事業承継の選択肢を一気に広げる「信託」の活用

本連載は、ウィル税理士法人編著(執筆:代表税理士の親泊伸明氏ほか)の書籍、『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』(マスブレーン)の中から一部を抜粋し、「信託」を活用した具体的な事業承継対策をご紹介します。

経営権の承継はスムーズでも「財産権」は?

経営者にとって最後の大仕事は、次の世代への事業承継です。経営者はいずれ誰かに会社を委ねることになりますが、経営的には二つのことが必要になります。一つは、「経営権(議決権)の承継」であり、「代表取締役社長」の交代です。「経営権の承継」は、オーナー経営者であれば、問題なく行うことができます。

 

もう一つは、「財産権の承継」であり、現経営者の所有する「株式」の承継です。後継者が社長になっても、株式を所有しなければ実質的な経営者とはいえないでしょう。オーナー経営者が所有する株式をいつ承継させるかということが大きな事業承継の問題となります。

 

子供たちにうまく経営(経営権の承継と財産権の承継)を引き渡せるのか、また、後継者以外の子供たちへの相続はどうするのか、どうすればできるだけ節税することができるのか、相続の方法によって、その効果は大きく違ってきます。

 

事業承継の場面でも、信託を活用すればさまざまな、いままでできなかったような事業承継の問題点を解決することができます。

 

本連載では、具体的なケースにもとづいて、信託でどのような課題を解決し、どのように信託を活用することができるのかを見ていきます。なお、これ以降、信託のイメージをしやすいように、受益権のことを「財産権」として記載しています。

株式の評価額が低いうちに長男へ贈与したいが・・・

<事例>

田中さん(75歳)は、大阪府内で50年間、建築関係の小売販売業を営んでいるオーナー経営者です。田中さんは、朝早くから夜遅くまで、毎日現場に出て、働き詰めの日々を送ってきました。不況にも関わらず業績は毎年少しずつアップし、現在、従業員を80名も抱えるほどに成長しました。

 

また、田中さんには奥様、長男、次男がいますが、長男は会社で働いています。田中さんは、後継者にも恵まれ、このまま会社が順調に成長するのは、従業員と家族のおかげで有り難いことだと思っています。ただ、困ったことに、後継者の長男に経営を任せることはまだ不安に思っています。

 

しかし、税理士から、後継者が十分に育ってから会社を譲ったのでは、会社の株式の評価額が大きくなり相続税が高くなってしまうので、前もって株式を贈与していくほうがいいと提案を受けたのです。また、健康的にも不安を抱えていて心配のタネが尽きません。そこで、会社を次の世代に譲って行くことについて具体的に考えることにしました。

 

【図表】家系図

 

<問題点>

田中さんは、顧問税理士のアドバイスを受け、株式の評価額が大きくならないうちに後継者の長男に、株式を譲っておこうと考えました。

 

贈与を行うと贈与税の対象となりますが、1年に1人に対して110万円までの贈与には贈与税はかかりません。また、相続時精算課税制度を活用すると、2,500万円まで非課税、非課税枠を超えた金額に対しては、一律に20%の贈与税が課税されます。いずれにせよ、今のうちから毎年少しずつ株式を後継者に譲ったほうがよいということになりました。

 

株式を譲ることは会社の経営権と財産権を譲ることです。毎年少しずつでも、株式を譲っていくことは、会社を譲っていくことになります。しかし、長男が後を継ぐとはいえ、まだまだ経営を任せられる状態ではありません。田中さんは、前もって相続税対策をしなければいけないと思いながらも、会社の経営を考えるとどうすればよいのか分からなくなりました。

 

次回は、田中さんが抱える問題を解決するスキームを紹介します。

本連載は、2016年10月27日刊行の書籍『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載「信託」で解決する会社の後継者問題

ウィル税理士法人 代表社員税理士

昭和31年、大阪府出身。昭和52年に日本経営グループの菱村総合税務会計事務所(現 税理士法人日本経営)に入社。平成14年、現 ウィル税理士法人の代表社員として現在に至る。税理士、一級建築士、社会保険労務士、行政書士の資格を有する。

ウィル税理士法人WEBサイト:http://will-tax.co.jp/

著者紹介

経営者と不動産オーナーのための 信託・相続

経営者と不動産オーナーのための 信託・相続

ウィル税理士法人

マスブレーン

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