今回は、「分配金が高い」=「良い投資信託」とは言い切れない理由を解説します。※本連載では、フィデリティ投信株式会社フィデリティ退職・投資教育研究所所長・野尻哲史氏の著書『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(明治書院)の中から一部を抜粋し、日本社会の現状を踏まえた、「貯蓄ゼロ」から始める投資の方法を紹介します。

批判も多くある「毎月分配型投資信託」だが・・・

元本や投資収益のなかから、資金の引き出しとして投資家に分配する分配金を、利息や小遣いのように認識する人が多いようだ。低い分配金を「悪い投資」と考えがちだが、高い分配金を求めるのもリスクが伴うことは理解しなければならない。

 

毎月分配型投資信託に投資している人は多いと思います。ここ数年、投資信託と言えば毎月分配型と言われるほど設定が相次ぎ、また資金の流入も進んでいます。年金は2カ月に1回、その2カ月分をまとめて受け取ることになっていますが、年金受取の無い月に分配金を出す仕組みを考えたところ、これが徐々に浸透し始め、最終的には分配金を毎月出すタイプが主流になってきました。

 

しかし、投資の効率という観点から考えると投資資金を引き出すことになる毎月分配型投資信託は、「投資の本来の有り様ではない」という批判が多くあります。事実、資産をつくり上げていこうとする資産形成層には向かない金融商品だと言えます。

 

もちろん、分配型投資信託は引き出し機能を持っていることで、「使いながら運用する」という退職後の資産運用には効果的に使えます。上手に使って資産の長持ちを図りたいところです。

 

もちろん、分配金への誤解や課題が多いことも理解する必要があります。投資家が分配金を利息のようなものだと誤解していること、そのため相場の変動に応じて分配金が減ることに拒否反応が強いこと、結果として高い分配金を求めてより高いリスクの商品に資金が向かっていること、などが起きているからです。

 

少し前になりますが、2010年2月に実施した分配型投信保有者3340人を対象にしたアンケートでは、「頭でわかっているのに分配金の多さに目が眩んだ」姿が見受けられました。たとえば、「次に投資するなら、どの投信か」と聞いた設問では、「分配金は増えないが基準価額は上がる投信」を選んだのは全体の56.6%、「分配金は高くないがリスクの低い投信」を選んだのが29.4%でした。

 

逆に「分配金が増えるが基準価額は下がる投信」(1.9%)、「分配金は高いがリスクも高い投信」(5.0%)といった選択肢はほとんど選ばれませんでした。明らかに分配金よりもリスクや基準価額の動きを重視すると答えており、理屈に適った投資態度だと言えます。

 

しかし、同じアンケートの別の設問で、「どれくらいの分配金があれば満足か」の設問には、「今より5割くらい多い」が33.7%、「今の倍以上」が30.1%に達しています。3分の2が「もっとかなり多い分配金を」と望んでいるのです。頭ではリスクのことをわかっているのに、実際の投資行動は分配金が多い方に流れてしまっている姿が窺え、残念なところです。

退職金の「使い道と運用手段」がミスマッチ!?

分配金は元本や投資収益のなかから資金の引き出しとして投資家に分配するものです。そのため分配金を出すたびに、その分、投資信託の基準価額が下がっていることが理解されなければなりません。

 

しかし、受け取った分配金を銀行預金にしている人が多いように、その投資行動からみると分配金は、例えば「銀行の利息」のようなもの、「毎月のお小遣い」のようなものと思っている節があります。そのため分配金が下がると、それは「運用成績が悪くなった投資商品」と考えがちなのです。

 

誤解に基づいた人気の離散を避けようとして、できるだけ分配金を引き下げないで済まそうとする力も働きます。本来、分配金は運用成果に基づいて、増えたり減ったりすべきものなのですが、結果としては変動しない分配金、すなわち「定額引き出し」になるわけです。

 

さらに心配なのが、世界的な低金利が続く中、十分な分配金を確保するために、よりリスクの高い投資対象を組み入れた投資信託が求められるようになってきていることです。分配金の高さだけに目が行って、リスクを十分に把握できていない例もありそうです。特に高齢者ではその可能性が高く、思わぬ損失につながらないように十分検討したうえで投資をする必要があります。

 

受け取った分配金の使い方にも懸念があります。退職金の使い道で「(介護や入院などの)万一の備えのため」としている人が、分配型投信に多く投資していました。これでは将来の備えのための成果を分配金で先食いしていることになって、退職金の使い道と運用手段がミスマッチしたままです。

 

また、「分配金の使い道」を尋ねると、分配型投信保有者3340人のうち52.8%が「将来のための貯金」としています。分配金を受け取れば、当然ながら税金を支払うし、投資の複利効果さえ犠牲にします。これでは効率的な投資にはなりません。

 

もちろん、前述のとおり、高齢者が年金の補完として分配金を使うのは理に適っていますが、60代以上の男性の41.0%が、また60代以上の女性の42.3%が分配金の使い道として「将来のための貯金」としているのは年金の補完になっていません。分配型投資信託の重要性と使い方を十分に理解して、退職後の投資対象として検討してほしいものです。

 

【図表】

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    本連載は、2015年3月2日刊行の書籍『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』から抜粋、一部加筆したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活

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    野尻 哲史

    明治書院

    老後の医療費はどれくらいかかるのか、どこに住めばいいのか、どんな生活ならできるのか、年金はどれくらい受け取れるのか、資産運用はどうすればいいのか…。ひとつひとつを突き詰めていくことも大切ですが、突き詰めることが…

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