、先達の職人が次世代の職人に関わるようなことも含まれるのです。

 

第二の特徴が、世代継承される「内容」に関するものです。次世代への継承内容が、先代や先達からの技術や文化までを示す概念となっています。つまり、単なる親子間の躾だけではないのです(図表参照)。

 

【図表 世代継承性の類型】

(出所)Kotre(1984)の表1(p. 12)について、将来世代総合研究所編(1999)の記述(14頁)を参考に筆者が訳出、引用。
(出所)Kotre(1984)の表1(p.12)について、将来世代総合研究所編(1999)の記述(14頁)を参考に筆者が訳出、引用。

二つの世代承継性が内在する老舗企業の事業承継

コートルが指摘する世代継承性の中で注目するべきなのが、「文化的世代継承性」です。コートルの世代継承性の類型の中で、この「文化的世代継承性」以外の類型のすべては、例えば、親と子、仕事上の上司と部下など隣接する二世代間に関するものです。他方、最後の「文化的世代継承性」とは、継承内容が文化や習慣を含み、数世代にわたる現象を説明する概念といえるでしょう。

 

これまでの考察を踏まえると、数世代にわたり代を重ねてきた老舗ファミリー企業(創業100年以上)の事業承継では、二つの世代継承性が内在されていることが示唆されます。

 

第一に、「親」としての現経営者から「子」としての後継者への二世代間にかかわる世代継承性です。つまり隣接する世代継承性のことになります(前回の連載を参照)。

 

第二に、先述の「文化的世代継承性」、つまり数世代にかかわる世代継承性のことです。老舗ファミリー企業の場合、後継者には創業以来の商慣習やしきたりが求められることが多くあります。老舗企業の経営者は、後継者に関与する際に、「親」としての性格に加えて、「伝統や慣習の継承者」としての役割をはたそうとする存在であるといえるでしょう。

 

言い換えれば、老舗企業の事業承継では、経営者が「伝統や慣習の継承者」と認識するからこそ、先代世代から事業を大切に預かり後継者に引き継がねばならないという思考と行動に繋がりやすいといえるのかもしれません。「文化的世代継承性」の概念によって、数世代にわたって事業承継されてきたような老舗企業の事例から、多くのことを学ぶことができるかもしれません。

 

<参考文献>
『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(落合康裕、白桃書房、2016年)
『いまなぜ世代継承性なのか-その概念解明、基礎理論及び実践課題』(将来世代総合研究所編、将来世代国際財団、1999年)
Kotre, J. N. (1984) Outliving the Self. Generativity and interpretation of Lives. London: Hopkins University Press.
McAdams, D. P. & e St. Aubin ,E. (1992). A Theory of Generativity and Its Assessment Through Self-Report, Behavioral Acts, and Narrative Themes in Autobiography. Journal of Personality and Social Psychology, 62(6) 1003-1015.

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

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連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

日本経済大学 経営学部 准教授 名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科 客員教授

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。
大和証券(株)入社後、本社人事部、大和証券SMBC (株)金融法人部をへて、2014年より日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授就任。ファミリービジネス学会理事。
現在、ファミリー企業の事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、ビジネススクールにおけるケースメソッド形式による事業承継講座を担当するほか、企業の事業承継に関する助言指導や実務家向けセミナーの講師などを務める。2015年末に日本で初めてとなる同族経営の実証研究書となる『ファミリービジネス白書』を同友館から発刊。同書の初代企画編集委員長を務める。

著者紹介

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継…

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