株式会社GCIアセット・マネジメントで活躍中の日本人ファンド・マネージャー山本匡氏へのインタビューを、全3回にわたってお伝えします。聞き手は、香港に拠点を置く日系金融機関NWB(Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank)でCOOを勤める長谷川建一氏です。

理論的な研究から資産運用の実務へ

長谷川  本日は、インタビューをさせていただきます。よろしくお願いします。先ず、GCIアセット・マネジメントの沿革についてお話しいただけないでしょうか?

 

山本 よろしくお願いします。GCIは2000年に創業した、オルタナティブ投資を専門に行う運用会社です。戦略の開発から営業・オペレーションまで全て自分たちで行う形態を取っています。特に、戦略の開発においては、学術的と言いますかサイエンティフィックなアプローチを取っているのが特徴です。

 

長谷川 山本さんがファンドマネージャーとしてGCIに参画したキッカケは、何でしょうか?

 

山本 GCIに入ったのは、個人的な縁が繋がったことからでした。私は、東京大学の研究室で高橋明彦先生(経済学研究科教授)に師事し、大学院に進みファイナンスを専攻していました。高橋先生は、大学で研究される傍ら、GCIのアドバイザーをされていたこともあって、私をインターンとしてGCIに紹介いただいたのです。その縁が大きかったです。

 

長谷川 理論的な研究をするという学問の世界と、運用の成果や優勝劣敗がハッキリする実務の世界をインターンとして見られる中で、資産運用の実務の世界が自分には向いていると思われたことはあったのでしょうか?

 

山本 自分としては、運用理論という言ってみれば実学に近いことを研究してきた訳で、外から見た運用会社での資産運用の世界で何ができるかを、インターンとして考えていました。そして、理論を実務に応用することも図ってきたのです。博士課程終了後、自然な流れとして、そのままGCIにお世話になりました。

 

長谷川 インターンに最初来られたのはいつでしょうか?

 

山本 2005年です。修士の一年目の時です。

GCIの特徴である科学的アプローチ

長谷川  サイエンティフィックなアプローチが特徴の運用ファンドということですので、理論的な部分を掘り下げて、聞かせてください。

 

山本 金融の世界では、デリバティブズ(オプション)のプライシングモデルであるブラックショールズの理論と、資産運用の実務でも使われるマーコビッツのポートフォリオの理論という二大理論があります。ブラックショールズ理論は、オプションのような、ある原資産に対して非線形なペイオフがあった時に、原資産を動的に取引していくことでそのペイオフを複製することができ、無裁定条件を導入することでオプション価格はその複製コストと等しく決まるというものです。これは単一資産の動的な議論で、一方のマーコビッツのポートフォリオは様々な資産を効率的に組み合わせて持てば、リスク対比で見た期待リターンを改善できますという多資産の議論です。当社のファンドは、多資産で動的な理論を活用しています。基礎となる研究では動的なポートフォリオのリターン/リスク最大化と目標のペイオフのコスト最小化の関係を明らかにしました。実際の運用では、どういうペイオフ分布が欲しいかという事を設定して、多資産を動的に取引してそのペイオフ分布の複製コストを最小化するというアプローチを取っています。

株式・債券・為替のリスクを横断的にコントロール

長谷川 もう少し、それまでの既存理論に基づくアプローチとどこが違うのかを教えてください。

 

山本 マーケットは、市場参加者もそうですが、株式、債券、為替とある程度分断されていて横断的には取引されていません。しかし、実際には、リスクとして、完全に分かれているわけではなく、不可分なところがあります。為替のリスクを株式のポジションによって一定程度ヘッジが出来たりすることもあり得るのです。むしろ、そうしたリスクコントロールの方が、結果として、より効率的にポートフォリオを構築できます。伝統的なアプローチでは、損失を定量化して、それ(損失)が一定量に達するとポジションをカットする(ロスカットルール)ことで、リスクをコントロールしています。すなわち、ポートフォリオは、株式、債券、為替とそれぞれ単体のポジションとして管理されている事がほとんどですが、実際には、為替と債券、株式と為替など、リスクは横断的にまたがっており、逆に言えば、各ポジションがリスクを補完するような組み合わせが実現できるのです。各ポジションの単体評価では、市場の振れ幅の中で、カットしてしまうことになるような場合でも、全体的なポートフォリオとしてポジションを組み、評価していけば、より効率よくダウンサイドを抑えることは可能なのです。

 

(中編に続く)

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、GCIアセット・マネジメントおよびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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